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第二章 人として生きる
13 乙羽 1
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「お前を作って良かった」
たぶん、その台詞は二回、聞いている。一回目は、はっきり覚えているわけじゃない。小さかった。褒められた、と思って嬉しかったのと、結局、しんどいのに病院のベッドに一人ぼっちにされて悲しかった、という記憶がある。
病気の姉が、私の何かを移植して助かったらしい。
少し大きくなってから、周りの人の話で知った。
父と母は、本当に嬉しかったのだろう。姉が何かできるようになる度に、それはもう喜んだ。もう大丈夫でしょう、と医者に言われた日は、記念日になった。毎年、回復記念パーティーをするほどの記念日になった。
私の誕生日は忘れても、回復記念日を忘れることはない。
そのうち、弟が生まれた。皇家傍系序列二位、二条家の跡取り息子は、赤ん坊の時に、姉と同じ病気を発症した。
「お前を作って、良かった」
二度も、一人の人間から取り出して良いものだったのか分からない。けれど、私の何かは弟に移植され、弟も助かった。
私は、移植手術の後、生死の境をさ迷った。父と母は、姉の世話と弟の看病で忙しいので、うつらうつらとして目を開けても、誰も側にはいなかった。
吉野が、私の世話をすることになったのは、ベッドの上に座れるようになった頃。あまりに誰も来ないので、病院が苦言を呈したのだろうか。看護士の手を煩わせすぎていたのかもしれない。それで、人を雇ったのだろう。そういえば、姉と弟には、はじめから世話役の人間が何人かいた気がする。私は、どうやって育ったのだろう。姉に移植するまでは、そのために大切に育ててもらっていたのだろうか。ま、分からない。
吉野がきた頃には、私はご飯を食べることを忘れていた。点滴で過ごしていたから、とかそういうことでは無かったらしい。
「乙羽さまがいたから、美羽さまと朱空さまは命を繋ぎました。素晴らしいことです。あなたは、すごい方です。いなくてはならない方です」
私と同じ年頃の孫がいる、という吉野は、優しく抱きしめてくれて、そう繰り返した。震える声を、不思議な気持ちで聞いていた。吉野が口に入れてくれたお粥は、今まで食べた物の中で一番美味しかった。
学校は、楽しかった。うちより偉いのは皇家だけらしく、皆ちやほやしてくれる。先生たちには、いい成績を取れば褒めてもらえ、子どもたちには、可愛い、美人だと言ってもらえ、話しかければ、大人も子どもも返事をしてくれる。
家では、父と母は、私がいることを忘れているのだろう、というほどの扱いで、使用人たちも主人に倣うのか吉野以外とは話すこともなかったので、楽しくて仕方なかった。
異変は、吉野の息子が戦死した時。葬儀と、孫の斑鹿乃の世話をしなくてはならなくて、私の世話をお休みした。食事から味が消えた。家の者は、誰も気付かなかった。
たぶん、その台詞は二回、聞いている。一回目は、はっきり覚えているわけじゃない。小さかった。褒められた、と思って嬉しかったのと、結局、しんどいのに病院のベッドに一人ぼっちにされて悲しかった、という記憶がある。
病気の姉が、私の何かを移植して助かったらしい。
少し大きくなってから、周りの人の話で知った。
父と母は、本当に嬉しかったのだろう。姉が何かできるようになる度に、それはもう喜んだ。もう大丈夫でしょう、と医者に言われた日は、記念日になった。毎年、回復記念パーティーをするほどの記念日になった。
私の誕生日は忘れても、回復記念日を忘れることはない。
そのうち、弟が生まれた。皇家傍系序列二位、二条家の跡取り息子は、赤ん坊の時に、姉と同じ病気を発症した。
「お前を作って、良かった」
二度も、一人の人間から取り出して良いものだったのか分からない。けれど、私の何かは弟に移植され、弟も助かった。
私は、移植手術の後、生死の境をさ迷った。父と母は、姉の世話と弟の看病で忙しいので、うつらうつらとして目を開けても、誰も側にはいなかった。
吉野が、私の世話をすることになったのは、ベッドの上に座れるようになった頃。あまりに誰も来ないので、病院が苦言を呈したのだろうか。看護士の手を煩わせすぎていたのかもしれない。それで、人を雇ったのだろう。そういえば、姉と弟には、はじめから世話役の人間が何人かいた気がする。私は、どうやって育ったのだろう。姉に移植するまでは、そのために大切に育ててもらっていたのだろうか。ま、分からない。
吉野がきた頃には、私はご飯を食べることを忘れていた。点滴で過ごしていたから、とかそういうことでは無かったらしい。
「乙羽さまがいたから、美羽さまと朱空さまは命を繋ぎました。素晴らしいことです。あなたは、すごい方です。いなくてはならない方です」
私と同じ年頃の孫がいる、という吉野は、優しく抱きしめてくれて、そう繰り返した。震える声を、不思議な気持ちで聞いていた。吉野が口に入れてくれたお粥は、今まで食べた物の中で一番美味しかった。
学校は、楽しかった。うちより偉いのは皇家だけらしく、皆ちやほやしてくれる。先生たちには、いい成績を取れば褒めてもらえ、子どもたちには、可愛い、美人だと言ってもらえ、話しかければ、大人も子どもも返事をしてくれる。
家では、父と母は、私がいることを忘れているのだろう、というほどの扱いで、使用人たちも主人に倣うのか吉野以外とは話すこともなかったので、楽しくて仕方なかった。
異変は、吉野の息子が戦死した時。葬儀と、孫の斑鹿乃の世話をしなくてはならなくて、私の世話をお休みした。食事から味が消えた。家の者は、誰も気付かなかった。
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