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第二章 人として生きる
5 緋色 9
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結局、成人が目を開けたのは十日近く経って、世話をしていた生松も焦り始めた頃だった。
目を覚まして、右手を見て、泣き始めたのは驚いた。か細い声まで上げて泣くので、点滴に気を付けながら抱き上げたが、しばらく泣き止まなかった。どうしたのか分からず狼狽えまくったが、泣き疲れてまた寝る前に、掠れた声が、飴……と言った。
こちらは、死ぬんじゃないかと、心配で心配でたまらなかったというのに、持ってた飴が無くなって泣いてたのか?
「はっ、はははっ」
「殿下、良かったですね」
「もう、殿下じゃねえよ。ははっ」
ぎゅう、とまた寝てしまった体を抱き込む。常陸丸が、俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「泣かないでくださいよ、緋色さま」
「笑いすぎただけだ」
「はいはい」
「これだけ泣けるなら、大丈夫でしょう」
生松が、珍しくふーっと息を吐いた。本当に危なかったのだろう。
「私では、できる治療も限られていますし。本当に、本人が頑張りました」
「そうなのか」
みっともなく鼻を啜りながら聞く。
「はい、私は医師免許がありませんから」
「何故だ? 知識や経験は十分に足りていそうだが。」
「名字無しなので」
そうだったのか。そういえば、ここの医療部の、誰よりも的確な治療をしている様子を幾度か見かけたが、治療実績の欄に名前は無かった。だから、成人の世話も押し付けられていたのか。
「帰ろう。都へ。生松には、俺から名字を渡す。医師免許を取って、俺の直属になれ」
「……お給料は、どのくらいでしょうか?」
くすり、と笑って生松は言った。
「今よりも、たくさんやるさ。出世は、できないけどな」
「今より多いのは魅力ですね。医師免許の受験費用もお願いします」
ピアスを外した斎と、常陸丸と生松、成人を連れて、とっとと都へ帰り、もらった屋敷に引っ込んだ。
目を覚まして、右手を見て、泣き始めたのは驚いた。か細い声まで上げて泣くので、点滴に気を付けながら抱き上げたが、しばらく泣き止まなかった。どうしたのか分からず狼狽えまくったが、泣き疲れてまた寝る前に、掠れた声が、飴……と言った。
こちらは、死ぬんじゃないかと、心配で心配でたまらなかったというのに、持ってた飴が無くなって泣いてたのか?
「はっ、はははっ」
「殿下、良かったですね」
「もう、殿下じゃねえよ。ははっ」
ぎゅう、とまた寝てしまった体を抱き込む。常陸丸が、俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「泣かないでくださいよ、緋色さま」
「笑いすぎただけだ」
「はいはい」
「これだけ泣けるなら、大丈夫でしょう」
生松が、珍しくふーっと息を吐いた。本当に危なかったのだろう。
「私では、できる治療も限られていますし。本当に、本人が頑張りました」
「そうなのか」
みっともなく鼻を啜りながら聞く。
「はい、私は医師免許がありませんから」
「何故だ? 知識や経験は十分に足りていそうだが。」
「名字無しなので」
そうだったのか。そういえば、ここの医療部の、誰よりも的確な治療をしている様子を幾度か見かけたが、治療実績の欄に名前は無かった。だから、成人の世話も押し付けられていたのか。
「帰ろう。都へ。生松には、俺から名字を渡す。医師免許を取って、俺の直属になれ」
「……お給料は、どのくらいでしょうか?」
くすり、と笑って生松は言った。
「今よりも、たくさんやるさ。出世は、できないけどな」
「今より多いのは魅力ですね。医師免許の受験費用もお願いします」
ピアスを外した斎と、常陸丸と生松、成人を連れて、とっとと都へ帰り、もらった屋敷に引っ込んだ。
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