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第2章:飛び立て!てつお
第15話「助けに行かなきゃ」
しおりを挟む爆発、爆発、また爆発。
昨日まで、いやさっきまであんなに特筆すべきことのない平和な風景だったのに。
「おのれ……ッ!魔女、チトセェッ!」
ハヤさんがその薄い唇を噛み締め、握り拳を震えさせる。
無理もない。あっという間に街並みは変わってしまった。
ついさっきまで、窓の外には、同じぐらい高さの建物が見えていた。
いくつもの屋根が連なって、遥か向こうに王宮の屋根が見えた。
今窓の外から見えるものは、煙、瓦礫、カラフルな炎。
紫色の魔法陣が空にいくつも形成され、光の矢があちこちに降り注いでいる。
映画とかで見る、空爆のシーンそのものだった。
「タ、タキオ!何だっけあの、魔法障壁呪文……!」
「え?えーと、“オマジャ”!“オマジャ”だよ!」
俺は急いで“オマジャ”を唱えた。最大出力でだ。
俺を中心に、この街全てを覆うように。
たちまち、巨大で薄い緑の魔法障壁が張られる。
間一髪のところで、次の爆撃を防ぐことができた。
「……これでよし!とにかく外へ!ここも崩れるかもしれない!」
「な、なんと……!素晴らしい魔法障壁だ!恩に着るぞ勇者殿!」
外に出てみると、当然のように大混乱が起こっていた。
やっと覚えはじめていた街並みが、もう面影もない。
目印にしていた建物は瓦礫になり、代わりに炎が立ち昇っている。
そして今も上空では、障壁と光の矢が花火のように光りながら衝突している。
昨日までに会った人、すれ違った人が、もう生きてはいないかもしれない。
そんな恐怖が街中を覆っていた。
熱を帯びた風がその恐怖を俺の所にも運んでくる。
「とにかく王宮へ向かうぞ!軍と合流し人々を避難させる!」
「そ、そうですね!急ぎましょう」
俺は少し混乱していた。何より恐怖していた。
生まれて初めて目の当たりにする大破壊のシーンに、すっかりビビっていた。
しかもこの時、最初に張った魔法障壁が破られた。
こんなことも初めてだった。
忘れてた。いや、思い知った。
相手は俺よりも9万も魔力が上なんだ。MPも75万も上なんだ。
魔法系のスキルレベルも俺より上だ。
慌てて“オマジャ”をかけ直すが、やっぱり長く持ちそうもない。
俺はこの世界に来てから格下の雑魚しか相手にしてこなかった。
今の俺は、ある意味では誰よりも臆病だった。
本音を言えば真っ先に逃げ出したかった。
そんな俺を“勇者殿”に戻したのはタキオくんだった。
「……ダメだ!てつおさん!エマエがさらわれてるんだ!僕らはエマエを助けに行かなきゃ!」
そ、そうだった。エマエが、女神様がさらわれてるんだ。
やっぱり助けに行くべきだろうか。
あんな女神様でも?
あのちんちくりんで、声がキンキン甲高くて、少しもじっとしてられなくて、酒癖が悪くて、俺をこんな世界に勝手に召喚して……
そうだ。俺を勝手に召喚しやがって!
そのせいで……!そのせいで俺は……
ちょっとだけ最強気分が味わえて、好きなRPG世界で冒険らしいことができて、少しも退屈しなくて、色んな人と会えて、多分ちょっと成長できて……
あ、そういえばおっぱい触らせてもらったんだった。
「……そうだ。助けに行かなきゃな!絶対に!!」
多分人間でいうところのBカップってとこだった。
多分人間でいうところの“良いヤツ”ってとこだった。
たとえ格上が相手でも、助けに行かなきゃ夢見が悪そうだ。
概念世界とかから夢に出てきて、寝てる間中文句を言ってくる姿が容易に想像できる。
「ハヤさんごめん!俺たちは、エマエを助けに行く!」
「エマエ!?あの守護妖精か!……分かった!道中、可能な限り人々を助けてやってくれ!」
「……いや、そうもしてられないな」
「てつおさん!?」
「なッ!?何を言うのだ!」
街の人たちなんかどうでもいいという訳ではない。
あまりに後手後手に回り過ぎているってことだ。
魔法で空爆してくるから、魔法障壁を張る。
魔法障壁が破られる。また張る。
いつか俺のMPは切れて、逃げ惑う人たちを助けられなくなる。
考えろてつお!得意なゲーム風に考えろ……!
……元を断たなきゃダメだ!
タワーディフェンスものは戦線を押し上げてナンボだ!
「俺はちょっと飛ぶ!あの魔法陣を壊してくる!」
俺は【飛行】を使った。
道端で燃える炎の煙を吹き飛ばしながら、俺は魔法陣へ一直線に飛んだ。
思い出す。【飛行】は、エマエを引っ叩いてやりたくて使いこなせるようになったスキルだ。
「ひ、人だ!」
「な、何だアレは!人が空を飛んでるぞ!」
街の人たちの恐怖の眼差しを浴びながら、俺は魔法障壁のギリギリのところまで近寄った。
紫色に光る文字が円形状に回転している。
見渡す限りの視界の端にも術者はいない。
どんな魔法か見当もつかないが、魔法ならば必ず【分解】できるはずだ。実験済みだ。
俺は魔法陣に、【分解】の網目を投げかけた。
最大限に魔力を使っているのに、中々【分解】できない。
分かったのは、この魔法陣は自動的に“アチアチ”と“ビリビリ”を複合させた魔法を唱え続けることぐらいだった。
どうやら自分よりも高い魔力で唱えられた魔法は完全には【分解】できないらしい。
結局、魔法陣がどんな仕組みかは分からなかったが、それで充分だった。
“アチアチ”なら、俺にも【分解】できる。
そう、俺自身の魔法ならできるんだ。
さて、急がないと、俺の魔法障壁はそろそろまた壊れる。
俺は“アチアチ”を唱えまくり、それを全て【分解】した。
燃料となる魔力と起爆用の魔力が空中に広がる。
起爆用の魔力はもう一度【分解】して、消してしまう。
そして空中に浮かぶ燃料魔力全てに、“オマジャ”を唱えた。
出力は半分ぐらい、大きさは魔法陣ひとつをすっぽり覆えるぐらい。
この燃料入り魔法障壁、名付けて“アチアチシャボン”が、魔法陣の数だけ完成した。
後はタイミングだ。
俺の魔法障壁が限界を迎え壊れるその瞬間に合わせて、この“アチアチシャボン”を各魔法陣に撃ち込むだけだ。
魔法障壁にヒビが入る。3……2……1……今!
本日二度目の魔法障壁が崩れるシーンだった。
だけど今度はもう怖くない。
全て上手くいった。後は魔法陣の魔力に任せればいい。
薄い緑のシャボン玉に包まれた紫の魔法陣は、次弾の為に魔力を集中させた。
そう、自動的に、だ。それが命取りだ!
魔法陣が次の魔法を発射した。
俺のバラまいた燃料に満ちたシャボン玉の中でだ。
当然、過剰な大爆発を起こして、魔法陣は綺麗に消滅した。
相手が俺より高い魔力だからこそ、俺よりも高い威力で爆発が起こせた訳だ。
相手が想定していたよりも多い燃料魔力に包まれていたからこそ、予想外の壊れ方をしてくれた訳だ。
ゲーム的に考えれば、攻略法は思いつくもんだった。
さて俺は、魔法陣の大爆発による衝撃をどうにか“オマジャ”で防ぎながら、未だ上空にいた。
エマエはどこだろう。辺りを眺めても、それらしい影は見当たらなかった。
「くッそ……!どこだ……!?」
魔女チトセとやらの目的が分かんないから、どこにいるか見当もつかない。
だいたい何で、あのちっこいエマエなんか攫ったんだ?
エマエを一応は女神様と知っての狼藉か?
何より……こんなに人を犠牲にしてまでしたいことがあったのか!?
上空から見ると、街の惨状は更に分かりやすくてショッキングだった。
薙ぎ倒され、燃え落ち、砕け散った建物や道の間を、人々が叫びながら逃げ惑っている。
この景色を、何とも思わない奴を相手にしているのか……!
ビビりはしてなかったけど、俺は何となく震えた。
するとその時、王宮の方の空に、巨大な文字が浮かび上がった。
あのジュークさんの手紙や、さっきのゲラーカの手紙と同じ魔法だ。
ただ、そのスケールだけが圧倒的に違っていた。
この国のどこから誰が見ても、絶対に読めてしまう大きさだった。
そして桁違いの大きさの文字は、赤く染まりながら桁違いの声量で喋り始めた。
「随分と久しいのう?タイオー国の諸君」
これが、この声が……!
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