聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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渦巻き

2.

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「夕暮れ時に申し訳ありません。秦野幸子です。良子さんにお話がありまして……」

 幸子がインターホン越しにそう声をかけると、良子の母、佐奈の返事があった。

「娘にですか? 今、娘は……」

 佐奈の口調はどこか歯切れが悪かった。和人は最初、それが夕暮れ時の突然の訪問に対するものかと思った。
 だが幸子は何かに勘づいた様子で、さらに声をかけた。

「良子さん、体調はどうですか?」

 しばらくインターホンは無言だったが、やがてドアが開いた。

「それが……」

 佐奈は何といっていいか分からないようで、口をパクパクさせただけだった。
 和人と幸子は顔を見合わせると、ためらわず家に入っていった。

「実はここ最近、部屋で調べものをしているみたいなんですが、その熱の入れようが普通ではなくて」

 居間で、佐奈は和人と幸子にお茶を出すと、すぐに話しはじめた。

「今まではオンラインと実際の教室でヴァイオリンを習っていたのですが、それも休みがちになっているみたいなんです」

「調べものというのは、あのご実家で起きた事件についてですか?」

「それが、どうもオカルト的なことらしいんです。ドッペルゲンガーとかいうものに興味があるらしくて」

 やっぱり!
 和人は内心、ガッツポーズをした。
 そしてそれは不謹慎なことだと、すぐに反省した。

「私としてはもちろん、学校の勉強を第一にしてくれれば、それでいいのですが、いくらなんでものめり込みすぎな気がするんです」

「ご主人は何と?」

「口では放っておけといっています。すぐに飽きるからと。でも、私、分かるんです」

 佐奈が少し前のめりになった。口調も早くなったが、むしろ声は力強くなった。

「あの人、怖いんです。口に出すことが。口に出してしまったら、もう止まらない気がするんだと思います。自分も良子も。だから目を背けて、できるだけ言葉にしないようにしてるんだと思うんです」

「なるほど。でも、それはそれで正しい選択かもしれませんよ。男というのは、一度調子に乗ると手をつけられませんからね」

 幸子がチラリと和人を見た。

「でも父親としては頼りなくて……」

「ここは、私にお話させていただけませんか。和人も同級生という立場ですし」

 佐奈は、問題をあまり大きくしたくないと思ったのか、少しの間逡巡していた。ただ結局は、母親として、取るべき選択をした。

「分かりました。お願いします」
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