聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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きっと忘れない

5.

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 伊藤は笑いを堪えきれないといったように、口元を手で覆いながら続けた。

「あの女、凛のことな。あいつ、幸子さん、あんたに嫉妬してたんだよ、ずっとな」

「私に? 嫉妬?」

 幸子が、心底意味が分からないといった様子で、眉をひそめた。

「どこで知ったのかは知らんけどな。あんたの不老の美しさと金持ちなことを、ひどく妬ましく思ってたみたいでな。そのことをあいつ、SNSで愚痴ってたんだよ。で、そこにつけ込んだわけ。直接本人を攻撃するんじゃなくて、対象者の友人や家族を離反させることで、対象者を孤独に追い込むなんていうのは、カルト教団のマニュアルじゃ初歩だからな。コツさえ教えてやれば、誰でもできる」

 幸子の老化が停止していることについて知られているとは思わなかったが、そのことについては、和人はもうあまり驚かなかった。
 和人が驚いたのは、そのことを凛が心底羨ましがっていたという事実だった。
 幸子が、一人長生きすることでどれだけ大切な人や家族を見送ってきたのか、想像もできないのだろうか?
 どれだけ金があったところで、幸子の孤独が癒えないことを理解できないのだろうか?
 そんなことは説明するまでもないことだと和人は思っていた。
 だが今、和人ははっきりと気づいた。
 世の中には、まったく道理の通じない人間がいると。
 どうしようもなく馬鹿なのか、生まれつき性格がねじ曲がっているのかは分からない。
 ただそれでも、同じ世界に生きている以上、相手をしなければいけない時はあるのだということも。

「そうか…… じゃあゆきは、お前の差し金で唆されただけだったのか……」

 幸子がぽつりと呟いた。

「幸子さん……」

 和人が呼びかけると、幸子が顔を向けた。
 どこか嬉しそうな、泣き出しそうな、そんな表情だった。

「和人。もう帰ろう。要件は済んだ。聞きたいことは聞き出せたからな」
 
 幸子はそういうと立ち上がった。
 和人も連られて立ち上がったが、伊藤だけは可笑しそうな顔つきを崩さなかった。

「やけに暑いなぁ」

 なぜか伊藤は間延びした声でいった。

「あ~冷房つけたいなぁ。でもつけられないなぁ」

 あまりに場違いな伊藤の声に、幸子は少しの間、何かを考えていたが、突然弾かれたように窓に駆け寄った。
 幸子がカーテンを開けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。
 辺り一面、火事だった。
 凄まじい山火事で、炎が木々の間で揺れていた。 
 幸子が窓を開けると、熱風と共に轟音が部屋の中に響いた。
 そんな中でも伊藤の笑い声だけは、はっきりと和人の耳に響いていた。
 暑いはずなのに、汗をかいているはずなのに、和人の背筋に寒気が走った。
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