962 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え
86 あんまり好きじゃない 成人
しおりを挟む
あまーい。おいしい!
ぱくりと半分かじった金魚のお菓子は、昨日食べたふわふわの餡のついたお菓子とちょっと味が似てる。でも、ふわふわじゃない分ちょっと違う。不思議。色で、味も少し違ったりするのかな?緋色の紅葉のお菓子は、どんな味だろう?
「菓子二つは食べ過ぎ」
俺はまだ何にも言ってないのに、緋色が言った。緋色は、お菓子以外の食べ物は全部食べ終えていて、お酒をちょっとずつ飲んでいる。
「一口だけ」
「なら、金魚の残りは置いておけよ」
「ええー。やだ」
だってまだ、金魚の描いてあるとこをかじってないのに。今から金魚は、俺のお腹で泳ぐんだ。
「はは。なら、今日は金魚だけにしておけ」
むむ。でも、そうだなあ。
悩んでいたら緋色の手が伸びてくる。宴会の時に抱っこは無しだよ、とお部屋を見たら、ご飯を食べ終わった人が少しずついなくなっていた。皆、こちらを向いて礼をして出ていく。あ。気付いてなくてごめんね。金魚ばかり見ていた。間に合った人にだけ、俺も頭を下げておく。
ちょうど、鶴丸と松吉が頭を下げて出ていく所で、俺はひらひらと手を振った。またね。また遊ぼうね。
「仲良くなったのか」
笑って手を振り返してくれた二人を見て、緋色が言った。二人は、緋色にはもう一度丁寧に頭を下げて出ていった。
「うん、そう。うちに遊びに来てくれるって」
「へえ?」
「約束した」
「早いな」
「うん!あのね、松吉が」
アイスクリームの話をしようとしたら、一人の男の人が近付いてきて平伏するのが見えた。さっき七宝の隣にいた、九鬼の家臣だ。俺は慌てて口を閉じる。緋色が、すっと目を細めた。
「なんだ?」
「発言の許可を頂きたく……」
「好きにしろ」
「はっ」
男の人は、少し考えてから、一度頭を上げて包拳礼の形になった。それから口を開く。
「六車大成と申します。緋色殿下と成人殿下へ直接謝罪の機会を頂きましたこと、大変に嬉しく思います」
「謝罪?」
「はっ。過日、妹と父母がご迷惑をおかけ致しました。誠に申し訳ございませんでした」
「六車……?ああ」
緋色は一回首を傾げたけど、俺、すぐに分かったよ。椿だ、椿。椿が自分のこと、六車椿って言ってた。
「椿、元気?」
少しだけ一緒に暮らした人。本当に少しだけだけど離宮にいたから、ちゃんと覚えてるよ。ちっとも仲良くはなれなかったけれど。
「元気では、ありません……が、生きています」
「そっか」
髪の毛ないと元気になれないんだったっけ?まだ、そんなに伸びてないのかな?
「早く髪の毛が伸びるといいね」
「はっ。過分なお言葉を頂き、ありがとうございます。成人殿下からの温かいお言葉、必ず妹に伝えます」
六車が、包拳礼のまま深く深く頭を下げた時だ。
「やあやあ、これは六車殿。お一人で殿下方への挨拶に向かわれるとは水くさい。是非、誘ってくだされよ」
大きな体を揺らした七宝が、女の人を一人連れて、六車の隣に座り込んでこちらを向いた。包拳礼をして、何がおかしいのか知らないけれど、がははと笑った。
わざと大きくしているみたいな声は、あんまり好きじゃなかった。
ぱくりと半分かじった金魚のお菓子は、昨日食べたふわふわの餡のついたお菓子とちょっと味が似てる。でも、ふわふわじゃない分ちょっと違う。不思議。色で、味も少し違ったりするのかな?緋色の紅葉のお菓子は、どんな味だろう?
「菓子二つは食べ過ぎ」
俺はまだ何にも言ってないのに、緋色が言った。緋色は、お菓子以外の食べ物は全部食べ終えていて、お酒をちょっとずつ飲んでいる。
「一口だけ」
「なら、金魚の残りは置いておけよ」
「ええー。やだ」
だってまだ、金魚の描いてあるとこをかじってないのに。今から金魚は、俺のお腹で泳ぐんだ。
「はは。なら、今日は金魚だけにしておけ」
むむ。でも、そうだなあ。
悩んでいたら緋色の手が伸びてくる。宴会の時に抱っこは無しだよ、とお部屋を見たら、ご飯を食べ終わった人が少しずついなくなっていた。皆、こちらを向いて礼をして出ていく。あ。気付いてなくてごめんね。金魚ばかり見ていた。間に合った人にだけ、俺も頭を下げておく。
ちょうど、鶴丸と松吉が頭を下げて出ていく所で、俺はひらひらと手を振った。またね。また遊ぼうね。
「仲良くなったのか」
笑って手を振り返してくれた二人を見て、緋色が言った。二人は、緋色にはもう一度丁寧に頭を下げて出ていった。
「うん、そう。うちに遊びに来てくれるって」
「へえ?」
「約束した」
「早いな」
「うん!あのね、松吉が」
アイスクリームの話をしようとしたら、一人の男の人が近付いてきて平伏するのが見えた。さっき七宝の隣にいた、九鬼の家臣だ。俺は慌てて口を閉じる。緋色が、すっと目を細めた。
「なんだ?」
「発言の許可を頂きたく……」
「好きにしろ」
「はっ」
男の人は、少し考えてから、一度頭を上げて包拳礼の形になった。それから口を開く。
「六車大成と申します。緋色殿下と成人殿下へ直接謝罪の機会を頂きましたこと、大変に嬉しく思います」
「謝罪?」
「はっ。過日、妹と父母がご迷惑をおかけ致しました。誠に申し訳ございませんでした」
「六車……?ああ」
緋色は一回首を傾げたけど、俺、すぐに分かったよ。椿だ、椿。椿が自分のこと、六車椿って言ってた。
「椿、元気?」
少しだけ一緒に暮らした人。本当に少しだけだけど離宮にいたから、ちゃんと覚えてるよ。ちっとも仲良くはなれなかったけれど。
「元気では、ありません……が、生きています」
「そっか」
髪の毛ないと元気になれないんだったっけ?まだ、そんなに伸びてないのかな?
「早く髪の毛が伸びるといいね」
「はっ。過分なお言葉を頂き、ありがとうございます。成人殿下からの温かいお言葉、必ず妹に伝えます」
六車が、包拳礼のまま深く深く頭を下げた時だ。
「やあやあ、これは六車殿。お一人で殿下方への挨拶に向かわれるとは水くさい。是非、誘ってくだされよ」
大きな体を揺らした七宝が、女の人を一人連れて、六車の隣に座り込んでこちらを向いた。包拳礼をして、何がおかしいのか知らないけれど、がははと笑った。
わざと大きくしているみたいな声は、あんまり好きじゃなかった。
1,216
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる