【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

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「兄上。」

 やっぱり来たか、というのがシリルの感想だった。話した方が良いのだろうが、先延ばしにできるものなら、したい。
 昼の食事は、見つかりにくいようにわざと、一番値段の安いメニューが置いてある食堂にしたというのに。
 シャルルが現れたことで騒然としてしまった食堂の隅で、シリルは溜め息をついた。

「何故、その死神はまだ、兄上の隣にいらっしゃるのでしょうか?」

 相変わらずの大所帯で近づいてきたシャルルは、険しい顔で、座っているシリルとその隣のリュシルを見下ろす。

「何の話だ?」

「死神リュカは、何故まだ兄上の侍従をしているのかと聞いているのです。」

「死神?リュカが?め……守り神の間違いじゃないか?」

 女神と言いかけた。危ない。

「人殺しが、守り神?」

「お前は、新聞は毎日読んでいるか?」

 シャルルは、首を傾げる。今日も、話が噛み合っていないような気がする。

「最近は、読んでおりませんでした。」

「毎日、目を通すようにしろ。私と話したいなら、先週の新聞だけでも目を通してから来い。」

「新聞には虚偽があふれております。」

「虚実入り交じっている。どれが本当の情報かを見極める力をつけることだ。新聞を読まなければ、その訓練もできない。そして、噂話というものも、虚実入り交じっているものだ。新聞よりも、調べたりしていない分、虚偽が混じりやすい。」

 む、とシャルルが口をつぐんだ。

「結局あなたは、シャルル殿下の質問にお答えになっておられない!」

 いつものように、侯爵令息ジャンが割り込んでくる。

「シャルル殿下の質問は、殿下の調べが足りていないため、答えることができない、と申し上げていらっしゃいます。」

 当然のようにシリルと一緒にいた子爵令息ジュストが、答えた。

「なんだ、お前は。お前ごときが、口を挟むな。」

「シャルル殿下とシリル殿下のお話のお邪魔をする気はございません。俺は、貴方の担当です。」

「出ていけ。」

「俺は、シリル殿下とリュカと友人になったので、一緒に昼休みを過ごそうとここにいます。貴方には、関係ない。」

 かっとしたジャンが上げた手は、シリルの護衛騎士ドミニクに掴まれた。

「新聞を読んできます。」

 シャルルが、小さな声で言って踵を返す。慌てて、侍従、護衛騎士、側近候補が後を追い、掴まれていた手を忌々しげに振り払ったジャンも後を追って行った。
 はあ、とシリルが溜め息をつくと、リュシルが肩を竦めて立ち上がった。

「今日の昼食は、何になさいますか?私は、サンドイッチとオレンジジュースにします。」

「私は日替わり定食にするよ。デザートはいいのか、リュカ。」

「食べてから、入るようなら追加します。」

「リュカは、やっぱり少食なんですね。予想通りです。」

「ジュスト様の昼食は?」

「あー、いや。今日は無理かな。」

 ジュストはそう言いながら、頭をかく。

「いつも、寮の掃除や教授の手伝いをしたり、ノートを貸したりして稼いでいるのですが、試験の前はさすがにあまり時間が取れなくて。更にその後で、学園が一週間休みになったから、今日はまったくお金がないんです。明日は、今日、寮に帰ってからの仕事次第ですね。」

 何でもないことのように言って笑う。確かに先ほど、昼休みを一緒に過ごす、と言っていた。昼食を食べるとは言っていなかった。

「……一週間、学園が休みになった責任を取ろう。好きな物を頼むといい。」

 少し考えたシリルが言った。

「……殿下、このような生活は私だけではありませんよ。寮の掃除も教授の手伝いも取り合いです。朝晩の食事が保証されているのだから、恵まれているのです。」

「見知らぬ者のことまで考えたりはしない。見える範囲で、自分のしたいことをする。私たちは、友人なのだろう?」

 ジュストが目を大きく見開いた。口を開きかけて、また閉じる。

「気になるなら、貸しにするか?」

「こ、この食堂で一番高いメニューを頼んだら、呆れますか?デ、デザートも食べてみたいって言ったら、友人やめてしまう?」

「王子の小遣い、馬鹿にしてるのか?」

 シリルは、同年代の友人というのが初めてだったので、楽しくなってきて、少し口元が緩みながら言った。

「デザートは、リュカが食べるなら一緒に頼んでもらったらいい。リュカがいらなかったら、今日は無し。」
 
 その後の食事は、目を輝かせて食堂のスペシャルボリューム定食を食べながら、デザートまで食べような、とリュカに頼み込むジュストと、とても美味しく楽しく食べることができた。
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