聖女の如く、永遠に囚われて

渦巻き

1.

「幸子さん、あれから事件に進展はあったんですか？」

　車で良子の家に向かう途中、和人は幸子に聞いた。
　もちろん母にはすでに事情を簡潔に説明し、了解を得ている。

「はっきり言って、ここ最近は事件のことを調べていない。君を傷つけたことがずっと気になっていたからな。ただ実は昨日、伊藤一正が日本に帰ってきたと知らせがあった。良子さんのお祖父さんからな」

　あの爺さん、まさか幸子さんを狙ってるんじゃ……
　和人はそう思いかけて、頭を振った。
　いや、あくまでも事件解決の手がかりをくれているだけだ。
　何でもかんでも疑うべきじゃない。
　そんなことをしていたら、今度こそ本当に幸子に愛想を尽かされるかもしれない。
　
「一体何やってるんだ？」

　一人頭をブンブンと振る和人を、幸子が不審そうに見ながらそう聞いた。

「いや、何でもないです。ところで、良子さんのSNSで怪しいアカウントとかなかったんですか？　捨て垢とか」

　捨て垢とは、捨ててもいいアカウントのことである。基本的に、本来の自分のアカウントではしにくいこと、例えば誹謗中傷のコメントをしたり、こちらの身元を知られずにイイネをつけたいときなどに使われる。

「いや、ざっと見た限りはなかった。まあ、彼女に聞けば分かるだろう。答えてくれればいいけどね」

　学校での様子をみる限り、それは微妙に思えた。

「もし、良子さんがあまり協力的じゃなかったら？」

「そのときは少し荒っぽい方法を取ることになるかもしれないわね。まあ、本格的に洗脳されたわけではないだろうし、何とかなるとは思うけど、一悶着あるかもしれないわ。和人、高校進学に推薦は使えないと思いなさい」

「え？」

　ギョッとした和人をみて、幸子はニヤリと笑った。
　車は軽やかに加速していった。