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5 リュシルの事情
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「助けて頂き、ありがとうございました。」
また、布団に横にしてもらったリュシルが、ぽつりとこぼす。
「私の目が不自由なことは、ご存知なのですね?」
「ああ、保険医に聞いた。今朝も、廊下に倒れていた貴女を保健室に運んだので。」
「まあ。何度もお世話になっていることに気付きもせず、本当に申し訳なく思います。殿下、ベルナール様、ありがとうございました。」
「それは、よい。だが、これほど消耗していた理由くらいは尋ねても構わないだろうか?」
「それは、もちろん。」
リュシルは、ためらわずに答えた。外見やその様子から儚げな印象があったが、もともとの性質は芯の強いものなのだろう、と思わせる。少し思案してから、彼女は口を開いた。
「学園に入学するにあたって、着替えと路銀、着いてから作れと言われた制服用のお金を渡され、継母に家を出されました。」
「目の見えぬことを継母君は、ご存知なかったのか?」
「いえ、知っております。目の病は、私に触れると移るのだと屋敷で常に言っており、異母妹や異母弟、使用人にも近寄るなと命じていましたから。」
「……?!」
「……学園へ行けと言われても、どうしたら良いのか途方にくれまして。そうしていたら、私の小さい頃から子爵家に仕えていた侍女が、子爵家を退職したと付いてきてくれました。」
話を聞いていた二人がほ、と息を吐いた。
「王都へ着く直前のことです。エマが、その、付いてきてくれた侍女が、倒れてしまったのです。……もう、本当に侍女も引退しようかという年でしたから、疲れも溜まったのかもしれません。それで、王都へ着いてすぐ、乗り合い馬車に一緒に乗っていた方々に協力して頂き、エマを治療院へ預けました。しばらく、そちらに置いてもらって治療してもらうために、持ち合わせのお金をすべて渡してきたのです。私は、学園にさえ行けば、寝ることもできるし、食事もあると考えて、学園に入りました。」
「ブラン子爵令嬢、失礼しますよ。」
疲れたように目を閉じる様子を見て、マクシムがそっと抱き起こし、水の入ったコップを口に当てる。ごくごくと飲んでから、少し微笑んだ。
「本当に、色々と申し訳ありません。一生分の優しさを貰っているようです。」
「当たり前のことをしているだけですので、お気になさらないでください。」
「学園に着いたと言っても、見えなくては、生活もできまい。」
シリルが口を挟む。
「実は、気合いを入れると見ることができます。皆様が見ている光景と同じなのかは分からないのですが、生活に支障ないように見ることができるのです。」
「「気合い?」」
シリルとマクシムの声が重なる。
「はい、このように。」
まだ、マクシムに背中を支えられたままのリュシルが声を出すと、目の辺りに魔力が揺らぐのが感じられた。そして、首を動かしてシリルを見る。きらきらとリュシルの大きな薄い茶色の目が潤んで、シリルの翠の瞳を捕らえた。
「見つけました。」
にこ、と笑う。
「殿下の目は、綺麗な翠、で合っていますか?」
「あ、ああ…」
シリルが驚いている間に、その目はマクシムへと移った。
「ベルナール様は、私と同じ茶色の目。どうでしょう?」
「はい、確かに茶色です。見えてますね。魔力の利用による器官の増強ですかね?」
「仕組みも何も、よく分かりません。母と、その、実母と色々考えて編み出した方法なのです。このおかげで、本も読めますし、ちゃんと家庭教師にも来て頂いて、お勉強やダンス、マナーの勉強なども貴族としての最低限のことは習ってこれました。……その、継母に止められるまでは。」
そこで、言いにくそうに一旦、口をつぐむ。
「普通の生活をしていれば、支障はないのです。朝から夜まで、見ることができていました。……一年前からでしょうか。父が王都で役職に就き、こちらに滞在し始めた頃、そして、異母弟が生まれた頃、私の目の病は触れると移る、と継母が言い出しまして、与えられた部屋から出ることを許されなくなりました。食事に、食べてはいけないものが混ざり始めたのもその頃です。」
「毒か?」
「分かりません。食べてはいけないもの、です。食事を持ってきてくれたエマに、これは食べられないものだ、と言うと首を傾げていましたから、見ても分からないのかもしれません。ただ、私の目には、食べられないものとして視えています。食べられないものしか出されていないのですから、食事を抜くしかありませんでした。それでも、エマが何とか頑張ってくれまして、命は繋いできたのですが、身体が不調になると、見ることがなかなか難しくなってきます。ほんの短時間しか見ることができなくなっていた所に、勝手の分からない学園で生活をすることになると、行かなくてはならない場所を把握するだけで力を使い果たしてしまい、食堂へもたどり着けず、ますます何もできなくなる、という悪循環でございました。」
また、布団に横にしてもらったリュシルが、ぽつりとこぼす。
「私の目が不自由なことは、ご存知なのですね?」
「ああ、保険医に聞いた。今朝も、廊下に倒れていた貴女を保健室に運んだので。」
「まあ。何度もお世話になっていることに気付きもせず、本当に申し訳なく思います。殿下、ベルナール様、ありがとうございました。」
「それは、よい。だが、これほど消耗していた理由くらいは尋ねても構わないだろうか?」
「それは、もちろん。」
リュシルは、ためらわずに答えた。外見やその様子から儚げな印象があったが、もともとの性質は芯の強いものなのだろう、と思わせる。少し思案してから、彼女は口を開いた。
「学園に入学するにあたって、着替えと路銀、着いてから作れと言われた制服用のお金を渡され、継母に家を出されました。」
「目の見えぬことを継母君は、ご存知なかったのか?」
「いえ、知っております。目の病は、私に触れると移るのだと屋敷で常に言っており、異母妹や異母弟、使用人にも近寄るなと命じていましたから。」
「……?!」
「……学園へ行けと言われても、どうしたら良いのか途方にくれまして。そうしていたら、私の小さい頃から子爵家に仕えていた侍女が、子爵家を退職したと付いてきてくれました。」
話を聞いていた二人がほ、と息を吐いた。
「王都へ着く直前のことです。エマが、その、付いてきてくれた侍女が、倒れてしまったのです。……もう、本当に侍女も引退しようかという年でしたから、疲れも溜まったのかもしれません。それで、王都へ着いてすぐ、乗り合い馬車に一緒に乗っていた方々に協力して頂き、エマを治療院へ預けました。しばらく、そちらに置いてもらって治療してもらうために、持ち合わせのお金をすべて渡してきたのです。私は、学園にさえ行けば、寝ることもできるし、食事もあると考えて、学園に入りました。」
「ブラン子爵令嬢、失礼しますよ。」
疲れたように目を閉じる様子を見て、マクシムがそっと抱き起こし、水の入ったコップを口に当てる。ごくごくと飲んでから、少し微笑んだ。
「本当に、色々と申し訳ありません。一生分の優しさを貰っているようです。」
「当たり前のことをしているだけですので、お気になさらないでください。」
「学園に着いたと言っても、見えなくては、生活もできまい。」
シリルが口を挟む。
「実は、気合いを入れると見ることができます。皆様が見ている光景と同じなのかは分からないのですが、生活に支障ないように見ることができるのです。」
「「気合い?」」
シリルとマクシムの声が重なる。
「はい、このように。」
まだ、マクシムに背中を支えられたままのリュシルが声を出すと、目の辺りに魔力が揺らぐのが感じられた。そして、首を動かしてシリルを見る。きらきらとリュシルの大きな薄い茶色の目が潤んで、シリルの翠の瞳を捕らえた。
「見つけました。」
にこ、と笑う。
「殿下の目は、綺麗な翠、で合っていますか?」
「あ、ああ…」
シリルが驚いている間に、その目はマクシムへと移った。
「ベルナール様は、私と同じ茶色の目。どうでしょう?」
「はい、確かに茶色です。見えてますね。魔力の利用による器官の増強ですかね?」
「仕組みも何も、よく分かりません。母と、その、実母と色々考えて編み出した方法なのです。このおかげで、本も読めますし、ちゃんと家庭教師にも来て頂いて、お勉強やダンス、マナーの勉強なども貴族としての最低限のことは習ってこれました。……その、継母に止められるまでは。」
そこで、言いにくそうに一旦、口をつぐむ。
「普通の生活をしていれば、支障はないのです。朝から夜まで、見ることができていました。……一年前からでしょうか。父が王都で役職に就き、こちらに滞在し始めた頃、そして、異母弟が生まれた頃、私の目の病は触れると移る、と継母が言い出しまして、与えられた部屋から出ることを許されなくなりました。食事に、食べてはいけないものが混ざり始めたのもその頃です。」
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「分かりません。食べてはいけないもの、です。食事を持ってきてくれたエマに、これは食べられないものだ、と言うと首を傾げていましたから、見ても分からないのかもしれません。ただ、私の目には、食べられないものとして視えています。食べられないものしか出されていないのですから、食事を抜くしかありませんでした。それでも、エマが何とか頑張ってくれまして、命は繋いできたのですが、身体が不調になると、見ることがなかなか難しくなってきます。ほんの短時間しか見ることができなくなっていた所に、勝手の分からない学園で生活をすることになると、行かなくてはならない場所を把握するだけで力を使い果たしてしまい、食堂へもたどり着けず、ますます何もできなくなる、という悪循環でございました。」
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