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その名は鳴山総一郎
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「では、お兄さんの亡くなった理由を知りたいということですか?」
「はい」
「でも、警察にはもう行かれたんですよね?」
「……ええ」
鳴山探偵事務所は、都内のあまり人気のない区画のビルの一室にある。
物静かというより、寂れたといった方が相応しい場所だった。
この鳴山探偵事務所の主は、『美少年探偵』の異名をとる鳴山総一郎だった。
総一郎はその推理力のみならず、その美しく整った容姿でも知られていた。キラキラと輝きながらもどこか寂しげな瞳、小さくまとまった顔、少し目にかかるように無造作に伸ばした髪などが多くの女性を夢中にさせた。国内のみならず、国外にも総一郎のファンは大勢おり、SNS上にはファンアカウントがいくつも存在するほどだった。
ワイシャツにサスペンダーで留めた黒いズボン姿の総一郎が今、事務所内で対峙しているのは依頼人だった。
名前を周道鈴音という彼女は、白いカーディガンに薄い桃色のスカートというシンプルな装いだったが、総一郎に負けず劣らずの美貌だった。その陶器のようにきめ細かく白い肌、猫を思わせるアーモンド型の目、スッと通った鼻筋、淡い栗色で肩まで流れ落ちる髪など、どんな一流の女優やモデルと比較しても遜色ない美しさだった。
ただ、今ソファに腰掛ける鈴音の表情には暗い影がさしており、そのことが彼女に近寄り難くもどこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「それで、警察は何と?」
総一郎がテーブル越しに少し身を乗り出して聞くと、鈴音はいささかぶっきらぼうな口調になった。
「ただの心臓発作だろうって、そう言ったんです。だから、解剖も必要ないって。でも、そんなのおかしい。兄はスポーツマンで、トライアスロンの大会にも出たほどなんですよ」
「そうですか……」
スポーツマンだからこそ心臓に大きな負担がかかっている可能性があることを、総一郎は鈴音には言わなかった。
真実は、司法解剖をしなければ分からない。だが、日本の司法解剖制度は事実上のボランティアと言ってもいい。検視医の好意によって成り立っているにすぎない。そのため、余程不審な死でなければ司法解剖は行われないのが現状だった。
「だからこそ、鳴山さんのところに来たんです。君、じゃなくて、あなたならきっと真相を」
総一郎はフッと微笑んだ。
「君で構いませんよ」
「そういうわけには……」
「今、お幾つですか?」
「19歳です」
「僕より3つ上のお姉さんですね」
「あら……」
鈴音は少し言い淀んでから、置かれた紅茶に口をつけた。
そして、少しだけ赤い舌で唇の周りを舐め取ると、総一郎の顔に視線を這わせて言った。
「それにしても、本当に可愛い顔してるのね。ううん、綺麗といったほうがいいかしら。それでいて、ちゃんと男らしさを感じさせる。『美少年探偵』の呼び名がぴったりね」
散々言われてきた言葉だったので、総一郎は眉一つ動かさず返事した。
「そういう鈴音さんもとてもお綺麗ですが、お仕事は何を?」
「この間までは、専門学校で看護師になる勉強をしていたわ。でも、兄が死んで学校は辞めた。今は兄の保険金と遺産で食いつないるの。うちは両親がもういないから」
「僕と一緒ですね」
少しだけ、沈黙が事務所を支配した。
「はい」
「でも、警察にはもう行かれたんですよね?」
「……ええ」
鳴山探偵事務所は、都内のあまり人気のない区画のビルの一室にある。
物静かというより、寂れたといった方が相応しい場所だった。
この鳴山探偵事務所の主は、『美少年探偵』の異名をとる鳴山総一郎だった。
総一郎はその推理力のみならず、その美しく整った容姿でも知られていた。キラキラと輝きながらもどこか寂しげな瞳、小さくまとまった顔、少し目にかかるように無造作に伸ばした髪などが多くの女性を夢中にさせた。国内のみならず、国外にも総一郎のファンは大勢おり、SNS上にはファンアカウントがいくつも存在するほどだった。
ワイシャツにサスペンダーで留めた黒いズボン姿の総一郎が今、事務所内で対峙しているのは依頼人だった。
名前を周道鈴音という彼女は、白いカーディガンに薄い桃色のスカートというシンプルな装いだったが、総一郎に負けず劣らずの美貌だった。その陶器のようにきめ細かく白い肌、猫を思わせるアーモンド型の目、スッと通った鼻筋、淡い栗色で肩まで流れ落ちる髪など、どんな一流の女優やモデルと比較しても遜色ない美しさだった。
ただ、今ソファに腰掛ける鈴音の表情には暗い影がさしており、そのことが彼女に近寄り難くもどこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「それで、警察は何と?」
総一郎がテーブル越しに少し身を乗り出して聞くと、鈴音はいささかぶっきらぼうな口調になった。
「ただの心臓発作だろうって、そう言ったんです。だから、解剖も必要ないって。でも、そんなのおかしい。兄はスポーツマンで、トライアスロンの大会にも出たほどなんですよ」
「そうですか……」
スポーツマンだからこそ心臓に大きな負担がかかっている可能性があることを、総一郎は鈴音には言わなかった。
真実は、司法解剖をしなければ分からない。だが、日本の司法解剖制度は事実上のボランティアと言ってもいい。検視医の好意によって成り立っているにすぎない。そのため、余程不審な死でなければ司法解剖は行われないのが現状だった。
「だからこそ、鳴山さんのところに来たんです。君、じゃなくて、あなたならきっと真相を」
総一郎はフッと微笑んだ。
「君で構いませんよ」
「そういうわけには……」
「今、お幾つですか?」
「19歳です」
「僕より3つ上のお姉さんですね」
「あら……」
鈴音は少し言い淀んでから、置かれた紅茶に口をつけた。
そして、少しだけ赤い舌で唇の周りを舐め取ると、総一郎の顔に視線を這わせて言った。
「それにしても、本当に可愛い顔してるのね。ううん、綺麗といったほうがいいかしら。それでいて、ちゃんと男らしさを感じさせる。『美少年探偵』の呼び名がぴったりね」
散々言われてきた言葉だったので、総一郎は眉一つ動かさず返事した。
「そういう鈴音さんもとてもお綺麗ですが、お仕事は何を?」
「この間までは、専門学校で看護師になる勉強をしていたわ。でも、兄が死んで学校は辞めた。今は兄の保険金と遺産で食いつないるの。うちは両親がもういないから」
「僕と一緒ですね」
少しだけ、沈黙が事務所を支配した。
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