【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

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44 王の妃

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 シャルルもシリルもマクシムもリュシルも、耳を疑った。この人は今、なんと言った?
 床に崩れて座り、ハンカチを目元に当てている姿は悲しみにくれていて、目の前にいて手助けもしない自分達が、ひどい目にあわせているかのような錯覚を起こさせる。
 マクシムは、唖然としていた。何をしたと言うの、と言ったのか?毒を盛ってシリル殿下を殺そうとしたのじゃないのか。
 そっと扉を開けて見張りの騎士を呼び、書記官を呼んで欲しいと伝えた。この人の言葉を、聞いただけで理解するのは難しい。気付かれないように記録できないだろうか。扉を少し開けたまま、着いたらそこで聞こえたことを記録して欲しいと伝えた。
 そして、床に崩れて淑やかに泣いている王妃へ声をかける。

「失礼致します、王妃殿下。お椅子へお座りになられた方がよろしいかと存じます。ご不快でなければ、手をお貸ししてもよろしいでしょうか。」

 潤んだ目をマクシムへ向けた王妃は、許す、と小さな声で言い、慣れた様子で手を差し出した。ソファへと導き座らせると、シャルルの車椅子を押してソファの向かい側に置く。シリルも、王妃の座った対面のソファに座り、リュシルは紅茶を用意し始めた。
 しん、とした室内に、リュシルが紅茶を淹れる音だけが響く。王妃は顔を上げてそちらを見て、ひっ、と喉を引きつらせた。

「お、お前は何をしているの?」

「紅茶を淹れております。」

 一度手を止めて、しっかりと頭を下げながらリュシルは答えた。そして再び作業に戻る。三つの紅茶を淹れると、シリルとシャルル、王妃の前に置いた。

「早く、早く下げて頂戴。わ、私を殺そうというの?」

 がたがたと震えながら王妃は置かれた紅茶を見つめた。

「死神に紅茶を準備させるなんて、何を考えて……。ああシリル、そなたは私を殺そうとしているのか。」

 シャルルとシリルは何も答えず、リュシルを見た。リュシルは、にこりと笑って頷く。シリルはそれに笑みを返し、美味しそうに紅茶を飲んだ。シャルルも、手を少し震わせながらも紅茶を持ち上げ、口をつける。
 事前に、シリルからまじないをかけてもらっていなければ、しばらく紅茶は飲めなかったかもしれない。   
 シリルは言った。詳しく言えないけれど、リュカは毒を必ず見つける力を持っている。リュカが頷いたら、絶対にその食べ物や飲み物は大丈夫だから。私も先に口に入れるから、見てから口に入れるといい。

「美味しいですよ、母上。」

「シャルル、どうして。どうして飲めるの?毒で酷い目にあったばかりだというのに、また死神の手から出た紅茶を飲むなんて。私の渡したものしか食べてはいけないと、あの時も言ったのに、どうして母の言うことが聞けないの?」

「母上の指示した紅茶を飲んで酷い目にあったのです。母上に渡される食べ物は金輪際食べませんよ?」

「何を言っているのか分からないわ。とりあえず、これを下げて頂戴。毒が入っているかと思うと、恐ろしくて触れることもできない。」

「何故、そのように思うのか分かりませんが、毒が入っているかもしれない飲み物が身近に置かれている恐怖を味わって頂けたのなら幸いです。」

 シリルは、この部屋に入って初めて口を開いた。

「貴女は、それを私に繰り返してきた。私はリュカと出会うまで、食べ物に味を感じることなどないくらいに恐怖してきましたよ。食べても食べなくても死ぬ。王宮で王子が飢え死に、なんて面白いですよね。」

「シリル。シャルルと私を殺して王太子になるの?そのために、毒を入れたの?」

「私は毒を使用したことなど、一度もありません。神に誓って。」

「……どうしてお前の足は動いていて、シャルルの足は動かないの?」

「それは、どういう意味ですか。」

「おかしいじゃない?たった一回で。」

「私には何回も何回も毒を盛ったのに?」

「いいえ。私は紅茶を淹れたりできません。どうやって盛れるというの?」

「では、何がおかしいのですか?」

 王妃の言っていることは、まったく支離滅裂だった。

「……どうして。どうして私はこんな目にばかりあうのかしら。」

  ぶつぶつと呟き始める声に全員で耳をすます。

「王の妃となるために小さな頃から頑張ってきたのに、突然、王となるはずの婚約者の足が動かなくなった、王族でもなくなったといわれたあの日から、私の人生は狂ってしまった。王が違う方なのなら、その方と私が一緒になればよいだけの話なのに、皆もそれでよいと言うのに、王はもう妻がいると言う。何の努力もしておらぬ身分の低い女など、追い出してしまえばよいだけではないか。子どもができたとて、それが何だというのです?私がいれば、子どももできる。その女もその女の子どもも邪魔でしかない。早く排除することこそ、国のため、王のため。私が王の妃であり、私の子が王の子なのだから。」
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