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第九章 礼儀を知る人知らない人
122 たのもう 成人
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「駄目だ、緋色。ここらの名物っていうかお勧めの飯が、大体全部、出来立て熱々をお楽しみくださいって書いてある」
歩きながら、店の前に立ててある旗や看板、呼び込みの声を確認していた常陸丸が言った。
ふんふん。できたて熱々をお楽しみください、ね。食べ物はできたてが旨い、って力丸がいつも言っているもんな。同じように考えている人が多いってことだな。
「へえ?」
「自分で揚げてお楽しみください、自分で焼いて仕上げてください、目の前に出来立てをお持ちいたします……。あれか、せっかちな国民性ってやつか? それか、何でも自分でしたい質の者が多いのか」
「どちらもってことだろ。この、遠慮のない呼び込みの様子や、あちこちで立ったまま話が弾んでいるところを見るに、まあとにかく座って待つのは性に合わないんだろうな」
「はあ、なるほど。……いや、飯なんて、専門家に最後まで作ってもらった方が旨いだろう?」
「はは、俺たちはそうだが。ほら、たこ焼きみたいなもんだろ。皆、自分で焼きたがるじゃないか。あんな感じがいいんだろ」
「たこ焼きを焼くの、楽しいよ」
「ほらな」
俺が言ったら、緋色がくくって笑った。
ん? つまり、あれか。たこ焼きみたいに自分で作れる食べ物があるってことか。たこ焼きじゃないもので?
力丸と目が合った。
「「やりたい」」
口を開いたら、力丸と声がそろってしまった。
くくくって緋色がまた笑う。
「子どもはやりたがるんだ、そういうの」
「「子どもじゃない」」
今日も気が合うね、力丸。
「子どもじゃないけど、やりたい」
「な? 子どもとか大人とか関係ないよな? 楽しそうなことをやってみたいってだけだよな」
「そうそう」
「そうは言ってもなあ、成人。出来立て熱々ばっかりだぞ。食べられないだろ」
なんだ、常陸丸。それを気にしてくれてたの?そんなの、簡単。
「冷まして食べる」
「ん? あ、まあそうか」
「常陸丸。冷めたら旨くないとは書いてないぞ」
おお。緋色、上手に言うね。そうだよ。出来立て熱々が旨いって書いてあるんだから。冷めたらどうなのか分からないじゃない? それに俺、もうだいぶ熱いのが食べられるようになったし。さっきのたい焼きも、まだほんの少し湯気が立っていたのをかじれたんだからさ。
わはは、とじいじが笑った。
「では、この辺の店に声をかけてみるか」
じいじは、人の並んでいないお店の引き戸をがらりと開ける。おお。いつの間にそこに決めてたんだろ。
その店は、ほかの店みたいに呼び込みをしていない。でも、人の出入りがあるからやっているのは分かる。食べ物屋さんって分かる、持ち帰りの品を受け取る窓口もある。窓口には途切れず人が来て、何か受け取っては帰っていくのが見えていた。
あれだ。前に壱臣が商店街で開いていた食べ物屋さんみたいな造り。壱臣は、だし巻き玉子をああして売っていた。このお店は、壱臣のやっていた店よりもっとずっと、色々と立派だけれど。
「たのもう!」
じいじのその挨拶、懐かしい。
最初の一回。じいじが、俺と緋色がほんの少しの家族と住んでいた屋敷に訪ねてきた最初の一回だけ言った挨拶だ。その後からはじいじの挨拶は全部、ただいまになった。
そういえば、たのもうってどういう意味なんだろ?
歩きながら、店の前に立ててある旗や看板、呼び込みの声を確認していた常陸丸が言った。
ふんふん。できたて熱々をお楽しみください、ね。食べ物はできたてが旨い、って力丸がいつも言っているもんな。同じように考えている人が多いってことだな。
「へえ?」
「自分で揚げてお楽しみください、自分で焼いて仕上げてください、目の前に出来立てをお持ちいたします……。あれか、せっかちな国民性ってやつか? それか、何でも自分でしたい質の者が多いのか」
「どちらもってことだろ。この、遠慮のない呼び込みの様子や、あちこちで立ったまま話が弾んでいるところを見るに、まあとにかく座って待つのは性に合わないんだろうな」
「はあ、なるほど。……いや、飯なんて、専門家に最後まで作ってもらった方が旨いだろう?」
「はは、俺たちはそうだが。ほら、たこ焼きみたいなもんだろ。皆、自分で焼きたがるじゃないか。あんな感じがいいんだろ」
「たこ焼きを焼くの、楽しいよ」
「ほらな」
俺が言ったら、緋色がくくって笑った。
ん? つまり、あれか。たこ焼きみたいに自分で作れる食べ物があるってことか。たこ焼きじゃないもので?
力丸と目が合った。
「「やりたい」」
口を開いたら、力丸と声がそろってしまった。
くくくって緋色がまた笑う。
「子どもはやりたがるんだ、そういうの」
「「子どもじゃない」」
今日も気が合うね、力丸。
「子どもじゃないけど、やりたい」
「な? 子どもとか大人とか関係ないよな? 楽しそうなことをやってみたいってだけだよな」
「そうそう」
「そうは言ってもなあ、成人。出来立て熱々ばっかりだぞ。食べられないだろ」
なんだ、常陸丸。それを気にしてくれてたの?そんなの、簡単。
「冷まして食べる」
「ん? あ、まあそうか」
「常陸丸。冷めたら旨くないとは書いてないぞ」
おお。緋色、上手に言うね。そうだよ。出来立て熱々が旨いって書いてあるんだから。冷めたらどうなのか分からないじゃない? それに俺、もうだいぶ熱いのが食べられるようになったし。さっきのたい焼きも、まだほんの少し湯気が立っていたのをかじれたんだからさ。
わはは、とじいじが笑った。
「では、この辺の店に声をかけてみるか」
じいじは、人の並んでいないお店の引き戸をがらりと開ける。おお。いつの間にそこに決めてたんだろ。
その店は、ほかの店みたいに呼び込みをしていない。でも、人の出入りがあるからやっているのは分かる。食べ物屋さんって分かる、持ち帰りの品を受け取る窓口もある。窓口には途切れず人が来て、何か受け取っては帰っていくのが見えていた。
あれだ。前に壱臣が商店街で開いていた食べ物屋さんみたいな造り。壱臣は、だし巻き玉子をああして売っていた。このお店は、壱臣のやっていた店よりもっとずっと、色々と立派だけれど。
「たのもう!」
じいじのその挨拶、懐かしい。
最初の一回。じいじが、俺と緋色がほんの少しの家族と住んでいた屋敷に訪ねてきた最初の一回だけ言った挨拶だ。その後からはじいじの挨拶は全部、ただいまになった。
そういえば、たのもうってどういう意味なんだろ?
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