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帆に吹く風
2.
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健の説明は上手かった。
九十年代半ばに世に出た、あるOSにより、インターネットが世界的に発展していったことを分かりやすく説明した。
それまでは一部の企業でのみ使われていたにも関わらず、各家庭に一台、パソコンが置かれるようになっていったことも。
それと同時に多くの投稿サイトや口コミ掲示板などが作られたいったことも。
「当時は世界終末予言の真っ只中でな。多くの人が世紀末に対して漠然とした不安を抱えていた。ネットはそういった不安、不満のはけ口にちょうどよかったんだ」
大勢の人が、ネット上に様々な噂や意見、デマをたれ流した。ほとんどの人はそれを無視したり、馬鹿にして笑っていたが、一部の人間はそういった情報に惑わされるようになった。
不安が不安を呼び、一部の人間は犯罪に走るようになった。かつてはなかったような少年犯罪、猟奇的殺人がニュースを賑わすようになっていった。
「だが、そんな人々の不安の受け皿になるような存在が、九十年代後半から現れるようになったんだ」
「何?」
「カルト教団さ」
「カルト……」
「大きなテロ事件を画策した教団があったことは、お前も知ってるだろ? まあ、あの連中は一応捕まったけどな。あれだけじゃない。他にもいくつものカルト教団が立ち上げられた。こうすれば滅亡を免れますとか、これだけお布施すれば助かりますとかな」
「みんな、そんなこと信じてたの?」
「そういう時代だったのさ。当然、お金をたくさんだまし取られるような奴らもいた。まあ、さすがにテロを画策するような教団は他にはなかったけどな。ただその中に一つ、特にインターネットを使った勧誘が非常にうまい団体があったんだ。その教団では、インターネット上で簡単にいえば流行やブームを作り出したり、時には世論を誘導することも得意だった」
「ねえ、それってすごいことじゃないですか?」
それまで黙っていたゆきが口を開いた。
「世論を誘導するって、それ、もうバズるどころの話じゃないですよね。そんな簡単にいくものなんですか? 今のインフルエンサーたちだって、なんにも考えていないようで、裏では色々考えて動画をあげてるんですよ」
ゆきの口調は、明らかに健の発言の信憑性を疑っていた。
だが健は気を悪くすることはなかった。冷静に続けた。
「当時はまだインターネットの黎明期だからね。ある意味、人々もインターネットに慣れていない。ネット上の根拠のない噂やデマに対する耐性もできていない。もちろん違法請求なんかに対する対応もお粗末だった。そんな世の中だったから、簡単にカルト教団に引っかかる奴らがいたんだろうな」
それだけいうと、健は黙ってしまった。
いつまでも続きを話さないので、おそるおそる和人が聞いた。
「もしかして、それと今の状況、特に良子さんの雰囲気が似てるっていいたいの? カルト教団の信者みたいだっていうこと?」
「ああ、そうだ。似てる。特に、その大声でムキになった辺りが、当時、カルト教団からの退団を親や友人に勧められて、ムキになって否定していた大学生にそっくりだ」
当時?
いったい健は何歳なんだ?
幸子さんじゃあるまいし。
和人は本気で聞きたくなった。
そんな和人の心中を察してか、健がいった。
「小説を書くためには、色々と情報が必要なんだよ」
「でもさ、いくら似てるからって、それだけで当時の情勢と今の良子さんの状況を関連づけるのは、早急じゃない?」
健はじっと和人を見た。
「さっきいっただろ? 特にインターネットの勧誘がうまい団体があったって」
「うん」
「名前、なんていうと思う?」
「さあ?」
健は少し声をひそめた。
「【未来教】っていうのさ」
九十年代半ばに世に出た、あるOSにより、インターネットが世界的に発展していったことを分かりやすく説明した。
それまでは一部の企業でのみ使われていたにも関わらず、各家庭に一台、パソコンが置かれるようになっていったことも。
それと同時に多くの投稿サイトや口コミ掲示板などが作られたいったことも。
「当時は世界終末予言の真っ只中でな。多くの人が世紀末に対して漠然とした不安を抱えていた。ネットはそういった不安、不満のはけ口にちょうどよかったんだ」
大勢の人が、ネット上に様々な噂や意見、デマをたれ流した。ほとんどの人はそれを無視したり、馬鹿にして笑っていたが、一部の人間はそういった情報に惑わされるようになった。
不安が不安を呼び、一部の人間は犯罪に走るようになった。かつてはなかったような少年犯罪、猟奇的殺人がニュースを賑わすようになっていった。
「だが、そんな人々の不安の受け皿になるような存在が、九十年代後半から現れるようになったんだ」
「何?」
「カルト教団さ」
「カルト……」
「大きなテロ事件を画策した教団があったことは、お前も知ってるだろ? まあ、あの連中は一応捕まったけどな。あれだけじゃない。他にもいくつものカルト教団が立ち上げられた。こうすれば滅亡を免れますとか、これだけお布施すれば助かりますとかな」
「みんな、そんなこと信じてたの?」
「そういう時代だったのさ。当然、お金をたくさんだまし取られるような奴らもいた。まあ、さすがにテロを画策するような教団は他にはなかったけどな。ただその中に一つ、特にインターネットを使った勧誘が非常にうまい団体があったんだ。その教団では、インターネット上で簡単にいえば流行やブームを作り出したり、時には世論を誘導することも得意だった」
「ねえ、それってすごいことじゃないですか?」
それまで黙っていたゆきが口を開いた。
「世論を誘導するって、それ、もうバズるどころの話じゃないですよね。そんな簡単にいくものなんですか? 今のインフルエンサーたちだって、なんにも考えていないようで、裏では色々考えて動画をあげてるんですよ」
ゆきの口調は、明らかに健の発言の信憑性を疑っていた。
だが健は気を悪くすることはなかった。冷静に続けた。
「当時はまだインターネットの黎明期だからね。ある意味、人々もインターネットに慣れていない。ネット上の根拠のない噂やデマに対する耐性もできていない。もちろん違法請求なんかに対する対応もお粗末だった。そんな世の中だったから、簡単にカルト教団に引っかかる奴らがいたんだろうな」
それだけいうと、健は黙ってしまった。
いつまでも続きを話さないので、おそるおそる和人が聞いた。
「もしかして、それと今の状況、特に良子さんの雰囲気が似てるっていいたいの? カルト教団の信者みたいだっていうこと?」
「ああ、そうだ。似てる。特に、その大声でムキになった辺りが、当時、カルト教団からの退団を親や友人に勧められて、ムキになって否定していた大学生にそっくりだ」
当時?
いったい健は何歳なんだ?
幸子さんじゃあるまいし。
和人は本気で聞きたくなった。
そんな和人の心中を察してか、健がいった。
「小説を書くためには、色々と情報が必要なんだよ」
「でもさ、いくら似てるからって、それだけで当時の情勢と今の良子さんの状況を関連づけるのは、早急じゃない?」
健はじっと和人を見た。
「さっきいっただろ? 特にインターネットの勧誘がうまい団体があったって」
「うん」
「名前、なんていうと思う?」
「さあ?」
健は少し声をひそめた。
「【未来教】っていうのさ」
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