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55 生きている意味はここにある
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目が覚めてすぐに、リュシルを見つけた。潤んだように見える大きな目が、シリルを見ていた。ああ。シリルは息を吐いて、見つめ返す。
「殿下。ご気分は?」
手を握ったままでリュシルは尋ねた。ほとんど無意識で握っているのだろう。シリルは、細い指を握り返しながら薄く笑った。
「今、良くなった。」
「お水を持って参ります。」
少し声が掠れていることに気付いたリュシルが立ち上がろうとするのを握った手を引いて止める。
「いいから、もう少しこのままで。」
「……はい。」
外は暗くなっている。だいぶ寝ていたようだ。リュシルの細い指を撫でながらぼんやりしていると、何が不安だったのか分からなくなってくる。
「夕食は食べた?」
きっと、ずっとここにいたのだろう、と分かっていても聞いてしまう。
「いいえ。まだです、殿下。」
「一緒に食べようか。」
「はい。」
この簡単なやり取りが、シリルの食事には大切なことなのだと、しみじみ思う。けれど。
体を起こしたシリルは、握った手を引いてリュシルを抱き締めた。
「……令嬢として学園に通えるのは、あと一年だけ。」
「……?」
「このままでは、リュシル・ブランが学園を卒業できない。令嬢としてのダンスの練習もお茶会の練習も、女友達との時間も、私がすべて奪ってしまった……。すまない、リュシル。学園の最後の一年をリュシル・ブランに戻してあげたかったのだけれど。」
リュシルは黙って首を横に振る。
「私は、リュシルがいないと駄目なのだ。お茶会にも出ることのできない臆病者だ。」
「私は、殿下のお役に立てて嬉しい。私にもできることがあるのだと、生きていていいのだと思えます。学園も、楽しいです。これでいいのです。」
「リュシル・ブランとしての君を……。」
「二年間いなかったリュシル・ブランを誰か探しましたでしょうか。訪ねてきたでしょうか?いませんでした。だから、もういいのです。」
シリルは息を飲んで、リュシルから少し体を離し、顔を見た。リュシルは、特に悲しんでいるわけでも無かった。母は、彼女のたった一人の家族は死んでしまった。一人で生きていくのは大変だったし、もう死にかけていた。
それを救って側に置いてくれたシリル殿下。
「殿下をお守りします。お側におります。私の生きている意味は、ここにある。」
ありがとう、と呟いてシリルはもう一度リュシルを抱き締めた。
マクシムとバジルは、ちょうどダニエル・ブラン子爵との話を終えてシリルの部屋に戻って来たところだった。
すまない、とのシリルの声が聞こえて、侍従控え室からそっと扉を開けて様子を伺っていた。
二年間いなかったリュシル・ブランを誰か探しましたでしょうか、とリュシルが言う。二人は顔を見合わせた。あの父親は、こちらがリュシルの名前を出してもなお、首を傾げていた。いないことを知らなかった。怒りが、ふつふつと湧いてくる。リュシルは何も言わずにいたが、心を痛めていたのだろうか。休学していることに家族が気付いていないことを、どう思っていたのだろう。
私の生きている意味は、ここにある。
力強い宣言が聞こえて、マクシムとバジルは目を見開いた。リュシルは見つけたのだ、大切なものを。その命の使いどころを。
マクシムは思った。シリル殿下を助けてくれるあの小さな命を、私はきっと守ろう。
バジルは思った。シリル殿下にもリュシルにも、美味しいものをたくさん食わして、長生きしてもらおう。
二人が健やかに大人になれるように、きっと側にいよう。自分の生きている意味は、ここにあるに違いない。
「殿下。ご気分は?」
手を握ったままでリュシルは尋ねた。ほとんど無意識で握っているのだろう。シリルは、細い指を握り返しながら薄く笑った。
「今、良くなった。」
「お水を持って参ります。」
少し声が掠れていることに気付いたリュシルが立ち上がろうとするのを握った手を引いて止める。
「いいから、もう少しこのままで。」
「……はい。」
外は暗くなっている。だいぶ寝ていたようだ。リュシルの細い指を撫でながらぼんやりしていると、何が不安だったのか分からなくなってくる。
「夕食は食べた?」
きっと、ずっとここにいたのだろう、と分かっていても聞いてしまう。
「いいえ。まだです、殿下。」
「一緒に食べようか。」
「はい。」
この簡単なやり取りが、シリルの食事には大切なことなのだと、しみじみ思う。けれど。
体を起こしたシリルは、握った手を引いてリュシルを抱き締めた。
「……令嬢として学園に通えるのは、あと一年だけ。」
「……?」
「このままでは、リュシル・ブランが学園を卒業できない。令嬢としてのダンスの練習もお茶会の練習も、女友達との時間も、私がすべて奪ってしまった……。すまない、リュシル。学園の最後の一年をリュシル・ブランに戻してあげたかったのだけれど。」
リュシルは黙って首を横に振る。
「私は、リュシルがいないと駄目なのだ。お茶会にも出ることのできない臆病者だ。」
「私は、殿下のお役に立てて嬉しい。私にもできることがあるのだと、生きていていいのだと思えます。学園も、楽しいです。これでいいのです。」
「リュシル・ブランとしての君を……。」
「二年間いなかったリュシル・ブランを誰か探しましたでしょうか。訪ねてきたでしょうか?いませんでした。だから、もういいのです。」
シリルは息を飲んで、リュシルから少し体を離し、顔を見た。リュシルは、特に悲しんでいるわけでも無かった。母は、彼女のたった一人の家族は死んでしまった。一人で生きていくのは大変だったし、もう死にかけていた。
それを救って側に置いてくれたシリル殿下。
「殿下をお守りします。お側におります。私の生きている意味は、ここにある。」
ありがとう、と呟いてシリルはもう一度リュシルを抱き締めた。
マクシムとバジルは、ちょうどダニエル・ブラン子爵との話を終えてシリルの部屋に戻って来たところだった。
すまない、とのシリルの声が聞こえて、侍従控え室からそっと扉を開けて様子を伺っていた。
二年間いなかったリュシル・ブランを誰か探しましたでしょうか、とリュシルが言う。二人は顔を見合わせた。あの父親は、こちらがリュシルの名前を出してもなお、首を傾げていた。いないことを知らなかった。怒りが、ふつふつと湧いてくる。リュシルは何も言わずにいたが、心を痛めていたのだろうか。休学していることに家族が気付いていないことを、どう思っていたのだろう。
私の生きている意味は、ここにある。
力強い宣言が聞こえて、マクシムとバジルは目を見開いた。リュシルは見つけたのだ、大切なものを。その命の使いどころを。
マクシムは思った。シリル殿下を助けてくれるあの小さな命を、私はきっと守ろう。
バジルは思った。シリル殿下にもリュシルにも、美味しいものをたくさん食わして、長生きしてもらおう。
二人が健やかに大人になれるように、きっと側にいよう。自分の生きている意味は、ここにあるに違いない。
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