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43 母と子
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「足を、治せると言ったら、治す?」
シリルの言葉にシャルルは首を振った。
「このまま、母上とお会いして話がしたい。」
「私も同席して良いか?」
「是非お願いします。できればリュカも。」
「リュカも?」
「守り神を少しお借りしたい気分なので。」
「分かった。すぐに手配しよう。」
王妃は今までの自室ではなく、周りに人を配置しやすい客室に置かれていた。警戒しなくてはいけない国からの使者などを泊める部屋である。外からしか鍵がかからない造りになっている。
その扱いの意味が分からない、と思いつつ騒ぎ立てるのもはしたない気がして、そこで一日を過ごした。近衛騎士が話を聞きたいと来たが、気分が優れないと追い返した。
侍女は見たことのない者ばかりが来る。世話の仕方がいつも通りでなく、最低限のことだけして出ていくので、次第に苛々とした気持ちが募って行く。
実家の公爵家に手紙を書きたいが、ペンと紙を貰うことはできなかった。
また部屋のドアがノックされる。返事もせずに椅子に座っていたが、ノックは幾度か繰り返された後、
「シャルルです、母上。お会いできますか?」
という声が聞こえた。
「シャルル?」
王妃は慌てて扉へ近付く。
「無事だったのですね。毒を盛られるなんてひどい目にあって。」
「……お入りしてもよろしいか?」
「ええ。勿論だわ。」
部屋へ入ってきたシャルルは、車椅子に乗っていた。車椅子を押してきた護衛騎士が頭を下げて出ていく。その後ろからシリルとリュシルが入ってきた。護衛騎士としてマクシムも付いている。マクシムは、当番の日では無かったが、王妃の部屋へ行くのなら、是非自分が行きたいと申し出たのだ。
「シャルルにしか入室の許可は出していないわ。」
「私が、シリル殿下に共にいて欲しいとお願いしたのです。正確には、リュカにいて欲しい。彼は殿下の守り神。恐ろしい目にあった私も、頼りたくなりました。」
「確かに、恐ろしい目にあったわね。そこの者共のせいで。」
「いいえ、母上。私が飲んだ紅茶は、もともとシリル殿下の前に置かれていたものですよ。お忘れですか?紅茶を置いたのは、母上の侍女でしょう?」
「何故、あのような真似をしたのです?自分の前にあるものと取り替えるなど。」
「信じたくなかった。母上が、ずっと兄上を殺そうとしていたことを。兄上を狙って盛られた毒の出処が母上であることを。」
「何を言っているの?」
「だから、兄上の紅茶を試しに飲んでみたのです。毒は、ありました。兄上の紅茶に毒が入っておりました。苦しかった。辛かった。あんなに、あんなに苦しい思いを何度も何度も幼い頃からしていたなんて。それが、私のことを可愛がって育ててくれた母上の仕業だなんて。」
「お前は、シリルの手土産の焼き菓子の毒で倒れたのでしょう?」
「お聞きになっておられませんか。その菓子に毒はありませんでした。毒は、母上の侍女が淹れたシリル殿下用の紅茶から出てきました。それと、母上が準備した菓子の中の幾つかから。貴女が指示を出したのだと侍女が言いました。王妃様のご命令です、と。」
「訳が分からないわ。私を陥れてどうしたいのかしら?それとも、シャルルを殺してシリルが王太子となるための罠に、私も巻き込まれているの?」
「母上。私を殺さなくても、シリル殿下が王太子であることに変わりはありません。そんな必要は無いのです。そして、私は今回の毒で足が動かなくなりました。陛下や殿下の家臣としてお役に立つことができないかもしれません。そのことを、悲しく思います。」
王妃はやっと、シャルルが車椅子であることに気付いたようだった。呆然と息子を見下ろす。
「……足が、動かない?」
「ええ。毒の量が多かったのか、手当てが少し遅かったのでしょうね。侍女か母上がすぐに毒の種類を教えてくれていれば間に合ったのに、と医師は申しておりました。」
「ばかな、そんなばかな。」
「事実です。リュカが小瓶を見つけてくれなければ、命も危うかったとご存知でしたか?」
「シリルは、シリルの足は動いているわ。」
「そうですね。」
「何故、何故シャルルはたった一回で足が動かなくなるの?」
「たった一回、と仰るか。」
シャルルはシリルを見上げた。体格の勝る自分が兄を見上げたことなど無かったなと思いながら。
「貴女は、死の苦しみを一体何度、この方に……。」
シャルルは不意に気付いた。シリルがあまりものを食べず、いつも痩せ細っていたのは、食べることが恐ろしかったから?どこに混ぜられているか分からないこの苦しみへの恐怖を常に感じていたのなら。
「なんと、なんということを……。」
シャルルは母を睨み付けた。
「せめて、謝罪を。そして、罪を償ってください。」
だが、王妃はその場に泣き崩れた。
「何故、私ばかりこんな酷い目に会うの。わたくしが、何をしたと言うの。」
シリルの言葉にシャルルは首を振った。
「このまま、母上とお会いして話がしたい。」
「私も同席して良いか?」
「是非お願いします。できればリュカも。」
「リュカも?」
「守り神を少しお借りしたい気分なので。」
「分かった。すぐに手配しよう。」
王妃は今までの自室ではなく、周りに人を配置しやすい客室に置かれていた。警戒しなくてはいけない国からの使者などを泊める部屋である。外からしか鍵がかからない造りになっている。
その扱いの意味が分からない、と思いつつ騒ぎ立てるのもはしたない気がして、そこで一日を過ごした。近衛騎士が話を聞きたいと来たが、気分が優れないと追い返した。
侍女は見たことのない者ばかりが来る。世話の仕方がいつも通りでなく、最低限のことだけして出ていくので、次第に苛々とした気持ちが募って行く。
実家の公爵家に手紙を書きたいが、ペンと紙を貰うことはできなかった。
また部屋のドアがノックされる。返事もせずに椅子に座っていたが、ノックは幾度か繰り返された後、
「シャルルです、母上。お会いできますか?」
という声が聞こえた。
「シャルル?」
王妃は慌てて扉へ近付く。
「無事だったのですね。毒を盛られるなんてひどい目にあって。」
「……お入りしてもよろしいか?」
「ええ。勿論だわ。」
部屋へ入ってきたシャルルは、車椅子に乗っていた。車椅子を押してきた護衛騎士が頭を下げて出ていく。その後ろからシリルとリュシルが入ってきた。護衛騎士としてマクシムも付いている。マクシムは、当番の日では無かったが、王妃の部屋へ行くのなら、是非自分が行きたいと申し出たのだ。
「シャルルにしか入室の許可は出していないわ。」
「私が、シリル殿下に共にいて欲しいとお願いしたのです。正確には、リュカにいて欲しい。彼は殿下の守り神。恐ろしい目にあった私も、頼りたくなりました。」
「確かに、恐ろしい目にあったわね。そこの者共のせいで。」
「いいえ、母上。私が飲んだ紅茶は、もともとシリル殿下の前に置かれていたものですよ。お忘れですか?紅茶を置いたのは、母上の侍女でしょう?」
「何故、あのような真似をしたのです?自分の前にあるものと取り替えるなど。」
「信じたくなかった。母上が、ずっと兄上を殺そうとしていたことを。兄上を狙って盛られた毒の出処が母上であることを。」
「何を言っているの?」
「だから、兄上の紅茶を試しに飲んでみたのです。毒は、ありました。兄上の紅茶に毒が入っておりました。苦しかった。辛かった。あんなに、あんなに苦しい思いを何度も何度も幼い頃からしていたなんて。それが、私のことを可愛がって育ててくれた母上の仕業だなんて。」
「お前は、シリルの手土産の焼き菓子の毒で倒れたのでしょう?」
「お聞きになっておられませんか。その菓子に毒はありませんでした。毒は、母上の侍女が淹れたシリル殿下用の紅茶から出てきました。それと、母上が準備した菓子の中の幾つかから。貴女が指示を出したのだと侍女が言いました。王妃様のご命令です、と。」
「訳が分からないわ。私を陥れてどうしたいのかしら?それとも、シャルルを殺してシリルが王太子となるための罠に、私も巻き込まれているの?」
「母上。私を殺さなくても、シリル殿下が王太子であることに変わりはありません。そんな必要は無いのです。そして、私は今回の毒で足が動かなくなりました。陛下や殿下の家臣としてお役に立つことができないかもしれません。そのことを、悲しく思います。」
王妃はやっと、シャルルが車椅子であることに気付いたようだった。呆然と息子を見下ろす。
「……足が、動かない?」
「ええ。毒の量が多かったのか、手当てが少し遅かったのでしょうね。侍女か母上がすぐに毒の種類を教えてくれていれば間に合ったのに、と医師は申しておりました。」
「ばかな、そんなばかな。」
「事実です。リュカが小瓶を見つけてくれなければ、命も危うかったとご存知でしたか?」
「シリルは、シリルの足は動いているわ。」
「そうですね。」
「何故、何故シャルルはたった一回で足が動かなくなるの?」
「たった一回、と仰るか。」
シャルルはシリルを見上げた。体格の勝る自分が兄を見上げたことなど無かったなと思いながら。
「貴女は、死の苦しみを一体何度、この方に……。」
シャルルは不意に気付いた。シリルがあまりものを食べず、いつも痩せ細っていたのは、食べることが恐ろしかったから?どこに混ぜられているか分からないこの苦しみへの恐怖を常に感じていたのなら。
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シャルルは母を睨み付けた。
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