人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

45 緋色 51

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「当たり前だろ?」

 一ノ瀬いちのせを貸してもらえて、とても助かっているが、そのまま俺のものにしようなんて、これっぽっちも思っちゃいない。俺は、かくしを使うような仕事をする気は全く無いのだから。

「我らの忠誠は、朱実あけみ殿下のものです。」

 村正むらまさが、左拳の上に右手を置いて掲げ、頭を下げた。

「公私混同したりは致しません。不安になられたのなら、申し訳なかったです。父は、プライベートと仕事を分けられる自信が無くなったので、良い機会だと引退を決めたまで。私は、大丈夫です。」
「俺には、かくしは必要ないぞ。」

 俺の言葉に、朱実あけみは溜め息を吐いた。

「持っててもいいとは思うんだけどね?」
「いらない。今日も、休みを貰いに来たし。」
「は?困るよ。お前が提案した免許制度の改革案が通りそうなのに。」
「そうか。それは良かった。俺は提案しただけだから、後は好きにしてくれて構わない。」
「丸投げされてたまるか。あれは、素晴らしい提案だよ。お前の名前で出すつもりなんだから、最後までやってくれ。」
「は?いや、俺は名字無しにも才能ある者がたくさんいるから勿体無い、色んな免許取る時の身分証明料を無くせって言っただけだろ。」
「流石に、一足飛びに無くすというのは暴論だから、保証人がいたら名字持ちと同じ額で良い、ということで提案したら、六条、七条、九条が賛成してくれた。三条、五条が反対。四条と八条が考える時間を欲しいとのことだった。次の会議には参加して欲しい。」
「……会議には出る。休みはくれ。成人なるひとの調子が悪い。夜泣きするから、寝不足だし。」
「夜泣き。」
「フラッシュバック、と言うらしい。ある環境での辛過ぎる体験があると、思い出して再体験してしまうんだと。布団が、駄目らしい。」
「嘘!なるは、布団が大好きじゃない。」

 ずっと黙って話を聞いていた赤璃あかりが、思わずといった風に声を上げた。

「ああ、大好きだな。だが、寝てしまうと喚きながら布団から必死で逃げようとする。体に触れられることも酷く怯えるから、宥めることもできん。」
 
 そんな、と息をのむ。俺も、同じ気持ちだよ。あいつは、くっつくのが大好きで、布団が大好きだからな。

「好きな場所に居させてやりたい。なるべく側にいて、そこが安心できる場所だと教えてやりたい。兄上。」

 俺は、深々と頭を下げた。

「頼む。時間をくれ。」
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