一年B組探偵団と盗まれたルビー

white love it

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 ソファに沈み込んだ霧江は、大人だけど子供のような雰囲気だった。家に帰ってきて、学校であったことを今すぐ話したいのに誰もいないときの、部屋に一人でぽつんといるときの自分みたいだ。和也は直感的にそう思った。
 そう感じたのは和也だけではなかった。南が口だけパクパク動かしながら、和也に伝えてきた。

「モウスコシココニイヨウ」

 和也はうなづいた。乃愛もあたたかい目で霧江をみている。真だけは汗を流すのに忙しい様子だったけど。

「どうやってやったのかは分からないけど、宝石を盗み出したとしてそれは今どこにあるのかな? 人間の拳くらいの大きさだとするとそう簡単には隠せないんじゃないかな」
「一つだけあるわよ、隠し場所」

 そういって乃愛が意味ありげにウインクしてみせた。ファンなら卒倒ものの可愛さだったが、今はそれどころではない。和也は身を乗り出した。

「相田さんの部屋よ」
「……そうか、なるほど……いや、でもそれは無理があるよ。鍵穴は確か接着剤を流し込んで塞いだんだよね。大人にあのエレベーターは使えないし。たとえ宝石をあの部屋に隠していても、明日警察が来る前に運び出せないもの」
「だめかしら?」
「そもそもオレたちがここで足止めを食らって、警察を呼べないでいるのも松永の婆さんがタイヤや電話線を切ったせいだからな。もしそれがなきゃとっくに警察が来てるだろうから、結局あの部屋から持ち出すのは不可能さ」

 トレーニングを終了した真も近づいてきてそういった。

「じゃあ、地面の中に埋めるっていうのは?」
「それこそ無理よ、乃愛」

 そういって南が窓の外を指さした。

「この雨、見てみなさいよ。地面なんかみんなぬかるんじゃって、宝石が埋まってたとしてもとっくに出てきちゃってるはずよ」
「まあ、そうなったら松永さんがすぐにみつけるよね」

 和也はそういって窓の外をみた。松永はちゃんとレインコートでも着ているのだろうか? この雨の中、屋敷の周りや外に止められた車のなかを探すのは、相当大変だろう。年齢からしてもはや命がけといっても過言ではないはず。想像して和也はどんよりした気分になった。

「ねえ、霧江さん、寝ちゃったみたいよ」

 ふいに南が小声でそう話しかけてきた。
 見ると、いつの間にか霧江は目を閉じている。耳をすますと、規則正しい穏やかな呼吸音が聞こえてくる。

「しかし本当にキレイなひとだな」

 淡々と話す真の言葉に、和也、南、乃愛も大きくうなづいた。世の中には派手な化粧や流行の服装、髪型をすることが美しいと思っている人間がいる。だけど和也からすると、そういう人たちからはどこか自慢をしているような雰囲気を受けて、近づきにくい存在でしかなかった。
 実際、乃愛は以前、芸能界では他人を嫉妬させる、ヤキモチを焼かせる、悔しく思わせる、そういう容姿が美しいとされていると話していた。
 でも霧江は違う。素顔のまま、流行をおうわけでもない。子供たちがそばにいて緊張するような雰囲気も、他人を見下すような態度もない。それでもなお、和也、真、南、そして現役の女優である乃愛がこれまでみたこともないほどに美しく澄んでいた。

「なんかわたしも眠くなってきた」
「ちょっと休もうか」
「霧江さんになにかかけなくて大丈夫かな?」
「大丈夫だと思う。そこまで寒くないし」

 モノポリーを片付け物置に戻ろうとしたとき、和也はトークンが一つ霧江の座るソファの下に落ちていることに気づいた。

「先に行ってて」

 三人に添う声をかけ、霧江を起こさないよう、そしてその足に見とれないよう注意しながら手を伸ばし、ようやくトークンを拾い上げた和也に突然声がかけられた。

「あなたと、南ちゃん、それに乃愛ちゃんのなかの一人なら、今夜にでもみんなが寝静まった頃にエレベーターを使って鍵の閉じられた相田さんの部屋に行けるわ。そうすれば隠してある宝石も持ち出せる。そうは思わない?」

 一瞬なんの話か、和也には分からなかった。だがすぐに、さっき話していた推理の続きだと思いあたった。

「それはないですよ。もしそうやって持ち出せても警察が来たらすぐにバレちゃうだろうし……それに僕たちはここに来るまで、相田さんが宝石を扱っていることも知らなかったんですよ。エレベーターのことなんて今朝、ようやく知ったんだし」

 霧江は笑った。ニヤリと、口の端だけをあげて。
 それは先程までとはちがう、どこか挑発するような笑い方だった。
 和也は軽く頭をさげると、霧江を部屋に残し出ていった。
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