【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

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52 王太子の茶会

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 学年が変わる間の休みに、王宮で茶会が開かれた。王太子が主催の茶会である。
 招待された令嬢たちの気合いの入り様は凄まじかった。出席者は、王太子と令嬢が三人。これは、あきらかな婚約者選びの茶会であろう。
 シャルルの婚約者候補を招いての茶会は、元王妃の主催で度々開催されていたが、シリルのものは、一度も無かった。もし、開催されていたとしても、未来の王妃候補では無くなったと認識されて、誰も乗り気では無かっただろう。
 しかし今は儀式も終え、王太子となったシリルである。選ばれるのは未来の王妃。シャルルの茶会に出ていた者は一人もおらず、そういったことからもここに出席できるというのは、大きな意味合いを持っていた。
 その令嬢たちの家は、メルシエ公爵の派閥ではなく、これからのこの国の中枢を担っていくと期待されている証ともなったのだ。
 周囲の人々の気合いが入れば入るほど、シリルは追い詰められていた。
 シリルは茶会が嫌いである。元王妃に、母と共に招かれることがあったが、その度に二人で体調を崩した。シャルルが倒れたのも、茶会の場であった。
 シリルにとって、茶会は恐怖の行事なのだ。
 しかし、王にはそのことが分かっていなかった。すべての準備を整えて、シリルをその茶会に出席させた。リュカにその時間、別の仕事を与えてシリルから引き離し、茶会での世話は、バジルとトリスタンがするように、と申し伝えて。
 リュシル無しでの茶会など、シリルには到底無理であった。
 茶会に向かう前から姿の見えないリュシルを探して、何度もリュカは何処だと尋ねるが、バジルもトリスタンも、別の仕事をしています、と言うばかり。リュカがいないと茶会になど行けない、と言うのだが、聞いてくれない。
 バジルとトリスタンも内心、これは良くない、と思っていたが、王命である。逆らうことができず、シリルをリュシル無しで茶会に連れていくしかできなかった。
 果たして、会場に入り整えられた場を見たときには、冷や汗が止まらなくなっていた。もう毒を飲んでしまったかのように手足の先が冷えている。
 笑顔を貼り付けることもできずに名乗りの挨拶をし合い、席に着いた頃には、がたがたと震え出していた。
 招待された令嬢たちはとても緊張していたので、シリルの様子がおかしいことにもさして気付かずに、話しかける。

「シリル殿下。この度はお招き頂きありがとうございます。わたくしの家のシェフに作らせたフィナンシェをもって参りましたの。お口に合うとよろしいのですけれど。」

 シリルの右隣に座ったクリーム色のドレスの令嬢がシリルに話しかけながら、机の上に並べられた様々なお菓子の中からフィナンシェを示した。
 自らの連れてきた侍女を呼んで、取り分けさせ、シリルの前に置く。
 その間に、トリスタンの淹れた紅茶が並べられていく。
 
「わたくしも、こちらのクリームタルトをもって参りました。是非、味見して頂きたいですわ。」

 シリルの左隣の令嬢のドレスは淡い水色だった。また、シリルの前に皿が置かれる。

「あ、あ……。」

 シリルはパニック状態になっていた。リュシル、リュシル。食べられる物はどれだ。どれなら口にできる?深呼吸して落ち着こうとするが、うまく息ができない。
 気付いたのは、バジルだった。会場入りしたときから様子はおかしかったが、何とか誤魔化していたように見えたシリルが、ぐらぐらと揺れ始めたのだ。

「失礼します。」

 といってシリルの顔を覗きこんだ時にはもう、シリルは真っ青な顔で呼吸の仕方を忘れていた。

「誰か、すぐに医師を。」

 声を上げながら、横抱きにしてしゃがみこみ、服の首もとを緩める。

「殿下、聞こえますか。俺を見てください。分かりますか。息を吐いて。ゆっくり。吐き終えたら吸って。」

 シリルを抱き締めて、ゆっくり一定のリズムで背中を優しく叩くとようやく強張りが解けた。ほっとした頃に、医師が駆け付ける。
 
「リュシル……。リュシル。」

 バジルはシリルの小さな呟きを聞いて、重いため息をこぼした。
 茶会はそのままお開きとなり、シリル殿下はまだお体が弱いようだとの噂が駆けめぐった。
 婚約者選びであるのだから、とリュカを連れていくことを禁じた王は、リュカが令嬢であることを知っている。視力の悪い、子爵家の令嬢であることも知っている。シリルが少なからず気に入っていることも知っている。
 もう毒が食事に入れられる心配はほとんど無くなったのだ。そろそろ離れる準備をした方がいいだろう、との親心であった。 
 もう14歳。男女が常に一緒にいていいものではない。学園も残り一年である。リュシルも令嬢としての人生に戻る方がよいだろう、との思いもあった。
 王の思惑は正しい。しかしシリルはまだ、リュシルの頷いてくれた食事しか摂ることができないのだということに、気付いていなかった。仕方ないことだ。
 シリル本人も、気付いていなかったのだから。

 
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