聖女の如く、永遠に囚われて

渦巻き

5.

　ダークウェブとは、通常インターネットサイトではない、特別なインターネットサイトである。
　ここにアクセスするためには、特別なファイルやソフト、場合によっては専用の回線が必要になってくる。
　もちろん、非合法のサイト群であり、一般人がみられるわけもない。
　和人も実際に、ダークウェブをみたわけではなく、あくまでも話に聞いたことがあっただげだった。
　だが良子はダークウェブの存在を知らなかったようで、首を傾げた。

「ダークウェブ？　和人くん、それ何？」

「非合法のインターネットサイトだよ。僕も話に聞いただけだけど」

「確かにあそこならどんな残虐な動画でもアップロードできるだろうな」

「でも、そもそもなぜそんな動画を送ってくるのかしら？　だってそうでしょ？　私がドッペルゲンガーにのめり込もうが、その道の専門家とコンタクトを取ろうが誰も関係ないでしょ？」

　良子の質問に、和人と幸子が顔を見合わせる。
　ここから先の推理は、正直なところ、幸子といえどもまだ確信を持てていないことを、和人は知っている。
　だが、幸子は結局ここまでの推理を話すことにしたようだ。

「今回、良子さんに接触してきた人物は、おそらく伊藤一正本人、あるいはそのつながりのある人物ではないかと思われるわ。私たちが、事件の調査をすることを邪魔しようとしているのではないかと考えているんだけど……」

　後半、歯切れの悪くなった幸子の言葉に、良子があからさまに疑いの目を向ける。
　
「そんな、伊藤さんが……　でも、一介の中学生が事件の捜査から外れたからって、大した影響はないでしょう？　幸子さんが事件の捜査から外れるならともかく」

「いや、実をいうと、私もここ最近は事件のことを考えている余裕があまりなくてね。ただそれは伊藤一正とは関係ないと思われるが……」

「だったら、なおさらおかしいじゃないですか？　私なんかをターゲットにするなんて」

　良子のいうことも分かる。
　ただ実際に、この動画を見ると、たとえ残酷な場面は映っていなくても、形容しがたいおぞましさを感じる。
　果たしてそんな動画を送ってきた人物が、なんの目論見もなくそんなことをするとも思えない。

「ねえ、ここはちょっと発想を変えてさ、あの言い伝えの事件について考えてみない？　ドッペルゲンガーでも、出産説でもない別の説を」