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第四章 西からの迷い人
41 九鬼を継ぐもの 2 一二三
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足を止めた父が、私をまじまじと見つめた。隣には、父とよく似た若い男が、同じように立ち止まってこちらを見ている。これが従兄の弐角なのだろう。
「一二三か?」
「はい。」
何故そんな、訝しげに話すのだろう。いくら滅多に会わないとはいえ、息子が分からないなんてことがあるだろうか。兄が城を出た今、唯一の跡取りであるはずなのに。
「これは……、どうにも誤魔化しようがなくなってきたんやないか。」
「そうですね。如何にもあの人が好みそうな顔立ちや。」
父と弐角が二人でぼそぼそと何か話しているのが癇に障る。
「何故、私ではないのですか?」
「もう決まったことや。」
「私でない理由をお聞きしています。」
「九鬼の家は九鬼の者が継ぐ。詳しい説明が必要か?」
それを聞いてしまってはいけない気がして俯いた。そのまま、父と弐角は叔父の屋敷に戻って行った。
「こちらも、出席の文を出しましょう。」
後から聞いて怒りを顕にした母が、赤虎さまの結婚式へは九鬼一二三が当主名代として参加します、との文を送るという。そんなことが可能なのか、では父が出した文はどうなるのか、と思いつつ何も言えずに文は送られてしまった。
赤虎さまからの返事は特になく、何を尋ねられる事もなく、日々は過ぎていく。
「あれの行方をようやく掴んだわ。」
母があれ、と言うのは兄のことだろうか。行方?もう城を出た兄が、どうしたと言うのだろう。
「まだ生きていたなんて、なんてしぶとい。」
「どういう、ことですか?」
「城を出た辺りは監視の目が厳しかったから、少し離れてから亡き者にしようと狙てたけど、手の者がしくじりよってな。」
「…………。」
「半助一人に、ええようにやられてしもて。」
半助。国内最強と言われていた美丈夫を思い浮かべる。御前試合での剣技の素晴らしさと、その見目のよさに憧れて、護衛になってほしいと頼んだことがあった。
一つに括った長い綺麗な黒髪をさらりと揺らして振り返った武人は、無表情に言ったものだ。
「できません。俺は、九鬼に仕える者なので。」
なぜ彼は、九鬼で無くなった兄に付いているのだろう。ずっと九鬼であるはずの私に、仕えられないと言うのだろう。
「あの卑怯者は、怪我をした半助を置いて逃げよった。そのあと無能どもが見失ってしもうたと言うてたんやけど、泳がせといた半助がしっかりあれにたどり着きよった。」
うちの手の者より、怪我をした半助の方がよほど有能だと言っているようなものだ。けれど母は、嬉々として語る。
「皇城におるらしい。離宮に住んでいると、使用人として忍び込ませた草が報告してきよった。居場所さえ掴んだら、いつでも殺せる。」
「もう、兄上は九鬼では無いのでしょう?」
「いいや、死ぬまで九鬼は九鬼や。生きとったら安心できんやろ?」
「いえ。もう関わることもない……。」
母の視線の鋭さに、言いかけた言葉を飲み込んだ。
母上、その兄を殺しても、私は次期当主にはなれないのですよ?
「一二三か?」
「はい。」
何故そんな、訝しげに話すのだろう。いくら滅多に会わないとはいえ、息子が分からないなんてことがあるだろうか。兄が城を出た今、唯一の跡取りであるはずなのに。
「これは……、どうにも誤魔化しようがなくなってきたんやないか。」
「そうですね。如何にもあの人が好みそうな顔立ちや。」
父と弐角が二人でぼそぼそと何か話しているのが癇に障る。
「何故、私ではないのですか?」
「もう決まったことや。」
「私でない理由をお聞きしています。」
「九鬼の家は九鬼の者が継ぐ。詳しい説明が必要か?」
それを聞いてしまってはいけない気がして俯いた。そのまま、父と弐角は叔父の屋敷に戻って行った。
「こちらも、出席の文を出しましょう。」
後から聞いて怒りを顕にした母が、赤虎さまの結婚式へは九鬼一二三が当主名代として参加します、との文を送るという。そんなことが可能なのか、では父が出した文はどうなるのか、と思いつつ何も言えずに文は送られてしまった。
赤虎さまからの返事は特になく、何を尋ねられる事もなく、日々は過ぎていく。
「あれの行方をようやく掴んだわ。」
母があれ、と言うのは兄のことだろうか。行方?もう城を出た兄が、どうしたと言うのだろう。
「まだ生きていたなんて、なんてしぶとい。」
「どういう、ことですか?」
「城を出た辺りは監視の目が厳しかったから、少し離れてから亡き者にしようと狙てたけど、手の者がしくじりよってな。」
「…………。」
「半助一人に、ええようにやられてしもて。」
半助。国内最強と言われていた美丈夫を思い浮かべる。御前試合での剣技の素晴らしさと、その見目のよさに憧れて、護衛になってほしいと頼んだことがあった。
一つに括った長い綺麗な黒髪をさらりと揺らして振り返った武人は、無表情に言ったものだ。
「できません。俺は、九鬼に仕える者なので。」
なぜ彼は、九鬼で無くなった兄に付いているのだろう。ずっと九鬼であるはずの私に、仕えられないと言うのだろう。
「あの卑怯者は、怪我をした半助を置いて逃げよった。そのあと無能どもが見失ってしもうたと言うてたんやけど、泳がせといた半助がしっかりあれにたどり着きよった。」
うちの手の者より、怪我をした半助の方がよほど有能だと言っているようなものだ。けれど母は、嬉々として語る。
「皇城におるらしい。離宮に住んでいると、使用人として忍び込ませた草が報告してきよった。居場所さえ掴んだら、いつでも殺せる。」
「もう、兄上は九鬼では無いのでしょう?」
「いいや、死ぬまで九鬼は九鬼や。生きとったら安心できんやろ?」
「いえ。もう関わることもない……。」
母の視線の鋭さに、言いかけた言葉を飲み込んだ。
母上、その兄を殺しても、私は次期当主にはなれないのですよ?
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