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第五章 それは日々の話
14 朱実殿下は笑ってた 成人
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「やあ、成人」
赤璃さまの部屋へ向かっていると、朱実殿下が歩いてきた。後ろには、朝、いってらっしゃいって見送った力丸がいて、ちょっと笑って片目を瞑った。ウインク、格好いい。俺もしてみたい、と思ったこともあったけど、俺はいつもウインクしてるようなもんだった……。
「朱実殿下。おはようございます」
「今日も来てくれたんだね。ありがとう」
「うん」
昨日、約束したからね。
「昨日、とても元気になっていてね。ほっとしたよ」
ん?赤璃さま?
そういえば、昨日、ちょっと元気なかったかも?でも、俺が帰るときにはいつもの赤璃さまだったよ。
「大切な人の元気がないと、なかなか冷静でいられないものなんだね。私でもそうなるのかと、少し自分に驚いて……あ、いや、元気のない赤璃など見たことが無かったから少し、そう、少し困っていたんだ。成人のおかげで元気になったようだ。ありがとう」
「あ、うん。どういたしまして?」
俺、髪の毛に美容液を塗ってあげただけなんだけど。
朱実殿下は、ふふっと少し笑って俺の頭を優しく撫でて歩いていった。頭を撫でられるのは嫌いじゃないけど、少し緊張する。殴られる手を思い出してる訳じゃないのに、何故か庇おうとしてしまうんだよな。
赤璃さまは、朱実殿下の言う通り、すっかり元気で、大歓迎してくれた。
お土産の金平糖と飴を見せたら、綺麗ねと、とても喜んで、白手鞠の飴の封をすぐに開けて口に放り込んだ。俺の口にも一つ。
「いいの?」
「一緒に食べた方が美味しいでしょ?」
「うん」
俺の、瓶入りの赤い金平糖、お礼に一つあげるね。鞄から出して机に置くと、
「まあ、素敵」
って持ち上げて、まじまじ見つめている。
「何だか一つ一つのものが上品で、綺麗ねえ」
「うん」
「私も行ってみたいわ」
「うん。猿も居て、猿が跳んだり回ったりして、お金あげたら、これもらった」
猿の札も、もちろん鞄に入っている。宝物、見せてあげるね。
「へえ。猿回しかしら。私、見たことないわ。なるは私も知らないことを知ってるのね。すごいわ」
え?赤璃さまも見たことないの?俺が教えてあげるなんて、びっくりだ。そんなこと、初めてだなあ。赤璃さまは、いつも何でも教えてくれていた。
話しながら、ソファの後ろに回って手のひらを差し出せば、持ってきた美容液の封を丁寧に開けた侍女さんが垂らしてくれる。ほんの少しなのに、ぎゅっと握って温めると、とろりとやわらかくなって、手のひら一杯に広がる。それをそっと、黒くて長くてつるつるさらさらの赤璃さまの髪に馴染ませる。
今日も、綺麗な髪の毛だ。
赤璃さまは、気持ち良さそうにソファに座っている。
「ね、何で俺は夜に泣くのかな」
「……最近、ほとんど無いって聞いてるわよ?」
「緋色が悲しい顔をするから、泣きたくないんだけど」
「なるは、わざと泣いてる訳じゃないでしょ?」
「うん。俺、泣いた覚えもない。緋色が悲しい顔で抱っこしてくれるから、泣いたんだなって思うだけ」
「そう……」
「緋色が悲しいのが嫌だな……」
朱実殿下は笑ってた。赤璃さまが元気になったから。
俺も、緋色が悲しくならないように、泣かないでいたい。
「難しいわね……」
赤璃さまの部屋へ向かっていると、朱実殿下が歩いてきた。後ろには、朝、いってらっしゃいって見送った力丸がいて、ちょっと笑って片目を瞑った。ウインク、格好いい。俺もしてみたい、と思ったこともあったけど、俺はいつもウインクしてるようなもんだった……。
「朱実殿下。おはようございます」
「今日も来てくれたんだね。ありがとう」
「うん」
昨日、約束したからね。
「昨日、とても元気になっていてね。ほっとしたよ」
ん?赤璃さま?
そういえば、昨日、ちょっと元気なかったかも?でも、俺が帰るときにはいつもの赤璃さまだったよ。
「大切な人の元気がないと、なかなか冷静でいられないものなんだね。私でもそうなるのかと、少し自分に驚いて……あ、いや、元気のない赤璃など見たことが無かったから少し、そう、少し困っていたんだ。成人のおかげで元気になったようだ。ありがとう」
「あ、うん。どういたしまして?」
俺、髪の毛に美容液を塗ってあげただけなんだけど。
朱実殿下は、ふふっと少し笑って俺の頭を優しく撫でて歩いていった。頭を撫でられるのは嫌いじゃないけど、少し緊張する。殴られる手を思い出してる訳じゃないのに、何故か庇おうとしてしまうんだよな。
赤璃さまは、朱実殿下の言う通り、すっかり元気で、大歓迎してくれた。
お土産の金平糖と飴を見せたら、綺麗ねと、とても喜んで、白手鞠の飴の封をすぐに開けて口に放り込んだ。俺の口にも一つ。
「いいの?」
「一緒に食べた方が美味しいでしょ?」
「うん」
俺の、瓶入りの赤い金平糖、お礼に一つあげるね。鞄から出して机に置くと、
「まあ、素敵」
って持ち上げて、まじまじ見つめている。
「何だか一つ一つのものが上品で、綺麗ねえ」
「うん」
「私も行ってみたいわ」
「うん。猿も居て、猿が跳んだり回ったりして、お金あげたら、これもらった」
猿の札も、もちろん鞄に入っている。宝物、見せてあげるね。
「へえ。猿回しかしら。私、見たことないわ。なるは私も知らないことを知ってるのね。すごいわ」
え?赤璃さまも見たことないの?俺が教えてあげるなんて、びっくりだ。そんなこと、初めてだなあ。赤璃さまは、いつも何でも教えてくれていた。
話しながら、ソファの後ろに回って手のひらを差し出せば、持ってきた美容液の封を丁寧に開けた侍女さんが垂らしてくれる。ほんの少しなのに、ぎゅっと握って温めると、とろりとやわらかくなって、手のひら一杯に広がる。それをそっと、黒くて長くてつるつるさらさらの赤璃さまの髪に馴染ませる。
今日も、綺麗な髪の毛だ。
赤璃さまは、気持ち良さそうにソファに座っている。
「ね、何で俺は夜に泣くのかな」
「……最近、ほとんど無いって聞いてるわよ?」
「緋色が悲しい顔をするから、泣きたくないんだけど」
「なるは、わざと泣いてる訳じゃないでしょ?」
「うん。俺、泣いた覚えもない。緋色が悲しい顔で抱っこしてくれるから、泣いたんだなって思うだけ」
「そう……」
「緋色が悲しいのが嫌だな……」
朱実殿下は笑ってた。赤璃さまが元気になったから。
俺も、緋色が悲しくならないように、泣かないでいたい。
「難しいわね……」
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