一年B組探偵団と盗まれたルビー

white love it

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「ああ、それは……」

 和也が答えるより先に、真がきっぱりと答えをいった。



 そういうと真は霧江の足を指差した。

「足を手の代わりに動かせるんでしょう?」

 答える代わりに霧江はニヤリと笑った。まるで自慢のイタズラのタネに気づかれたイタズラっ子みたいな表情だった。

「しかし、あの金庫のダイヤルを回すには相当細かな動きが必要なはずだが……」

 米塚が眉をしかめていった。

「大丈夫だと思う」

 乃愛がそういった。

「前に一度バラエティ番組に出た時に、VTRで見たの。生まれつき両手のない男性が、足の指でカミソリを髭を剃ったり、ナイフとフォークを器用に使って食事するところを。だから金庫のダイヤルやレバーを回すくらいできると思う」
「ああ」
 
 真もうなづいていった。

「オレたちだって、床に落ちているものを足の指でつかむことくらいはするからな。その上で、たとえば新体操の選手みたいに身体が柔らかければ、足を手のように使って物を掴んだりするのは十分可能なはずだ」

 霧江は何もいわずに、足を高々と上げてみせた。まるでバレリーナがポーズをとるときのように。ワンピースの裾がはらりとめくれ落ちたが、少しも気にする様子はなかった。
 それから膝だけ曲げると、器用に目の前に置かれたティーカップの取っ手をつかみ、口へと運んでみせた。五本指靴下に包まれた足の指がまるで手のような動きをしている。

「子供の時から、この足で箸も鉛筆も使ってきたわ。ボタンを留めるのも、髪をとかすのもね。ただ人前でやるのはいささかみっともないから、義手の操作もあわせて練習してきたの」

 霧江はそういうと、カップをテーブルに戻し、静かに足を降ろした。

「そうか。五本指の靴下を履いていたのはそのためか」

 牧本が納得した様子でいった。

「考えてみれば、我々の前では飲み物を飲むぐらいで、箸を使ったりはしなかったしな」
「そういう細かい動作をする時は、人目につかない所でやっていたのね。足を使うところを見られたくなくて」

 南の言葉に霧江はうなづいた。

「大変だったわよ、子供の時は。義手じゃ構造上どれだけ訓練しても箸を握るまではできないから、給食は足で食べるの。それがとんな光景か分かる?」

 和也は黙っていた。乃愛も南も真も。その光景を想像するのはいたたまれなかった。なぜ子どもの頃の霧江に話し相手がいなかったのか、分かってしまったから。
 沈黙を破ったのは松永だった。

「宝石はその義手のなかにあるのかい?」
「ええ、そうです。中が空洞になっているので」

 霧江はにっこりと笑った。

「この宝石には色々といわくがあり、皆さんが思ってるよりはるかに価値があります。相田さんは全財産の3割をつぎ込んでこれを購入したんですよ。私ならこの宝石を売って、そのお金でより正しいことに使えます。貧しさからその日食べるものにも困る、多くの子どもたちとその親を救ってあげられます。ああ、松永さん、無理はしないでください。お身体にさわりますよ」

 霧江は羽毛のような軽やかさで、突進してきた松永をかわした。

「この泥棒猫っ!!」

 つまづいたままの姿勢で松永が絶叫する。

「失礼な。怪盗と呼んでいただきたいですね。ところで相田さんが生前やってきたことのほうが、個人的には泥棒っていう言葉がピッタリの気がしますけど」
「どうやって逃げる気だ?」

 牧本がいった。

「私の義手には色々と便利なものが組み込まれています。少々危険なものも。私はもう両腕のない身ですが、皆さんもそうはなりたくはないでしょう」

 霧江の言葉はただのはったりだったのかもしれない。
 だがそのキラキラ光る瞳を前にすると、誰もはったりだとは思えなかった。和也も真も誰も動けなかった。
 霧江はそろりとドアに近づくと、次の瞬間ワンピースの裾をひらりとひるがえし、一気に走り去っていった。
 残された人々はしばらくの間、呆然と開けっ放しのドアを見守っていた。

「行っちゃったね、霧江さん」

 乃愛がポツリといった。

「サヨナラいえなかったな」

 南が優しく乃愛の肩を撫でた。

「でも霧江さんの美しさの秘訣が分かってよかったじゃない」

 乃愛も優しく微笑んで答えた。

「うん、そうだね。子供時代、どんなに馬鹿にされても一生懸命足で給食を食べる霧江さん、きっとその時からきれいだったんだろうね」

 和也も同感だった。その頃の霧江がいたら、間違いなく友達になれたはずだった。
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