【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

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 ブラン子爵家の王都見物旅行二日目は、学園を訪ねることから始まった。今は学年変わりの休み中で、学園内はしん、としている。残っている者もいるが、街に仕事に出ていることが多いので静かだった。
 子どもたちは、物珍し気にきょろきょろしている。

「二人も、十二歳になったらここへ通うのですよ。」

 ブラン子爵夫人は、にこにこと説明した。そろそろ家庭教師のことも考えないといけないわね、と思いながら。
 事務室の職員は、ダニエルのことを覚えていたようだ。声をかけるとすぐに、ああ、先日は、と挨拶が返ってきた。

「先日、ご提案頂いたことだが、リュシル・ブランは退学させようと思う。退学の手続きはこちらですぐにできるのだろうか。」

 職員は、は?と首を傾げた。

「退学届けなら受理致しましたが?貴方が出されたのではないのですか?」

「あ、え?いや……。」

 また、自分のよく分からないことが起こっている。

「荷物を取りに来られたのかと思ったのですが……。」

 職員の言葉に救いを得て、大きく頷いた。

「そう。そうだ。荷物を。」

 職員は、悲しげに目を伏せた。ダニエルが訝しんでいると、事務室の奥に声をかける。事務室の窓口は小さいので、奥の方はあまり見えてはいなかった。
 事務室の扉を開けて出てきたのは騎士服のマクシム・ベルナールであった。侍従姿のバジル・シモンもいる。その後ろに、ほっそりとした金髪翠眼の少年と小さな栗色の髪茶色の目の侍従。更に後ろに騎士服の、赤味がかった茶髪の青年。

「おはようございます、ダニエル・ブラン子爵。」

 マクシムは丁寧に挨拶をした。ダニエルは戸惑いながらも挨拶を返す。

「おはようございます、マクシム・ベルナール様。」

「その一手以外なら、まだ許そうかと思っていました。お子様も小さいし、貴方はなかなか有能な文官らしい。」

 マクシムの話にダニエルは首を傾げる。

「先日のお話の後、リュシル嬢を探す素振りを見せていらしたので、様子を見ていたのです。本当に探すつもりがあれば、たどり着けないことはない。」

「あ……。は。その、先日は失礼を致しました。この通り妻にも確認をして、学園に入学してから休学しているところまでは分かりましたが、その後の行方が分からず……。こちらの職員の方に復学か退学か決める時期だと言われたので、とりあえず退学の手続きをと思い伺いました。」

 マクシムはその言葉を聞いて肩を落とした。バジルがすっと前に出る。

「先ほど、荷物を取りに来たとおっしゃっていたようですが。」

「ああ。退学届けが出ているのなら荷物を置いておいても邪魔であろうから、受け取って帰りますが。」

「お父様、まだー?」

 子ども達が退屈し始めたようだ。いつもより少し上等な服を着て、ちょこちょこと歩き回っているのが可愛らしい。夫人も困ったように、あなた、と声をかける。

「すみません。私たちはこれからまだ、行かなければいけないところがございまして。」

「行方の分からない娘を探すより大切な用件とは、何だ?」

 早々にこの場から立ち去ろうと丁寧に頭を下げていると、低い声が響いた。
 え?と顔を上げると金髪翠眼の少年が表情を変えないまま、こちらを見ている。表情からは分からないが声音には怒りが籠っていた。

「……あ、いえ、娘はその、退学していまして。」

「どこにいるんだ?」

「行方が分からなくなっております。退学届けが出ているということは、どこかで生きているのでしょう。」

「病気の子どもが?どこで?仕送りもなく?」

「お父様、早く髪飾りのお店を見に行こう。私、赤いのが欲しいわ。」

 少年の無表情が何だか恐ろしくて、ダニエル・ブラン子爵は口をつぐんだ。そんな夫を見て夫人が口を出す。

「失礼を致します。あの、子どもがそろそろこらえが効かないもので、こみ入ったお話でしたら、子どものいない時に、という訳には参りませんか。あの、私たちは退学届けをしにきただけなのです。」

「そこの子どもは、良い服を着ているな。髪飾りも買うのか。リュシルに仕送りする金も制服を買う金も無いのに。」

「制服を買うお金なら渡しました。旅費と制服代は持たせましたわ。」

「……お前が家から出したのだな。家での食事を指示していたのもお前か?」

「これは一体、何のお話なのですか?」

「お前たちの娘の話だ。」

「私の娘はここにおります。後は息子しかおりません。」

「ダニエル・ブラン。ご夫人はそのように言っているが、そなたの意見は?」

「私は、探しました。しかし、いなかった。いない者は仕方ない。」

「そうだな。……トマ、子どもたちを頼む。」

 シリルは後ろを向いて、護衛のトマに指示を出した。トマは頷くと、二人の子ども達を軽々と抱き上げる。不安に身をすくませるのを宥めて事務室の中に入ってしまった。

「な、何を。」

 戸惑うダニエルに、冷たい目が突き刺さる。

「子どもがいなくなってしまったな。」
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