レベル×レベル 〜低レベルで目指す魔王討伐〜

どすこいシロップ

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第1章 : 慣れろ!てつお

第7.5話「綺麗だわ」

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いつもそうよね。
タキオは昔からあたしに心配ばかりかけて、本人はケロッとしてたわ。
こうしてあたしの腕の中で寝てる顔を見ると、ずっとずっと変わらないように見えるんだけどなぁ。
だけどねタキオ、姉さん少し嬉しかったのよ。
あなたが昼間、旅に出たいって言った時の顔、お父さんにそっくりだったの。
いつの間にそんな顔ができるようになったの?姉さん知らなかったなぁ。

ジュークが帰ってきてくれたのも嬉しかったわ。
あなたが旅に出たいって言わなかったら、ジュークったらまたすぐに旅立ってたのかもね。
あの人いつも突然帰ってきて突然いなくなっちゃってたんだもん。
いつもそうよ。
姉さんは誰かから旅立たれるのに、全然慣れないわ。



明日からはもうこの家にタキオはいないのね。
まだおばあちゃんがいないのにも慣れてないのに……
ううん、もしかしたらお父さんとお母さんがいないのにも慣れてなかったのかもね。
あたしは毎日パンをこねて焼いて並べて、ごはんを作って片付けて……それだけしてれば一日が終わってくれてたんだもん。
明日からもきっとそうなのよ。それでいいのよ。
もう眠くなってきちゃった。おやすみ、タキオ……



「あら、もう目が覚めてたの?おはようタキオ」

「うん……おはよう」

……綺麗だわ、タキオ。
男の子のあなたにこんなこと言うのは変かもしれないけど、今のあなたはとっても綺麗よ。美しいわ。
窓を開けて遠くの山を見つめてるのね。
その向こうの、ずっとずっと遠くを見てるのね。
あなたが時々そんな顔をするの、姉さん好きだったな。
ジュークもよくそういう顔をするの。
あの人、いなくなる直前はいつもそうだったわ。

「朝ごはんにしましょう、てつおさん達まだ寝てるかしら」

「うん……」

あたしったら本当にいつも通りのことを言うのね。
あなたは違うわ。一昨日と昨日で、昨日と今日でまるで別人だもの。
姉さんじゃついて行けないわ。
どんどん遠くに行っちゃうんだもの。



「……そろそろ森の魔物達が起き始めてしまう。出発するとしよう」

……とうとう旅立つのね、タキオ。
村の人たちが皆あなたの後ろをついて行ってるわよ。もちろんあたしも。
……背が伸びてたのね。
あの剣と盾も似合うようになっちゃって。
姉さんはあとどれくらいで追い抜かれちゃうかしら。
あ、この橋……覚えてる?
前にあたしの帽子が飛ばされて川に落ちた時、あなたすぐに川に飛び込んじゃったのよ。
気づいたらもうドボンの音だったんだもん。びっくりしたなぁ。
結局あなたは川の流れにどんどん流されちゃって、村の北のほうまで行っちゃったのよ。
姉さん達が必死になってやっと見つけた時、あなたこう言ったのよ。

「いつかこの川を全部泳ぐんだ」

そう言ってあたしに帽子を渡してきて。そう、今かぶってるこの帽子よ。
もう忘れちゃったかしら?
いつもそうよね。
タキオ、あなた、この川の全部より遠くに行っちゃうのね。



「それじゃあお姉ちゃん、行ってきます!」

「身体に気をつけてね……タキオ……てつおさん、タキオをよろしくお願いします……」

タキオ。あなた綺麗よ。やっぱりとても綺麗。
あなたの持つマナイバの剣と盾が太陽の光を集めてるのよ。
キラキラしてとっても綺麗だわ。
ジュークも綺麗だったわ。
だけどそれより今のあなたが一番綺麗。
旅立つあなたはとっても綺麗よ。
“行かないで”を必死に押さえるあたしなんかより、ずっとずっと綺麗だわ。
勇者様の隣にいたって、少しも恥ずかしくない。
あたしの手の届かないところまで、もうとっくに来ちゃってたのね。
寂しいけど、それより嬉しいわ。
さようなら、タキオ……



見送りを済ませて、皆帰っていく。
それぞれの毎日にまた戻るの。
あなた達が向かった北側はね、おばあちゃんのいた部屋からよく見えるのよ。
姉さんは今日からおばあちゃんの部屋で寝るわ。
そして北に向かってお祈りするわね。
結局姉さんはまたパンを作るの。
村長さんが“勇者のパン”を村の名物にするんだって。頑張らなきゃ。
とにかく今日のぶんのパンがまだできてないから、帰ったらすぐに生地をこねて焼いて……果物も干しとかなきゃなぁ。それから……

「おかえり、カノー」



「ジューク……」

「俺は行かなかったんだ。君におかえりを言いたくてね。果物は干しといたよ」

ジュークが何を言ってるのか分からなかった。
何だか、“おかえり”を聞いたら耐えられなくなって、景色が歪んで、目元が熱くなって……



ジュークの腕の中は暖かかった。
自分でもどうしようもないぐらい、涙が溢れて溢れて、子供みたいな声を出して……
どのぐらい泣いたかしら。
あたしは眩しい光を見て、ゆっくり泣き止んだの。
おばあちゃんの部屋の窓から、キラキラって何かが光ってたわ。
とっても綺麗だったわ。
あたし、ずっと忘れない。



ごめんなさい皆さん。
今日だけ、パン屋はお休みにします。
パン屋“オルズ”を、今日からパン屋“カノー”にするために、どうしても必要な時間なの。
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