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しばらくして松永が「今日はもう朝食も昼食も夕食もつくる気はない」といいだした。非常用の乾パンや缶詰だけを置くとどこかへ行ってしまった。
呆然としている和也たちだったが、意外にも霧江は乾パンの袋に無造作に手を突っ込むとパンをかじりはじめた。上品さを絵にしたような淑女が豪快に乾パンを食べる姿はなかなかおもしろく、和也たちもそれにつづいた。ただ真だけは食欲がないといい、何も食べようとしなかった。
「意外と繊細なんだな。真くんは」
「はぁ。どうも、その死体をみたせいか……」
牧本の茶化すようなことばに、真は具合悪そうにうなづいて返事をした。
「そういえば松永さんはどうしたのかしら?」
南が周りをみながらいった。
「部屋で相田さんのこと思い出しながら泣いてるとか? 思い出の品を眺めながら」
「でも乃愛、相田さんの部屋はでてくるときに、米塚さんがしっかり鍵をしたうえで鍵穴をふさいでしまったのよ」
そうだ。和也はそのときの光景を思い出していた。確かに相田さんの遺体がある部屋は、鍵穴に接着剤を流し込んで鍵自体使えなくしたのだ。現場保存と、他に残っている宝石がこのどさくさでもちだされないようにの両方をかねて。
「いやぁね。私がいってるのは松永さん本人の部屋よ」
「あ、そっか」
「でもさ、あの人、なんであそこまで相田さんに義理立てするのかな?」
南と乃愛の会話に和也は割って入った。
「さあ? 実は恋人だったとかかしら?」
そういって乃愛が首をかしげた。
「あの松永さんの旦那さんは、相田さんの元同僚なんだよ。会社の立ち上げから携わってきた人でね。働きすぎで身体を壊し亡くなってしまったんだが、死ぬ間際に奥さんのことを相田さんに頼んでいってね」
そう答えたのは米塚だった。
「実際、相田さんは松永さんに住む場所や仕事を与え、松永さんもそれをかなり感謝していたらしい。もしあの宝石が本当に違法に入手されたものだとしたら、たとえ死んでても相田さんの名誉には傷がつく。松永さんとしてはそれを防ぎたいんだろう」
「なんか意外だね」
和也がいった。
「あの相田さんがそんなことをするなんて。もっとドライなタイプかと思ったけどな」
「というより、だからこそなんじゃないかな?」
「え? どういうことですか?」
「私も仕事柄、いろいろな人と出会うから分かるんだがね。お金のからまない人間関係というのは、確かに貴重だよ。松永さんは多分純粋な感謝から相田さんに仕えていたと思うし、そういう人間は相田さんの周りにはほとんどいなかったと思うね。さてと私は部屋でちょっと休憩をしてこよう」
なるほど。どうやらお金持ちというのはなかなか孤独な生き方らしい。
和也が一人うなづきながらパンをほおばっていると、南が米塚のいなくなった席をみながら誰ともなくつぶやいた。
「米塚さんの仕事って宝石商だけなのかしら?」
反応したのは霧江だった。
「あら? なぜかしら?」
「相田さんも取り引きの他に会社経営っていう本業をもってましたよね? まあ、今は引退してますけど。それともう一つ。米塚さんのいいかたからして、お金のからまない仕事をしてるのかなって」
「なるほど。名推理ね」
霧江はやや乱暴にカップを掴むとミルクを一息に飲み干した。
「あなたのいうとおり彼の本職は大学の教授よ。専門は生物工学。宝石取り引きは、個人的な趣味の延長といったところかしら」
牧本が驚いた様子で目を見開いた。
「よく知ってますな。荒野さん。業界でも知っているものは少ないんですよ。いったいいつきいたんですか? 我々だってみんな、会ったのは今日が最初のはずですが」
「前に大学のホームぺージでたまたまみたことがあって」
そういって霧江は軽く肩をすくめた。
「いったいあんた、何をしているかわかっているのか?」
突然、米塚の声が響いた。
すぐにドカドカという足音とともに松永が部屋に入ってきた。すぐあとには顔を引きつらせた米塚がついてきている。
「あら、お二人ともどうしたんですの?」
びっくりするほど落ち着いた声で、霧江がたずねた。
「どうもこうもない。この女、私たちの部屋の荷物をあさっていたんだよ」
「盗み出された宝石がないか確かめていただけです。監視カメラに外部からの侵入者が映ってない以上、犯人がこの中にいるのは明確ですからね。幸いどなた様の部屋にも荷物にも『王家の涙』はありませんでしたが」
「しかし俺は、自分の部屋には鍵をかけてきたと思ったがね」
牧本が首をかしげる。
「マスターキーを持ってますので」
松永はそういって、やけに長い鍵を一つかかげた。
「自分が何をやっているのか、わかっているのか!? ああ!?」
横で怒鳴りつける米塚を完全に無視して、松永がいった。
「先ほど旦那様の部屋を出る前に確認したのですが、部屋の鍵は室内にあったままでした。ちなみに私の持つマスターキーはずっと手元にあり、誰も触れてません。となると犯人が使った方法はたった一つ」
松永はまっすぐに和也たちの背のさらに向こう側、壁に描かれたトラの絵を指さした。
「あのエレベーターを使って」
「エレベーターって?」
乃愛が眉をひそめる。
「そんなものみえないけど」
「いや、きっと壁の中にあるんだ。大広間のすぐ向こうはキッチンになっているから、そちら側に大きく出っ張っているんだよ」
「壁の中? そうか。昨夜のあのうなり声はモーターの音だったのか」
和也と真が昨夜のことを思い出し、とっさに反応した。
「確かに壁の向こう、というか中にはエレベーターが組み込まれている。こちら側からでも向こう側からでも荷物を出し入れるようになったやつがな。外からでは分からないようになってるのが、これの売りさ」
そういうと、牧本は壁に描かれたトラの絵に触れた。ちょうど尾のあたりに。
カチッ。
金属音とともにゆっくりと絵の部分が、ちょうど額縁を壁から降ろすように正方形にもりあがり下へとスライドしていった。
ぽっかりと空いた中には、金属のトレーが吊るされている。
「スイッチはこのすぐ横だ」
牧本は正方形の空間のすぐ横を指差した。どうやら上下のスイッチが薄く盛り上がっているらしい。
「なるほど。これで食事を上の階に運んでたのね」
南が感心したような声をだす。
「ええ、そうです。今朝も最初はこれで送ろうとしたのですが、旦那様が幾ら待っても食事のトレイを降ろさないので、不審に思って二階へとあがったんです」
「確かにこの広さなら人間ものせられるね。まあ、ちょっと窮屈だろうけどさ」
だが和也の言葉に牧本は首を振った。
「それは無理だ。重量制限があるからな。少なくとも大人にあのエレベーターは使えないよ」
牧本がそういったあと、ほんの少し遅れてから全員の視線が和也たち四人に集まった。
「どういうこと?」
真がきいた。
「あのエレベーターの重量制限は45㎏なんだ。45kg以上のものをのせると動かない設計になってる」
「……45kg」
和也はつぶやいた。
和也の体重は40kg。おそらく乃愛や南もほとんど差はないはず。真がギリギリ45kgちょうどくらいだろうか。
一方ここにいる大人たちといえば、一番スリムな霧江でも身長が高い分45kgはこえているように思える。
どうりで視線が自分たちに集まっているわけだと、和也は納得した。
「しかし牧本さん、あなたなんでそんなことを知ってるのかね。エレベーターがあることさえ私は知りませんでしたよ」
米司の問いかけに牧本はしばらく黙っていたがおもむろに口を開いた。
「娘が設計したものなんだ」
「とりあえず身体検査もかねて、全員に体重をはかってもらいます」
松永が冷たい声でそういった。
「おいおい、君にそんなことを決める権利はないだろ。ここには女性や子供だっているんだぞ」
米塚はそういうと、はんっと鼻をならした。
だが松永は気にする様子もない
「女の私に身体検査される分には問題ないでしょ? 混浴の温泉に入るようなものだと思えばいいんですよ。もちろん私自身も検査は受けますし」
「まあ、待ってください」
そういって霧江が片手をあげた。
「子供たちの保護者の許可も取らずに身体検査はまずいと思いますよ。王家の涙は人間のこぶし大の大きさのルビーですからね。隠し持っているかどうかは服の上からでも十分わかるでしょう。体重に関しては実際に測るしかないでしょうけど」
松永はしばらくの間じっと霧江をにらみつけていたが、霧江のほうはどこ吹く風といった感じだった。
ついに松永が折れた。「体重計をとってくる」といって部屋から出ていった。
「ありがとうございます。霧江さん」
乃愛がすぐに駆け寄って霧江に頭を下げた。
「松永さんが身体検査なんていい出した時はどうなるかと思いました」
「いいのよ、気にしないで。ただね、乃愛ちゃん、松永さんも普段だったらあんなことは絶対出ださなかったと思うの。それだけあの人は追い詰められているわ。雨が止むまでに、誰かがここにやってくるまでに何としても宝石を取り戻しておきたいんでしょうね」
松永は和也たちが泊まった物置から体重計を持ってきた。そしてそれに全員がかわるがわるのった。
さらに松永は服の上から全員の身体を触って、宝石を隠し持っていないかを確認した。ちなみに松永自身を確認したのは南と乃愛の二人だった。
「とりあえずこれで全員が宝石を持っていないことが確認されましたね。体重のほうは……」
霧江がテーブルに置かれたメモに目をやった。松永が全員分の体重をそこに記したのだ。その結果は……
牧本75㎏。米塚63㎏。霧江49,5㎏。松永53㎏。真46㎏。和也42㎏。乃愛42,5㎏。南43㎏。
45㎏を下回っているのは、和也、乃愛、南の三人だけだった
「さすがにスタイルいいのね、霧江さん。身長は168くらいでしょ? それで体重50kgいってないなんて……」
「あら、一流クラスの女優やモデルなら、そういう人もいるわよ。ただそれでも霧江さんは別格のスタイルの良さだと思う」
南と乃愛がひそひそ声ではなしているわきで、和也は気が気ではなかった。なにせ体重からみて荷物用エレベーターにのれたのは和也、乃愛、南の三人だけなのだ。
松永がいまどんな顔をして自分たちをみているか、和也としては恐ろしくてみることもできなかった。
だが和也の心配をよそに、松永は霧江のほうだけを向いていた。
「松永さん、まさかこの子たちが荷物用のエレベーターを使って宝石を盗み出したなんて本気で考えてるわけじゃないですよね?」
「……まあ、少なくとも今隠しもってるわけではないことは確かね。ただ誰かに指図された可能性や、この屋敷のどこかに隠した可能性はありますよね」
松永はそういうと大広間をでていった。米塚と牧本も自分の部屋に下がって休むといった。
雨の音が強くなるなか、大広間には絶世の美女と四人の少年少女だけが残った。
呆然としている和也たちだったが、意外にも霧江は乾パンの袋に無造作に手を突っ込むとパンをかじりはじめた。上品さを絵にしたような淑女が豪快に乾パンを食べる姿はなかなかおもしろく、和也たちもそれにつづいた。ただ真だけは食欲がないといい、何も食べようとしなかった。
「意外と繊細なんだな。真くんは」
「はぁ。どうも、その死体をみたせいか……」
牧本の茶化すようなことばに、真は具合悪そうにうなづいて返事をした。
「そういえば松永さんはどうしたのかしら?」
南が周りをみながらいった。
「部屋で相田さんのこと思い出しながら泣いてるとか? 思い出の品を眺めながら」
「でも乃愛、相田さんの部屋はでてくるときに、米塚さんがしっかり鍵をしたうえで鍵穴をふさいでしまったのよ」
そうだ。和也はそのときの光景を思い出していた。確かに相田さんの遺体がある部屋は、鍵穴に接着剤を流し込んで鍵自体使えなくしたのだ。現場保存と、他に残っている宝石がこのどさくさでもちだされないようにの両方をかねて。
「いやぁね。私がいってるのは松永さん本人の部屋よ」
「あ、そっか」
「でもさ、あの人、なんであそこまで相田さんに義理立てするのかな?」
南と乃愛の会話に和也は割って入った。
「さあ? 実は恋人だったとかかしら?」
そういって乃愛が首をかしげた。
「あの松永さんの旦那さんは、相田さんの元同僚なんだよ。会社の立ち上げから携わってきた人でね。働きすぎで身体を壊し亡くなってしまったんだが、死ぬ間際に奥さんのことを相田さんに頼んでいってね」
そう答えたのは米塚だった。
「実際、相田さんは松永さんに住む場所や仕事を与え、松永さんもそれをかなり感謝していたらしい。もしあの宝石が本当に違法に入手されたものだとしたら、たとえ死んでても相田さんの名誉には傷がつく。松永さんとしてはそれを防ぎたいんだろう」
「なんか意外だね」
和也がいった。
「あの相田さんがそんなことをするなんて。もっとドライなタイプかと思ったけどな」
「というより、だからこそなんじゃないかな?」
「え? どういうことですか?」
「私も仕事柄、いろいろな人と出会うから分かるんだがね。お金のからまない人間関係というのは、確かに貴重だよ。松永さんは多分純粋な感謝から相田さんに仕えていたと思うし、そういう人間は相田さんの周りにはほとんどいなかったと思うね。さてと私は部屋でちょっと休憩をしてこよう」
なるほど。どうやらお金持ちというのはなかなか孤独な生き方らしい。
和也が一人うなづきながらパンをほおばっていると、南が米塚のいなくなった席をみながら誰ともなくつぶやいた。
「米塚さんの仕事って宝石商だけなのかしら?」
反応したのは霧江だった。
「あら? なぜかしら?」
「相田さんも取り引きの他に会社経営っていう本業をもってましたよね? まあ、今は引退してますけど。それともう一つ。米塚さんのいいかたからして、お金のからまない仕事をしてるのかなって」
「なるほど。名推理ね」
霧江はやや乱暴にカップを掴むとミルクを一息に飲み干した。
「あなたのいうとおり彼の本職は大学の教授よ。専門は生物工学。宝石取り引きは、個人的な趣味の延長といったところかしら」
牧本が驚いた様子で目を見開いた。
「よく知ってますな。荒野さん。業界でも知っているものは少ないんですよ。いったいいつきいたんですか? 我々だってみんな、会ったのは今日が最初のはずですが」
「前に大学のホームぺージでたまたまみたことがあって」
そういって霧江は軽く肩をすくめた。
「いったいあんた、何をしているかわかっているのか?」
突然、米塚の声が響いた。
すぐにドカドカという足音とともに松永が部屋に入ってきた。すぐあとには顔を引きつらせた米塚がついてきている。
「あら、お二人ともどうしたんですの?」
びっくりするほど落ち着いた声で、霧江がたずねた。
「どうもこうもない。この女、私たちの部屋の荷物をあさっていたんだよ」
「盗み出された宝石がないか確かめていただけです。監視カメラに外部からの侵入者が映ってない以上、犯人がこの中にいるのは明確ですからね。幸いどなた様の部屋にも荷物にも『王家の涙』はありませんでしたが」
「しかし俺は、自分の部屋には鍵をかけてきたと思ったがね」
牧本が首をかしげる。
「マスターキーを持ってますので」
松永はそういって、やけに長い鍵を一つかかげた。
「自分が何をやっているのか、わかっているのか!? ああ!?」
横で怒鳴りつける米塚を完全に無視して、松永がいった。
「先ほど旦那様の部屋を出る前に確認したのですが、部屋の鍵は室内にあったままでした。ちなみに私の持つマスターキーはずっと手元にあり、誰も触れてません。となると犯人が使った方法はたった一つ」
松永はまっすぐに和也たちの背のさらに向こう側、壁に描かれたトラの絵を指さした。
「あのエレベーターを使って」
「エレベーターって?」
乃愛が眉をひそめる。
「そんなものみえないけど」
「いや、きっと壁の中にあるんだ。大広間のすぐ向こうはキッチンになっているから、そちら側に大きく出っ張っているんだよ」
「壁の中? そうか。昨夜のあのうなり声はモーターの音だったのか」
和也と真が昨夜のことを思い出し、とっさに反応した。
「確かに壁の向こう、というか中にはエレベーターが組み込まれている。こちら側からでも向こう側からでも荷物を出し入れるようになったやつがな。外からでは分からないようになってるのが、これの売りさ」
そういうと、牧本は壁に描かれたトラの絵に触れた。ちょうど尾のあたりに。
カチッ。
金属音とともにゆっくりと絵の部分が、ちょうど額縁を壁から降ろすように正方形にもりあがり下へとスライドしていった。
ぽっかりと空いた中には、金属のトレーが吊るされている。
「スイッチはこのすぐ横だ」
牧本は正方形の空間のすぐ横を指差した。どうやら上下のスイッチが薄く盛り上がっているらしい。
「なるほど。これで食事を上の階に運んでたのね」
南が感心したような声をだす。
「ええ、そうです。今朝も最初はこれで送ろうとしたのですが、旦那様が幾ら待っても食事のトレイを降ろさないので、不審に思って二階へとあがったんです」
「確かにこの広さなら人間ものせられるね。まあ、ちょっと窮屈だろうけどさ」
だが和也の言葉に牧本は首を振った。
「それは無理だ。重量制限があるからな。少なくとも大人にあのエレベーターは使えないよ」
牧本がそういったあと、ほんの少し遅れてから全員の視線が和也たち四人に集まった。
「どういうこと?」
真がきいた。
「あのエレベーターの重量制限は45㎏なんだ。45kg以上のものをのせると動かない設計になってる」
「……45kg」
和也はつぶやいた。
和也の体重は40kg。おそらく乃愛や南もほとんど差はないはず。真がギリギリ45kgちょうどくらいだろうか。
一方ここにいる大人たちといえば、一番スリムな霧江でも身長が高い分45kgはこえているように思える。
どうりで視線が自分たちに集まっているわけだと、和也は納得した。
「しかし牧本さん、あなたなんでそんなことを知ってるのかね。エレベーターがあることさえ私は知りませんでしたよ」
米司の問いかけに牧本はしばらく黙っていたがおもむろに口を開いた。
「娘が設計したものなんだ」
「とりあえず身体検査もかねて、全員に体重をはかってもらいます」
松永が冷たい声でそういった。
「おいおい、君にそんなことを決める権利はないだろ。ここには女性や子供だっているんだぞ」
米塚はそういうと、はんっと鼻をならした。
だが松永は気にする様子もない
「女の私に身体検査される分には問題ないでしょ? 混浴の温泉に入るようなものだと思えばいいんですよ。もちろん私自身も検査は受けますし」
「まあ、待ってください」
そういって霧江が片手をあげた。
「子供たちの保護者の許可も取らずに身体検査はまずいと思いますよ。王家の涙は人間のこぶし大の大きさのルビーですからね。隠し持っているかどうかは服の上からでも十分わかるでしょう。体重に関しては実際に測るしかないでしょうけど」
松永はしばらくの間じっと霧江をにらみつけていたが、霧江のほうはどこ吹く風といった感じだった。
ついに松永が折れた。「体重計をとってくる」といって部屋から出ていった。
「ありがとうございます。霧江さん」
乃愛がすぐに駆け寄って霧江に頭を下げた。
「松永さんが身体検査なんていい出した時はどうなるかと思いました」
「いいのよ、気にしないで。ただね、乃愛ちゃん、松永さんも普段だったらあんなことは絶対出ださなかったと思うの。それだけあの人は追い詰められているわ。雨が止むまでに、誰かがここにやってくるまでに何としても宝石を取り戻しておきたいんでしょうね」
松永は和也たちが泊まった物置から体重計を持ってきた。そしてそれに全員がかわるがわるのった。
さらに松永は服の上から全員の身体を触って、宝石を隠し持っていないかを確認した。ちなみに松永自身を確認したのは南と乃愛の二人だった。
「とりあえずこれで全員が宝石を持っていないことが確認されましたね。体重のほうは……」
霧江がテーブルに置かれたメモに目をやった。松永が全員分の体重をそこに記したのだ。その結果は……
牧本75㎏。米塚63㎏。霧江49,5㎏。松永53㎏。真46㎏。和也42㎏。乃愛42,5㎏。南43㎏。
45㎏を下回っているのは、和也、乃愛、南の三人だけだった
「さすがにスタイルいいのね、霧江さん。身長は168くらいでしょ? それで体重50kgいってないなんて……」
「あら、一流クラスの女優やモデルなら、そういう人もいるわよ。ただそれでも霧江さんは別格のスタイルの良さだと思う」
南と乃愛がひそひそ声ではなしているわきで、和也は気が気ではなかった。なにせ体重からみて荷物用エレベーターにのれたのは和也、乃愛、南の三人だけなのだ。
松永がいまどんな顔をして自分たちをみているか、和也としては恐ろしくてみることもできなかった。
だが和也の心配をよそに、松永は霧江のほうだけを向いていた。
「松永さん、まさかこの子たちが荷物用のエレベーターを使って宝石を盗み出したなんて本気で考えてるわけじゃないですよね?」
「……まあ、少なくとも今隠しもってるわけではないことは確かね。ただ誰かに指図された可能性や、この屋敷のどこかに隠した可能性はありますよね」
松永はそういうと大広間をでていった。米塚と牧本も自分の部屋に下がって休むといった。
雨の音が強くなるなか、大広間には絶世の美女と四人の少年少女だけが残った。
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