【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

14 乙羽 2

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「ご飯を食べないと、生き物は死ぬんだ」

 給食を前に、ぼんやりすること三日目。記憶が途切れ途切れになってきていた。よく、学校に通えていたものだ。声をかけてくれたのは、常陸丸ひたちまるだった。なんと返事をしたのかは、覚えていない。
 気付いたら、常陸丸ひたちまるの家にいて、常陸丸の母親に抱きしめられていた。緋色ひいろさまも、一緒にいたような気もする。
 記憶は曖昧だが、大事に大事にしてもらって、何かを食べた。

「困った時には、助けてと言って。寂しい時は寂しいと言って。苦しい時は泣いてごらん」

 常陸丸ひたちまるの母は、私を抱きしめながら根気強く繰り返した。細すぎる私の手を握って、常陸丸ひたちまるが泣いた。死んでは嫌だ、と泣いた。
 吉野よしのがいなくて寂しい、というその感情を知らなかった。助けて、という言葉を知らなかった。
 しばらく常陸丸ひたちまるの家、泉門院せんもんいん家でお世話になっていたようだ。父と母は、迎えに来なかったのか、今は義母ははとなった方が、帰さなかったのか。
 吉野よしのが迎えに来たとき、ようやく泣いた。
 学校に戻れた後、心配した常陸丸ひたちまるは、側を離れなくなった。学校での緋色ひいろ殿下の護衛なのに、私を優先する。その、溢れるほどの気持ちは、空っぽの私のなかにどんどん溜まっていって、私を満たした。
 親戚の集まりでは、九条のおじ様の大きな声が響く。乙羽おとわ姫は、ほんの小さい頃から二人もの命を救った偉い子だ、すごい子だ、と。
 緋色ひいろさまと常陸丸ひたちまるが戦争に行くことになった時、緋色さまにだけ言ったことがある。

常陸丸ひたちまるが死んだら、私も死ぬと思う」

 まるで他人事ひとごとのように、事実を淡々と告げただけ。緋色ひいろさまは、きっと返す、と言った。私の心のどこかに開いた穴は、塞がったわけじゃないのだと、その時まで私も知らなかった。


「ご飯を食べてくれないのですよ。元気、と繰り返すばかりで」

 生松いくまつの、困惑した声が聞こえる。
 なるは、寂しい、を知らない。
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