【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

7 成人 6

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「なる、久しぶり!」

 乙羽おとわはそう言って、ベッドに座っていた俺をぎゅって抱いてくれた。俺も、右手を乙羽おとわの背中に伸ばす。
 べりっ。
 早い。

成人なるひとは、子どもなんだからいいでしょ」

 と、乙羽おとわが、自分の背中に抱きついた常陸丸ひたちまるに抗議している。
 何だと?
 俺は、子どもじゃない。

「本人が盛大に否定してるけど?」 

 と、俺を見ながら常陸丸ひたちまるが言った。

「そうなの? なる、いくつ?」

 知らんけど。

「こいつは、乙羽おとわのこと好きなんだから、迂闊なことをするんじゃない」
 
 うん、乙羽おとわのこと、好きだよ。

「なる、私も好きだよー、ありがと」
「はあ、もう」
「旦那様への好きとは全然別でしょ」
「それでも、嫌。成人なるひと乙羽おとわに抱きつくなよ。俺のだからな」

 ちょっとショックだ。誰かとくっつくのは気持ちいいのに。でも、乙羽おとわ常陸丸ひたちまるのだからな。うん。

成人なるひと、座れるようになったのか」

 緋色ひいろの声がした。嬉しくて、手を伸ばす。

「なるの一番好きな人は、常陸丸ひたちまる、分かるでしょ? 私じゃないよ」

 乙羽おとわがくすくす笑った。
 そう、一番好きな人。抱き上げてくれた緋色ひいろに、ぎゅってする。

「結婚する」

 って言ったら、乙羽おとわ常陸丸ひたちまるもびっくりした顔をした。緋色ひいろと一緒に部屋に入ってきた人も、びっくりしてる。
 あれ?

「は? 誰が、誰と?」
緋色ひいろと」
「ば、馬鹿、お前、結婚はな、男同士じゃ……」

 何かを言いかけた常陸丸ひたちまるの口を乙羽おとわの手がふさいだ。左手の薬指にきらきらと指輪が光っている。

「なるは、緋色ひいろさまと結婚したいの?」

 うん。

「そっかあ、結婚って何か教えてもらったの?」

 ふふっ。教えてもらった。幸せで、緋色ひいろにますますしがみつく。

「俺は、もしかして、求婚プロポーズされたのかな」
「そうみたいよ、緋色ひいろさま」
「……かなり、嬉しいな。どうしよう」

 しがみついてるから緋色ひいろの顔が見えないけど、耳が赤い。

「教えたのは、生松いくまつか。呼んでくる」

 乙羽おとわの手を外した常陸丸ひたちまるが部屋を出ていった。

「指輪、きれい」
「皇国では、結婚したら、その証しに付ける人が多いのよ。左手の薬指に」

 そう言って、乙羽おとわが指輪を見せてくれた。
 左手の、薬指?
 ……俺、結婚できない。
 がっくりと緋色ひいろの肩に頭を落とすと、どうした? と背中を叩いてくれた。

「左手ない」

 みっともなく、声が震える。左手も左目も、無くなったって困ってなかった。
 ついさっきまでは。
 なんで、吹っ飛んだのが右手じゃなかったんだろう、と悔しくなって、涙が出てきた。

「泣くな。結婚したって指輪を付けてない人もいるぞ。それに帝国では、右耳のピアスが結婚の証しらしいじゃないか。なあ、さい?」
「え、ええ。そうです」

 さい、と呼ばれた人が返事をする。緋色ひいろは、ソファに座って体を少し離し、俺の顔を覗きこんだ。涙をそっと拭ってくれる。
 
「ぷっ。その言い方じゃ、求婚プロポーズを受けるみたいよ、緋色さま」
「……そうだな。参ったな、成人なるひとはどこまで分かってんのかな? でも、嬉しいな。……参ったな」

 乙羽おとわは、くすくす、くすくす笑いながら、俺の口に飴を入れてくれた。
 ああ、飴!
 このために、俺は生きてた。
 緋色ひいろの膝の上で飴を食べながら、もう、いつ死んでも悔いは無かった。

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