人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

46 成人 57

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 お風呂に入りたい、と言ったら緋色ひいろが、とてもびっくりしていた。

「もう、しんどくないのか?」
「元気。」

 って言ったら、熱を出してたくせに、と笑われた。そうか。確かに、今日はずっとベッドにいた。でも、ご飯も食べたし、寝たし、今は元気。生松いくまつに拭いてもらったけど、あの後もまた、汗をかいた。俺は、前はあんまり汗をかいたりしなかったのに、最近たまに出てくるんだよ。慣れないから、流したくなる。
 それに緋色ひいろは、いつも良い匂いがするから、俺もおんなじ匂いになりたい。

「お風呂ー。」

 タオルと寝間着と新しいパンツを準備する。緋色ひいろの分も一緒に出した。
 
「待ってろ、熱があったからな。生松いくまつに風呂に入っていいか聞いてくる。大丈夫なら、風呂を貸し切りにするから。」

 そう言って、緋色ひいろが部屋を出ていった。離宮のお風呂は、大きめのが二つあって、住んでる人で適当に使う。使用人も、ここにいる人はみんな使っていい。普段は、男と女って分けてあるけど、夫婦で入りたい人は貸し切りにする。夫婦は、結婚してる人のことだから、俺と緋色ひいろ乙羽おとわ常陸丸ひたちまる広末ひろすえ斑鹿乃むらかので、順番に貸し切りになっている。俺は、緋色ひいろ以外と風呂に入るのは嫌だから、いつも貸し切り。
 すぐに帰ってきた緋色ひいろが、行くぞーって抱き上げてくれた。
 やった!
 一階のお風呂に着いて、いそいそと服を脱いでいたら、緋色ひいろが本当に驚いた顔で見ていた。
 どうかした?

「風呂が好きになったみたいで、良かったよ。」
「気持ちいいから。」
「そうだな。気持ちいいな。」
緋色ひいろとおんなじ匂いになりたい。」
「おんなじ匂い?」
緋色ひいろは良い匂い。」
「とっくにおんなじ匂いだろ。」

 と、緋色ひいろが言ったので、俺は嬉しかった。
 洗ってもらって、さっぱりする。

「熱いー。」

 と言いながら、湯舟に入る。

「ぬるいっての。」

 緋色ひいろは、いつもそう言っている。熱いけど、一緒に入りたい。抱っこしてもらって、力が抜けてくると眠たくなってきた。今日は、いっぱい寝たのにねえ。緋色ひいろが、おでこにも頬にも口にもいっぱいちゅーしてくれた。
 俺は、お風呂が好きだな。

「おんなじ匂いになると、ずっと一緒みたいで、いいね。」

 そうか、と緋色ひいろが笑った顔が、ものすごく好きだな、と思った。
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