聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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 帰り道は長く感じた。
 道路が混んでいたのもあるが、それ以上に幸子の存在が和人に重くのしかかっていた。運転席から彼女の放つ冷たいオーラが、和人の心を突き刺していた。
 和人が家に着いたとのは、まだ九時前だった。

「今日はお疲れ様。ただ今日の君の態度は少し考えたほうがいいわ」

 幸子はそれだけいうと、去っていった。

「あ、お兄ちゃん、ずいぶん早かったね」

 ゆきが二階の自室から顔を覗かせた。

「そのまま一泊するかと思ったのに」

 和人は力なく首を振るだけだった。
 母親が用意してくれた遅めの夕飯を食べると、和人は部屋にこもった。
 確かに、和人自身、いつの間にか調子にのっていたのは認めざるをえない。
 だが幸子の反応も過敏すぎるのではないだろうか。 
 あれが自分の孫のような年の少年に対する態度なのか?
 そもそも幸子の美しさは誰もが認めるところ。その美しさに目が眩んだ男は、これまでにもたくさんいたはず。そもそもかつては新聞で紹介されたり、負傷兵の慰問に訪れるくらいなのだ。
 それなのに、なぜ自分だけが怒られなければいけないのか?
 調子にのったから?
 失礼な態度をとったから?

「うーーー!」

 和人はベッドの上で枕に顔を押しつけながら、声にならない声をあげた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 突然、ゆきの声がした。
 ドアから心配そうに顔を覗かせている。

「ノックぐらいしろよ」

「ごめん」

 ゆきはベッドの端に腰掛けた。

「幸子さんと何かあった?」

 ゆきがそっと聞いた。
 ゆきの声がいつの間にか母親に似てきたことに、和人は気づいた。

「あった」

「何があったの?」

 和人は起き上がると、今あったことをすべて話した。
 自分がいつの間にか幸子の美しさにのめり込んでいったこと、幸子が疲れ、傷つき、自分を必要としているような気がしていたこと、幸子から「女の孤独につけ入る気なのか」と責められたこと。
 和人は、できるだけ淡々と、客観的に事実だけを話すようにした。
 自分が惨めで、かっこ悪くて、そうでもしないと涙があふれそうだった。
 話が終わったとき、ゆきがどんな反応をするか、和人は少し不安だった。
 ゆきは少し俯いた姿勢のままいった。

「あのババア」

 ゆきは少しだけ笑っていた。
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