転生?憑依?したおっさんの俺は【この子】を幸せにしたい

くらげ

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第一章

生活改善するそうです!

俺は今、ふかふかのベッドに大の字で寝転がり天井を見上げていた。昨日、偶然実親もといパトリック様と出会った。だが、それまでの過酷な労働と精神の疲れで限界を迎えた俺はどうやらあのまま意識を失い倒れたらしい。

それからどれくらい経ったかわからないが、意識を取り戻した俺は、ふかふかのベッドの上にいた。何が起きたのか分からずゆっくりと起き上がり周りを確認していると突然、扉が開き数人の使用人を連れてパトリック様が部屋に現れた。驚きパトリック様に視線を向けるとパトリック様は、静かに俺を見つめ告げた。

「お前はこれから本邸で生活しなさい」

何を言われたか理解できずパトリック様を見つめたまま固まっていると、そんな俺から視線を外したパトリック様は、次々と使用人達に指示を出し始めた。あれよあれよと部屋に次々と荷物を運び入れる。そして、気づけばベッド以外なかった部屋に、新しい本棚や机が置かれクローゼットの中身には、新しい服が山程入れられていた。どうやら、先程のパトリック様の言葉通り俺は、これからここで生活するようだ。

(え…まじで?)

今起きてる事が現実なのか信じられず黙ってその光景を見ていると片付けが終わった使用人達は、パトリック様に頭を下げ静かに部屋を後にした。

そして現在、部屋に残されたのはパトリック様と俺の二人のみ…俺は、ベッドに視線を落とす。パトリック様は、未だずっとただ静かに俺を見つめていた。

(わぁ~…このベッドふかふかだな~…って?!?いやいや!!!確かに公爵の実の息子だしね!これが、本来の正しい環境なんだけどさ!突然すぎるんだよあんた!〖この子〗の事ずっと避けてたんじゃないのか!てか…いつまでそこにいるつもりなんですか貴方…)

俺は、急激な展開の早さに一瞬耐えられず現実逃避しかけたが、すぐに気を取り戻し自身の頭を抱えこの状況をどうしたらと悩んでいると、タイミングよく扉を数回ノックする音が響く。続けて低く落ち着きがあるオリヴァーの声が続いて扉の前から聞こえてきた。

「おはよう御座います。オリヴァーで御座います」

返事をするべきか迷っているとパトリック様が扉に視線を向け告げる。

「…入れ」
「失礼致します」

扉が静かに開くとオリヴァーが、扉の前で軽く会釈して部屋に入ってくる。今までの別邸の使用人達は、これまで無言で勝手に扉を開け怒鳴り声を上げ入ってきていたので、それに慣れきっていた俺は、その姿に驚き見つめていると。オリヴァーはわざとらしく目を丸くし口を開いた。

「おや…パトリック様、こちらにいらっしゃったのですか」
「私が、どこに居ようと私の自由だと思うが…」
「えぇ…。その通りで御座います。ですが…」
「…なんだ」
「そろそろ…ご退出をお願いしても宜しいでしょうか?」

オリヴァーの言葉に、パトリック様は少し眉をピクリと動かしオリヴァーを軽く睨む。

(いや…それはめっちゃ助かるが…大丈夫なんですか?!?!そんな事公爵様相手に言っても!怒られません!?一応、貴方のご主人様ですよね?!)

二人の何とも言えぬ空気に軽く怯えオリヴァーとパトリック様を見比べているとオリヴァーと目が合いビクリと肩が揺れる。オリヴァーは、パトリック様を無視してベッドまで近づいてきた。

(この人と会うのはこれで二度目だな…。多分、四十代後半くらいか?)

近づいてきたオリヴァーに俺は、視線を向ける。百七十センチ以上はありそうな身長にスラッとした体型に、執事服をきっちり着こなし、ブラウン色の瞳に、赤ブラウン色の髪はオールバックにセットされた顔の整ったイケおじと呼べる男性だ

顔面の高さに呆然とオリヴァーを見上げて見つめていると、オリヴァーが静かに口を開く。

「お身体のお加減はいかがでしょうか」
「…え?あ…大丈夫です?」

優しい笑みを浮かべ告げられた言葉に、目を瞬かせ驚いた俺は思わず疑問形で返事を返す。だが、すぐにハッと気を取り戻しオリヴァーから視線を外し俯いた。まさか、黒髪赤目の事を心配してくれる人がいるとは思わず驚き疑問形で返してしまった事に焦る。

(やっちまった~…なんだこいつって思われたかも…あぁ~…まさか、心配されるとは思わないじゃん!それに、普通に接せられたのも初めてで…逆になんか怖いし…)

ちらりとオリヴァーを見るとオリヴァーは、何も言わず微笑む。それに俺は、微かに怯えサッと視線を部屋の方へ向けた。

いつの間にか、パトリック様の姿が見当たらなかった。どうやらオリヴァーとのやり取りの間に部屋を出て行ったようだ。いなくなった事にホッとして少し俯き小さく息を吐くと肩から少し力が抜けた。

「…パトリック様が…私めが怖いですか」

告げられた言葉に、顔を上げオリヴァーを見上げる。
見上げたオリヴァーの表情は、少し悲しげで辛そうな顔をしていた。なぜそんな顔をするのか分からず驚き目を見開きすぐに視線を逸らし告げた。

「いえ……あの……………はい」

一瞬、誤魔化そうと考えたが、先程のオリヴァーの顔が脳裏に浮かび誤魔化せなくなった。

(だって…あんな顔をしたこの人を見たらなんか…ここで誤魔化しちゃいけない気が…)

チラチラッとオリヴァーと自身の手元を見比べオリヴァーの次の言葉を待っていると。オリヴァーが突然、床に膝を突き俺を見上げた。

「え…!?あの……どうし…」
「私めが今ここで、貴方様に懺悔と謝罪をする事をお許しくださいませんか」
「懺悔と謝罪……?」
「はい。懺悔し謝罪しても到底、許していただける事ではないと自分自身で理解しております。ですがどうか…どうか私めの懺悔と謝罪を貴方様にお聞きいただきたいのです」

真っ直ぐ真剣な顔付きで俺を見つめ告げたオリヴァーに、俺は視線を逸らせず気づけば静かに頷いていた。

「産まれたばかりの貴方様を別邸に移すことを決めたのは…私めでした」
「…ッ!」

目を見開きオリヴァーを見つめると、オリヴァーは目を伏せ言葉を続けた。

「貴方様のお母様オリビア様が亡くなられた後、ルーゼント公爵家現当主である貴方様のお父様パトリック様は、酷く落ち込み奥様によく似た貴方様を見る度精神を更に病み…このままではパトリック様もルーゼント家も危険だと判断した私めは、貴方様を別邸に移すことを決めました」
「……そう、だったんですか…」
「お世話する為の乳母にメイドや使用人を決め傍に置き必要な生活の予算も毎年割り当てていました。ですが…乳母は最低限のお世話しかせず、メイドや使用人達は、パトリック様が貴方様に会わない事から、貴方様を憎み嫌っていると勝手に判断し、その結果…ルーゼント公爵家嫡男である貴方様に酷い扱いを……」
「……オリヴァー…さんは、俺がどんな扱いをされていたか知っていたんですね…」

オリヴァーから綴られ、語られた言葉に、俺は視線を外し自身のぼろぼろな手の平を見つめる。

「…はい。ですが、貴方様がどんな扱いを受けていたか詳細に知ったのは、四年前でした。別邸の監視を命じていた者が何者かに金を握らされ報告書を偽っており…四年前、貴方様の生活の為に当てた予算が半分に減らされている事に気づき命じていた者を問い質した事で発覚したのです」
「……………」

この子の手は、過酷な労働と酷い扱いで細く傷つき左手には大きな傷があり、右手の小指は、微かに曲がっていた。

「詳細な貴方様の報告書を読み直ぐ様、、パトリック様に何度も報告書に目を通してほしいと懇願致しましたが…パトリック様は、奥様の死に…貴方様に向き合う事を恐れ目を逸らし続け、そして、気づけば八年もの時が過ぎてしまった」
「オリヴァーさん…」
「詳細な報告書を読み、気づいた時、すぐに私めが別邸へ向かい貴方様をお助けすれば良かったと…昨日貴方様にお会いしてどれだけ強く後悔したか…。もっと予算が減らされている事に早く気付いていれば…例え、罰せられる事になってでもパトリック様に、あの報告書を読ませれば良かったと………っ!」

オリヴァーは、眉に皺を寄せ、震える自身の拳を握り、奥歯をギリッと強く噛み締めた。その姿を見て俺の胸の奥が微かに揺れるのを感じる。

(なぁ~…この子を想う人がいた。確かにいたんだぞ…よかったな…)

自身の胸に手を当て、もういない〖この子〗に語り掛ける。
ずっと一人ぼっちで訳が分からず忌み嫌われ蔑まれ、味方なんていないと思っていた。でもこの子を心から心配し助けようとしてくれていた人が、たった一人でも確かにいた。

胸の奥がじわりと熱を持ち、暖かくなる。
目を伏せ、俯いていると、オリヴァーが言葉を続けた。

「私めの犯した罪も酷い過去も消えない。ですが、貴方様に懺悔し謝罪する事をお許し下さい。許されるとは思っておりません。許されようとも思っておりません。ただ私めの犯した罪を貴方様には知っていてほしかった…」

オリヴァーは、苦しげな面持ちで告げ終わると、頭を下げ「…申し訳御座いません」と今にも消え入りそうな声で呟いた。
俺は、まだ微かに動きづらい身体を何とか動かし、オリヴァーの近くへ移動した。俺が動いた事に動揺したのか顔を上げたオリヴァーと目が合う。

(確かに過去は消えない…この人の罪も…でも…)

手を伸ばしオリヴァーの肩に触れるとオリヴァーの肩がピクリと反応し俺を見つめる視線が揺れた。

「オリヴァーさん…ありがとうございます」
「────…ッ!そんなッ!罵倒などならともかく、感謝される様な事など何一つないのです!私めは…ッ!」

首を横に振りオリヴァーの言葉を止め俺は言葉を紡ぐ。

「俺は…ずっと、この家の全員に疎まれ忌み嫌われ蔑まれ一人ぼっちなのだと思っていました。誰もこの子を見ていない、想っている人なんていないと…でも、今のオリヴァーさんの話を聞いてそうじゃない事が分かった」
「……………!」

俺は心からの笑みを浮かべ、オリヴァーを見つめる。オリヴァーは、一瞬目を見開くとゆっくりと目を強く閉じた。

この子を想ってくれてありがとう」

その言葉にオリヴァーは目を開けると、くしゃりと顔を歪め微笑みを浮かべる。その目元に涙を乗せて…



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