31 / 1,325
第二章 人として生きる
13 乙羽 1
しおりを挟む
「お前を作って良かった」
たぶん、その台詞は二回、聞いている。一回目は、はっきり覚えているわけじゃない。小さかった。褒められた、と思って嬉しかったのと、結局、しんどいのに病院のベッドに一人ぼっちにされて悲しかった、という記憶がある。
病気の姉が、私の何かを移植して助かったらしい。
少し大きくなってから、周りの人の話で知った。
父と母は、本当に嬉しかったのだろう。姉が何かできるようになる度に、それはもう喜んだ。もう大丈夫でしょう、と医者に言われた日は、記念日になった。毎年、回復記念パーティーをするほどの記念日になった。
私の誕生日は忘れても、回復記念日を忘れることはない。
そのうち、弟が生まれた。皇家傍系序列二位、二条家の跡取り息子は、赤ん坊の時に、姉と同じ病気を発症した。
「お前を作って、良かった」
二度も、一人の人間から取り出して良いものだったのか分からない。けれど、私の何かは弟に移植され、弟も助かった。
私は、移植手術の後、生死の境をさ迷った。父と母は、姉の世話と弟の看病で忙しいので、うつらうつらとして目を開けても、誰も側にはいなかった。
吉野が、私の世話をすることになったのは、ベッドの上に座れるようになった頃。あまりに誰も来ないので、病院が苦言を呈したのだろうか。看護士の手を煩わせすぎていたのかもしれない。それで、人を雇ったのだろう。そういえば、姉と弟には、はじめから世話役の人間が何人かいた気がする。私は、どうやって育ったのだろう。姉に移植するまでは、そのために大切に育ててもらっていたのだろうか。ま、分からない。
吉野がきた頃には、私はご飯を食べることを忘れていた。点滴で過ごしていたから、とかそういうことでは無かったらしい。
「乙羽さまがいたから、美羽さまと朱空さまは命を繋ぎました。素晴らしいことです。あなたは、すごい方です。いなくてはならない方です」
私と同じ年頃の孫がいる、という吉野は、優しく抱きしめてくれて、そう繰り返した。震える声を、不思議な気持ちで聞いていた。吉野が口に入れてくれたお粥は、今まで食べた物の中で一番美味しかった。
学校は、楽しかった。うちより偉いのは皇家だけらしく、皆ちやほやしてくれる。先生たちには、いい成績を取れば褒めてもらえ、子どもたちには、可愛い、美人だと言ってもらえ、話しかければ、大人も子どもも返事をしてくれる。
家では、父と母は、私がいることを忘れているのだろう、というほどの扱いで、使用人たちも主人に倣うのか吉野以外とは話すこともなかったので、楽しくて仕方なかった。
異変は、吉野の息子が戦死した時。葬儀と、孫の斑鹿乃の世話をしなくてはならなくて、私の世話をお休みした。食事から味が消えた。家の者は、誰も気付かなかった。
たぶん、その台詞は二回、聞いている。一回目は、はっきり覚えているわけじゃない。小さかった。褒められた、と思って嬉しかったのと、結局、しんどいのに病院のベッドに一人ぼっちにされて悲しかった、という記憶がある。
病気の姉が、私の何かを移植して助かったらしい。
少し大きくなってから、周りの人の話で知った。
父と母は、本当に嬉しかったのだろう。姉が何かできるようになる度に、それはもう喜んだ。もう大丈夫でしょう、と医者に言われた日は、記念日になった。毎年、回復記念パーティーをするほどの記念日になった。
私の誕生日は忘れても、回復記念日を忘れることはない。
そのうち、弟が生まれた。皇家傍系序列二位、二条家の跡取り息子は、赤ん坊の時に、姉と同じ病気を発症した。
「お前を作って、良かった」
二度も、一人の人間から取り出して良いものだったのか分からない。けれど、私の何かは弟に移植され、弟も助かった。
私は、移植手術の後、生死の境をさ迷った。父と母は、姉の世話と弟の看病で忙しいので、うつらうつらとして目を開けても、誰も側にはいなかった。
吉野が、私の世話をすることになったのは、ベッドの上に座れるようになった頃。あまりに誰も来ないので、病院が苦言を呈したのだろうか。看護士の手を煩わせすぎていたのかもしれない。それで、人を雇ったのだろう。そういえば、姉と弟には、はじめから世話役の人間が何人かいた気がする。私は、どうやって育ったのだろう。姉に移植するまでは、そのために大切に育ててもらっていたのだろうか。ま、分からない。
吉野がきた頃には、私はご飯を食べることを忘れていた。点滴で過ごしていたから、とかそういうことでは無かったらしい。
「乙羽さまがいたから、美羽さまと朱空さまは命を繋ぎました。素晴らしいことです。あなたは、すごい方です。いなくてはならない方です」
私と同じ年頃の孫がいる、という吉野は、優しく抱きしめてくれて、そう繰り返した。震える声を、不思議な気持ちで聞いていた。吉野が口に入れてくれたお粥は、今まで食べた物の中で一番美味しかった。
学校は、楽しかった。うちより偉いのは皇家だけらしく、皆ちやほやしてくれる。先生たちには、いい成績を取れば褒めてもらえ、子どもたちには、可愛い、美人だと言ってもらえ、話しかければ、大人も子どもも返事をしてくれる。
家では、父と母は、私がいることを忘れているのだろう、というほどの扱いで、使用人たちも主人に倣うのか吉野以外とは話すこともなかったので、楽しくて仕方なかった。
異変は、吉野の息子が戦死した時。葬儀と、孫の斑鹿乃の世話をしなくてはならなくて、私の世話をお休みした。食事から味が消えた。家の者は、誰も気付かなかった。
1,999
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる