聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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「和人くん、君、おおかたあの言い伝えの二人の話を聞いて、あの二人が実は恋人同士にあったとか、思ったんじゃないの? あるいは、あの二人が子供をつくって、その子供をつかって穴から脱出したとでも?」

 図星だった。
 和人は無意識に息をのみ、幸子から少し離れた。

「それで、この私のことを意識するようになったのね。あの二人に重ねて。年上の女と少年、今の私たちに似てるのは事実だものね。もっとも私はあの言い伝えに出てくる女よりも、さらに年上だけど」

 幸子はため息をついた。和人には、なぜかやけに大きなため息に聞こえた。

「で、でも、幸子さんは、今、孤独なんじゃない? だとしたら、俺の、いや、僕がそばにいたほうがいいと思うんだ。幸子さんの事情も知ってるし」

 和人の頭には、孤独で震える少女の姿があった。あれが、幸子の真の姿なのだと、和人は思っていた。
 幸子は黙っていた。
 だが急に前を向くと、車を発進させた。

「幸子さん?」

「仮に私が孤独だったとして、君は女の孤独につけ入る気なの?」

 冷たく、重い声だった。

「他の多くの男たちと同じように、女が隙をみせたらすぐに襲いかかろうっていうわけ?」

「それは…… いや、っていうか、そんな言い方しなくても……」

「それから、君の推理は間違えてる。もしその方法で二人が脱出したなら、あの言い伝えの最後に出てくる、町で少年を見かけたという村人がなぜ商売で金持ちになったのか、説明がつかないわ」

 和人は言い伝えの内容を思い出していた。確かに村人が一人、大人になった、穴に投げられた少年と再会している。大人になった少年は金持ちになっていたが、再会した村人も商売が成功して金持ちになったという。一方で、庄屋のほうは貧しくなっていったとのことだった。

「でも、それは話の本筋と関係あるんですか? 別に二人が穴から脱出した方法とは関係ないんじゃ」

「いいえ。あの手の言い伝えは、大抵は何かの教訓か、実際にあった出来事のどちらかなのよ。どちらにしても、無意味な話を残す意味がないわ。つまり、あの再会した村人が金持ちになっていたという文も、何かの教訓を含んでいるか、あるいは実際にあった出来事なの」

 幸子はそのまま説明を続けた。和人には、それが自分に口を挟ませないためのような気がした。

「たとえば、日本各地にある鬼に関する伝承や昔話は、実際にかつて日本に難波などでやって来た外国人に由来するという説があるわ。彼らの肌の色や、身体の大きさが当時の日本人には鬼に見えたのね。一方で、実際に起きた疫病や飢饉を、鬼に例えている場合もある。鬼が来て多くの食べ物を持っていまったり、怪我人や病気が流行ったりしたという話の場合は特にそう考えられるわ」

 和人は黙っていた。
 急速に、幸子への思いが冷めていくのが分かった。
 幸子が傷ついたいたいけな少女に見えたのも、自分を頼りにしてくれているように思えたのも、すべては錯覚だったのだ。
 
「だからね、君の推理は間違いなの。あの再会した村人の伏線を回収しない限りね」

 幸子は前を見たまま、きっぱりとそういった。
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