聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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こんがラガる

1.

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 ゆきにとって幸子が大切な存在であったことは間違いない。並ぶもののない美しさ、知性、経験も魅力的だったが、町の人々から畏怖の念をもたれていることも、ゆきの目にはかっこよく映っていた。そして、そんな女性と対等に会話できる母や、緑亭館に頻繁に出入りできる自分たち家族のことも誇らしく思っていた。
 だが今、ゆきの中で幸子は大切な家族を、兄を侮辱した存在へと変わっていた。
 そもそも幸子は、自分たち遠山家の助けがあって生活ができているはず。確かに莫大な資産を有しているし、自分たちも、町の人々もその恩恵に預かってはいるが、普段の生活に関しては自分たちの援助がなければ困難なのも事実。
 そういう意味では、ゆきの中ではもともと、幸子は介護の必要な独居老人というイメージもつくられていた。
 そこに今回の幸子の和人に対する態度を聞かされ、一気に怒りの対象へと、矢印は大きく振れた。
 まずゆきは幸子の家へと行かなくなった。
 突然のことに、両親は少し怪訝そうな顔をした。
 だが結局は何もいわなかった。 
 幸子のほうから連絡が入ることもなかった。
 ゆきは、それを宣戦布告と解釈した。
 時間が経つにつれ、和人は幸子ともう一度話しあいたいと思うようになったが、ゆきがそれを許さなかった。

「お兄ちゃん、ここで甘い顔したら、あのババア、また調子にのるよ」

「でも、向こうは年上なんだし……」

「年上だから何? 幸子さんだって一皮剥けば、ただの後期高齢者、私たちの税金で贅沢してる年寄りだよ」
 
「あの人が金持ちなのは、生まれつきだよ。先祖代々、お金持ちなんだから」

「いわゆる上級国民? お母さんのいうとおりだね。ちやほやされてきたから、世間知らずのまま年寄りになっちゃったんだよ」

 ゆきは遠慮なくいった。
 確かに幸子のことは好きだが、家族ではない。
 大切な家族に並ぶ存在ではない。

「このままじゃよくないと思う」

「だからさ、一度幸子さんにしっかり謝ろうと想うんだ。もし僕の視線や言動で不快にさせてたなら、ごめんなさいって」

「はぁ? そうじゃないでしょ? 向こうが謝るべきでしょ? 普段お世話になっている方々の息子さんを誘惑してすみませんでしたって」

 誘惑……
 言葉にすると、なんとも艶かしい響きだった。
 だが言葉にしたことで、ゆきの中では、幸子が自分から和人をたぶらかしておきながら、和人の好意を侮辱した人間へと落ち着いた。

「どうしたらいいか、今度、凛さんに相談してみる」

 ゆきは気分が高揚していた。
 果たして、本心からそこまで幸子を嫌っていたのか、本当にそこまで嫌う必要があるのか、ゆきには自分を客観的に見つめる余裕すらなかった。
 和人が心配そうに眺めていることにすら、気づかなかった。
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