121 / 1,325
第三章 幸せの行方
22 赤璃 6
しおりを挟む
緋色が来るまで初花の相手をしていたらしい乙羽は、帰ってきた成人に駆け寄って涙を浮かべている。成人は緋色に抱かれて、くったりともたれながら、にこにこと乙羽を見た。相変わらず、仲良しね。あの二人が揃うと、可愛いわー。
すぐに、皆で玄関へ向かって歩き出した。
初花が慌てている。
「殿下。今、こちらでお話頂ければと思いますが」
「無理だ」
「お時間が空くまで、お待ち致します」
「今日は、空くことはない」
緋色の機嫌が悪くなっていくことに気付いていないのだろうか。それとも、わざと?いや、好きな人に嫌われたくはあるまい。
「わたくしは、殿下に婚約の申し込みを受けて頂きたく、直接お願いに参りました」
「先日、婚姻していると言った筈だが」
「お調べ致しましたが、どこにもそのような事実はございませんでした」
三条の護衛以外の者が、呆れたように初花を見た。
「紹介しよう。俺の嫁だ。成人、ご挨拶」
緋色は、抱えている成人の顔が初花に見えるように向きを変える。白い包帯を巻いた頭が、ペコリと下がった。
「は?」
初花の声に、誰も答えない。
「わたくしをからかっておいでですの? 言うに事欠いて、その子どもが嫁ですって? 男の子を嫁と言ってまで、わたくしとの話を無かったことにしたいということですか!」
「そんな意図は全く無い。これが俺の嫁だ」
「……それを、信じろと? 無理でございます。……仮に、仮にその子を愛していらっしゃるとして、子を成さぬ婚姻に、何の意味がありましょうや?」
初花の金切り声が響き渡り、辺りはしんと静まり返った。
「私も、子は成せないと思われますが」
すっと表情を消した乙羽の声が、静寂を割る。
瞬きの間に、常陸丸が乙羽を背中から抱き込んで初花を睨んでいた。乙羽は、静かに初花を見つめる。
「貴女は、分かっていらっしゃらない。結婚とは、一番好きな人と、これから先の人生を共に生きる誓いです」
すぐに、皆で玄関へ向かって歩き出した。
初花が慌てている。
「殿下。今、こちらでお話頂ければと思いますが」
「無理だ」
「お時間が空くまで、お待ち致します」
「今日は、空くことはない」
緋色の機嫌が悪くなっていくことに気付いていないのだろうか。それとも、わざと?いや、好きな人に嫌われたくはあるまい。
「わたくしは、殿下に婚約の申し込みを受けて頂きたく、直接お願いに参りました」
「先日、婚姻していると言った筈だが」
「お調べ致しましたが、どこにもそのような事実はございませんでした」
三条の護衛以外の者が、呆れたように初花を見た。
「紹介しよう。俺の嫁だ。成人、ご挨拶」
緋色は、抱えている成人の顔が初花に見えるように向きを変える。白い包帯を巻いた頭が、ペコリと下がった。
「は?」
初花の声に、誰も答えない。
「わたくしをからかっておいでですの? 言うに事欠いて、その子どもが嫁ですって? 男の子を嫁と言ってまで、わたくしとの話を無かったことにしたいということですか!」
「そんな意図は全く無い。これが俺の嫁だ」
「……それを、信じろと? 無理でございます。……仮に、仮にその子を愛していらっしゃるとして、子を成さぬ婚姻に、何の意味がありましょうや?」
初花の金切り声が響き渡り、辺りはしんと静まり返った。
「私も、子は成せないと思われますが」
すっと表情を消した乙羽の声が、静寂を割る。
瞬きの間に、常陸丸が乙羽を背中から抱き込んで初花を睨んでいた。乙羽は、静かに初花を見つめる。
「貴女は、分かっていらっしゃらない。結婚とは、一番好きな人と、これから先の人生を共に生きる誓いです」
1,941
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる