聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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きっと忘れない

6.

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「お前、こんなことをやって、逃げられると思っているのか? ここでの会話は、すべて筒抜けなのよ。お前の告白はすべて録音されているんだ」

 幸子が詰め寄ったが、伊藤は少しも怯まなかった。
 ケラケラと声を出して笑っていたが、突然、笑うのをやめると真顔になっていった。

「あのさ、なんでこの部屋の電気が消えてるのか、なんで火災報知器がならないのか考えなかったの?」

 そういいながら、手に持った奇妙な装置を家掲げた。電卓のような数字の表示と、複数のツマミがついている。
 それを見た瞬間、幸子の動きが止まった。
 数歩後退りすると、和人の方を見た。

「スマホは、良子さんとの会話は、本当につながっているの?」

 和人がスマホを見ると、通話は中断されていた。
 そもそもアンテナが立っていないのだ。

「あ、あれ? つながっていない? でもさっきまでは確かにつながっていたのに?」

「残念。妨害電波でした」

 伊藤はそういうと、うんうんと一人頷いた。
 
「妨害電波……」

 和人は膝から崩れ落ちそうになるのを、かろうじて堪えた。

「お前らが、スマホか無線機かで、ここでの会話をよそに聞かせようとしてたことはとっくにお見通しなんだよ。だからコーヒーを入れにいった時に、この妨害電波の発生装置を持ってきたの。ただこいつの出す電波の周波数が家電にも干渉するから、この建物内外の全ての機器の電源を落としておいたんだよ。もちろん火災報知器もな。まあ、火災報知器の電源を落としたのは、発火装置を作動させる邪魔になるからっていうのもあるけどさ」

「この火事はあんたが仕組んだのか? いったい何のために? こんなことをしたら、あんただって大火傷を負うか、死ぬかもしれないんだぞ!?」

 和人はいつの間にか絶叫していた。
 だが伊藤は少しも声のトーンを変えず、冷静に答えた。

「大丈夫。俺の車はセラミックによる特殊耐熱コーティングされてるから。あの車が火に強いのは、もう何度も試したことがあるから大丈夫。心配いらない」

 伊藤は幸子の方を見た。

「でもお宅の車はどうかな? え? そもそも車を近くまで取り付けてない? そりゃあ大変だ」

 伊藤は肩をすくめるとそのままドアへと向かった。

「待って」

 幸子が呼びかけた。
 伊藤が振り向く。

「何ですか?」

「彼だけは、この子だけは助けてあげて。一緒に乗せてあげて」

「幸子さん、いったい何をいってるの? 幸子さんと一緒じゃなきゃ、僕はどこにも行かないよ」

「和人、いいから、ここは彼と一緒に行って」

「幸子さん」

「和人。未歩さんやゆきや昇さんのことを思い出して。彼らに会えなくなってもいいの?」

「幸子さんを置いていって、僕がまた普通の生活に戻れるって、本気でいってるの? そんなことをしたら、僕はもう二度と自分を許せない」

「和人。私はもう十分長生きしたわ」

 そういって幸子は少しだけ微笑んだ。
 すでに熱気は部屋の中に充満しつつあった。もう話し合う余裕はあまり残されていないことは、和人にも分かった。
 だが幸子を残していくという選択肢だけは、ぜったいにありえなかった。
 
「残念なのは、色々なお宝を残していかなきゃいけないことだなぁ。色々なガジェットも機械や芸術品や刀剣や骨董や…… 色々集めたのになぁ」

 伊藤が唐突にそれだけいうと、部屋を出ていった。出ていく寸前、ちらりと和人の方を見たが、その目はどこか同情するような、憐れみの視線だった。

「お宝……」

 和人は、ハッとすると幸子の手を掴んで部屋を飛び出した。
 ちょうど伊藤がドアを開けて、外へと走り去っていくところだった。同時に外から煙が、まるで生き物のように入り込んできた。
 その後すぐに車のエンジン音が聞こえてきたが、和人は取り合わなかった。
 目当ての部屋のドアを開けると、があった。

「これなら、山火事でも脱出できる」

 和人の視線の先には、あのランドセルのようなドローンがあった。
 それは人を運べるタイプのドローンだった。
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