名探偵鳴山の奇妙な冒険譚

white love it

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その名は鳴山総一郎

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「さて鈴音さん。事件に関して、もう一度最初から話してもらえますか?」

 総一郎がそう言うと、鈴音は思いっきり眉をひそめた。だがその美貌にかかると、そんな表情さえ可愛らしく見える。

「また?」

「時間をおいて繰り返すことで、より正確な証言が得られるんです」

 鈴音は長いため息をついた。

「しょうがないわね。分かったわ」

 紅茶で少し喉を湿らせると、鈴音はまた一から話し始めた。

「3ヶ月前、ちょうど専門学校が夏休みに入った頃のことよ。兄の周道真しゅうどうまことが務める会社から連絡が入ったの。時間になっても出社してこないって」

「どんな会社なんでしたっけ?」

「いわゆるリサイクルの会社ね。古本や、中古のおもちゃ、楽器、古着、何でも扱ってるの」

 鈴音は少し俯いた。

「両親が死んだ時、兄はちょうど高校2年生だったわ。でも、すぐに学校を辞めて、それ以来ずっと仕事をしてきたの。私を養うために」

 最後の方は声が小さくなっていったが、総一郎の耳にはしっかりと聞こえていた。

「お兄さんは今、お幾つですか?」

「22歳よ。私とは3つ離れているの。でも、本当にまじめで、しっかりとした兄だったの。お金のこともちゃんとしていたし」

「でも、その日は会社を無断欠勤したと」 

「ええ。電話があって、私もビックリしたわ。すぐに兄に電話したんだけどつながらなくて。それで、警察に行方不明の届け出を出したの。次の日よ、警察から長崎で遺体が見つかったと電話があったのは」

 鈴音はそこで言葉をきった。
 総一郎は、鈴音が再び口を開くのを黙って待っていた。

「……兄は長崎の海沿いの道路で見つかったの。車の中で死んでいたと。早朝、マラソンをしていた人が見つけたの」

「車は、お兄さんの車ですか?」

「ううん。うちには車はないもの。レンタカーを向こうで借りていたみたいなの。警察の話では、新幹線とレンタカーを乗り継いで、長崎までいったって」

「鈴音さんとお兄さんは、都内にお住まいなんですよね?」

「ええ。この事務所からバスで20分ぐらいのところに、アパートを借りているわ」

「とすると、長崎まで電車と車を使えば、半日ほどか。少し遠い気もするけど、飛行機を使わなかったのは確かなんですよね?」

「間違いないわ。兄は、飛行機が大の苦手なんだもの」

「なるほど」

「それで、私もすぐに長崎に行って、兄の死体を確認したの。傷もない、キレイな身体だったわ」

「それで、警察は死因は心臓発作だろうと?」

「ええ。死後硬直の具合から、亡くなったのは発見される一時間ほど前くらいだろうって。多分狭い車で車中泊をしたせいで、心臓に負担がかかっていたんだろうって言われたわ。でも兄は発見された時、衣服が乱れていたの。上半身は裸だったし。それで、警察にもっと詳しく調べるように言ったんだけど、相手にしてもらえなくて」

「お兄さんの写真はありますか?」

 鈴音はスマホを取り出した。
 そこには、鈴音ともう一人、背の高い筋肉質な男がジャージ姿で映っていた。
 苦労のせいか、鈴音の兄にしては老けて見えた。

「お兄さんがなぜ長崎まで行ったのか、心当たりは?」

 鈴音は首を振った。

「それが、全くないの」

「ふむ」

 総一郎は椅子にもたれかかると、少しの間目を閉じた。

「お兄さんが何かにおびえていたとか、誰かから脅迫されていたということは?」

 鈴音は少し迷うような表情になった。

「何かあるんですか?」

「実は……」

 鈴音はスマホを操作すると、あるSNSアカウントを見せた。
 その一番新しい投稿を見て、総一郎は顔をしかめた。

「何ですか、これ? けっこう炎上してますね」

「そうなの。実はこれ、失踪する前日に兄がした投稿なんだけど、けっこうネット上で炎上したらしくて。それまで、こんなこと全然口にするタイプじゃなかったから、私、ビックリして」

 そこには、日本という国家を口汚く罵る言葉がいくつも綴られていた。

『日本人は最低の国民だ。恥という概念はあるのか』

『日本は二等国家。過去の歴史にしかすがれないなら、三等国家』

『経済終了、文化崩壊、老人大量、これが日本の末路』

 当然のことながら、それらのコメントには批判が殺到している。

『お前こそ、最低のクズだ』

『さっさとこの国から出ていけ』

『売国奴、恥を知れ』

「この投稿で、自宅の住所や職場が特定されたとかは?」

「ないわ。このSNSも本名ではやってないし。私も兄の身の回りのものを整理していて、初めてこの投稿を知ったくらいなの」

 そう言って、鈴音はため息をついた。
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