【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

41 夜が明けたら  壱臣

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 常陸丸ひたちまるさんは、担いでいた半助はんすけを優しく横抱きにしてから、ベッドにそっと下ろした。
 真っ赤な顔の半助はんすけは、体に全く力が入っとらん。それなりに背もあって筋肉もあるのに、軽々と。

「ありがとうございます。うちは、ほんまに役立たずで」
「ん?役立たず?」
「肩を貸すこともできません」
「できるやつが、できることをやればいいんだよ。俺に飯は作れん。お前は飯を作れる」

 にっと笑って常陸丸ひたちまるさんはきびすを返す。
 乙羽おとわさんの所に帰るんやな。

「夜中にお騒がせして、すみませんでした」

 深く頭を下げると、

乙羽おとわは寝てる。だから、いつも通りだ」

 ひらひらと手を振って出ていった。
 あの人は、ブレない。何よりも優先すべきことが分かっとるから、迷いがない。
 羨ましい……と思っていたけど、気付いてみれば、それはとても簡単なことで。
 うちにも、できること……。
 ベッドから、荒い息が聞こえる。目を閉じとるから、やっと寝られたんかな。
 常陸丸ひたちまるさんに置かれたまま目を閉じた半助はんすけの姿勢に、苦笑する。ちゃうな。気い失ってるだけやな。
 無理をさせてしもた。
 
 桶に水を汲んで手拭いを絞り、半助はんすけの額にのせると、少し眉間の皺が広がった気がした。寝にくいかな、と電気を常夜灯だけにする。うっすらと見える眉間に手をやって、そっと撫でた。
 そんなとこに皺の跡が付いたら、ええ男が台無しやで。
 がさがさの指先が気になって、すぐに手を離す。
 今度、手のクリームを買うてみよかな。
 気にしたことも無かった考えが過る。水仕事やから、手の先が荒れるのは当たり前で、冬になると、指先が割れて痛かったけど、クリームを付けるいとまも無かったし、我慢しとればええと思っていた。
 触れる誰かがおれば。
 触れるときに、相手が不快に感じないようにしたいと思うもんなんやな。
 覚悟が足りてない。
 指先を擦りながら、緋色ひいろ殿下に言われた言葉を考える。
 覚悟。うちは、他人に対して、迷惑をかけんように、としか考えたことがなかった。それが根底にあって、自分がどう思てるか、その相手がどう思てるかを考えてなかったんかもしれん。自分の気持ち、なんてどこから引っ張り出してきたらええのか。
 そうや。確かに一度、側にいて、と願ったはずやのに、また、うちから離れてしもたんや。
 ぐ、と息を飲む。
 半助はんすけが目を覚ましたら。
 もう一度だけ、願ってみてもええやろか。側にいて欲しい、ではなく、二度と、離れたくないんやと口にしてみても、ええやろか。
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