【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

135 この部屋の人は  成人

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「殿下、この部屋の者は?」
 
 力丸りきまるが、お盆に残ったお茶を見ながら言った。お盆を置く場所がなくて手に持ったままだ。みんなが、お茶を飲み終えた湯呑みをまたお盆に戻しているので、湯呑みは相変わらず、ずらりと並んでいる。
 力丸りきまるの言葉で、はじめて気付いた。確かに、この部屋にもともといた人が見当たらない。これだけたくさんの本や書類が片付けられずに置いてあるのだから、あのぺったんこの座布団に座って、机にほんの少しの隙間を空けて、書いたり読んだりしていた人がいたはずだ。座布団と隙間は三つだから、三人。たぶん、三人はいたはず。でも、見当たらない。
 村次むらつぐが、何人いるか分からないからって、大きなお盆に置けるだけいっぱいの湯呑みを置いてくれたから、その人たちの分もお茶はあった。力丸りきまるは、多い、重いって文句言ってたけど、常陸丸ひたちまる才蔵さいぞう那月なつきにも渡せたし、みんな飲んでくれたから、頑張って運んで良かったよ。もしその人たちがいても足りたんだけどな。いなくて残念だ。

「風呂に行かせた」
「風呂⁈」
「風呂」
「何で風呂……」
「薄汚れてたから」
「うす……? 城勤めの役人が?」
「おう」
「……あー、まあ、なんか、分かる気はしますけど」
 
 力丸りきまるはそう言いながら部屋を見渡して、でもやっぱり首を傾げた。

「でも、ここ、城っすよ?」
「城だな」

 緋色ひいろは、お茶を飲み終わったらさっき適当に置いた書類を手に戻されていた。流石、常陸丸ひたちまる緋色ひいろにお仕事させるのが上手だ。
 緋色ひいろ、俺を抱っこしていると書類が読みにくいんじゃない? 俺、よけ……たら駄目なの? そう? 
 俺が緋色ひいろの腕から出ようとしたのが通じたみたいで、緋色ひいろの腕に力が入った。ここに居ろってこと? 今、分かったよ。
 おお。俺たち、通じてるな。嬉しい。
 嬉しくて、ずっとこうしていてしまいそう。暖かいし、気持ちいい。困ったなあ。俺、他にも仕事があるんだけど。

「ええっと。じゃあ、その人たち、風呂が済んだら戻ってくるんすか?」
「たぶん? まあ、まだかかるだろ。やつれてたから、飯も食ってこいと言っておいた」
「ええー? それ、ご飯から先にあげてくださいよ、殿下」

 やつれてるお城勤めの人って聞いて、朱実あけみ殿下の所の文官さんがちょっと思い浮かんだ。たまにやつれてるんだよね。すごく忙しい時。朱実あけみ殿下の所の文官さんは、ご飯はちゃんと食べてるはずなんだけど。集中しすぎるとそうなるのかな。そういえば、三郎さぶろうさいも、やつれてる時あるもんね。生松いくまつ睦峯むつみねも。あ。衣装部の人たちもそうだ。
 ここにいたのは、仕事を一生懸命やりすぎる人たちなんだな、きっと。
 薄汚れてるってのがよく分からないけど、まあお風呂に入ったら綺麗になるだろう。

「あ」
「どうした」

 やつれてる人がまずやることがある。

「お昼寝、させなきゃ」
 
 そういう人はだいたい、目の下にくまがあるんだ。
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