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第十章 されど幸せな日々
53 俺の大事なもの 成人
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「安次郎、ご苦労。後は勝手に使わせてもらう。俺たちが風呂場に入った後は外へ出ていろ」
「はいっ」
脱衣所に入ったらすぐに緋色が言った。番台と中が繋がっていること、すぐ分かったんだね。すごいな。
あ、でもちょっと待って。
安さんが外に出ちゃったら困る。
「緋色。上がってからフルーツ牛乳買う時、安さんがいないと買えない」
「ああん? フルーツ牛乳?」
飲んでいいって言ったよね。夜ご飯をちゃんと食べられるお腹を残せるなら飲んでいい、って。俺、もう覚えた。フルーツ牛乳がどのくらいお腹に溜まるか覚えたから大丈夫。
約束は守る。絶対。
「今、買っておいたらどうだ?」
「ええー?」
それは、なんか違うぅ。
はあ、と緋色はため息を吐いた。
「あー、分かった、分かった。安、前言撤回だ。とりあえずそこにいろ」
「はいっ」
「こっちには来るな」
「はいーっ」
安さん、さっきからいいお返事だなあ。脱衣所は、しばらくお掃除がいらないくらいぴかぴかだから、こっち来なくていいよ。番台のお仕事しててね。
脱衣所は本当に、朝に来た時よりもずっとぴかぴかにお掃除してあった。髪の毛も全然落ちていない。すごいなー、安さん。こんなにぴかぴかにできるんだな。俺もお手伝いする時、このくらいぴかぴかにできるように頑張ろう。
服を入れるの、どこにしようかな? 棚には番号が書いてある。あ、十三番だ。十三番がある。これにしよ。
「そこに入れるのか?」
「そうそう。このかごにね、着替えと脱いだ服を入れて」
ん? 緋色も一緒に入れるの? 棚はいっぱいあるのに。ま、大きいから入るし、いっか。ここさ、俺のね、俺の前の呼び名の棚。なんか、なんか、あれだ。俺のって分かりやすくていいね。
「ここをかちんってすると、開かなくなるの」
「おお」
すごいよね、これ。
「ちょっとその板、貸せ」
やっぱり? やっぱりもう一回やってみるよね? 分かる。俺とじいじも、何回もした。
「これはいいな」
うんうん。
「楽しい」
「ふはっ。いや、まあ、楽しいってのもあるがそうじゃなく」
「ん?」
「こうして鍵をかけておけば、間違えて人の服を着るやつがいなくなるだろ」
「んん?」
間違えて着るの? 人の服?
「いるんだよ、鍛錬場の横のシャワー室。よく見もせずに適当に着るやつが」
「ええー?」
「どこに置いたか忘れた、と言っているやつもいたりしてな」
「なんでー?」
「はは。なんでだろうなあ」
「疲れてるからかも」
「そうか?」
鍛錬の後だし。へろへろで服を脱いで、どこに置いたか見もせずに汗を流しに行っちゃうのかもな。
あ。そういえば俺は、緋色と暮らすようになるまで、俺のってものは無かった。服とか、皆同じで、誰のとか考えたことも無かったんだった。そんな事も忘れていたよ。
いつの間にか、俺の大事なものはいっぱいになっていた。これは、俺の大事な服。適当に持って行かれたら困る。
「緋色。扉と鍵、付けた方がいい」
「そうか」
「ん」
はは、と笑いながら、緋色はしっかり十三番の棚の鍵をかけた。おつかいの人に持ってきてもらった俺たちのお風呂セットに十三って書いてある板の鍵を入れて、それを右手に持つ。
「行くぞ」
「ん」
差し出された緋色の左手をしっかり握った。
朝は行けなかった湯気の向こう。緋色と一緒なら、こんなに簡単に前に進める。
嬉しい。
「はいっ」
脱衣所に入ったらすぐに緋色が言った。番台と中が繋がっていること、すぐ分かったんだね。すごいな。
あ、でもちょっと待って。
安さんが外に出ちゃったら困る。
「緋色。上がってからフルーツ牛乳買う時、安さんがいないと買えない」
「ああん? フルーツ牛乳?」
飲んでいいって言ったよね。夜ご飯をちゃんと食べられるお腹を残せるなら飲んでいい、って。俺、もう覚えた。フルーツ牛乳がどのくらいお腹に溜まるか覚えたから大丈夫。
約束は守る。絶対。
「今、買っておいたらどうだ?」
「ええー?」
それは、なんか違うぅ。
はあ、と緋色はため息を吐いた。
「あー、分かった、分かった。安、前言撤回だ。とりあえずそこにいろ」
「はいっ」
「こっちには来るな」
「はいーっ」
安さん、さっきからいいお返事だなあ。脱衣所は、しばらくお掃除がいらないくらいぴかぴかだから、こっち来なくていいよ。番台のお仕事しててね。
脱衣所は本当に、朝に来た時よりもずっとぴかぴかにお掃除してあった。髪の毛も全然落ちていない。すごいなー、安さん。こんなにぴかぴかにできるんだな。俺もお手伝いする時、このくらいぴかぴかにできるように頑張ろう。
服を入れるの、どこにしようかな? 棚には番号が書いてある。あ、十三番だ。十三番がある。これにしよ。
「そこに入れるのか?」
「そうそう。このかごにね、着替えと脱いだ服を入れて」
ん? 緋色も一緒に入れるの? 棚はいっぱいあるのに。ま、大きいから入るし、いっか。ここさ、俺のね、俺の前の呼び名の棚。なんか、なんか、あれだ。俺のって分かりやすくていいね。
「ここをかちんってすると、開かなくなるの」
「おお」
すごいよね、これ。
「ちょっとその板、貸せ」
やっぱり? やっぱりもう一回やってみるよね? 分かる。俺とじいじも、何回もした。
「これはいいな」
うんうん。
「楽しい」
「ふはっ。いや、まあ、楽しいってのもあるがそうじゃなく」
「ん?」
「こうして鍵をかけておけば、間違えて人の服を着るやつがいなくなるだろ」
「んん?」
間違えて着るの? 人の服?
「いるんだよ、鍛錬場の横のシャワー室。よく見もせずに適当に着るやつが」
「ええー?」
「どこに置いたか忘れた、と言っているやつもいたりしてな」
「なんでー?」
「はは。なんでだろうなあ」
「疲れてるからかも」
「そうか?」
鍛錬の後だし。へろへろで服を脱いで、どこに置いたか見もせずに汗を流しに行っちゃうのかもな。
あ。そういえば俺は、緋色と暮らすようになるまで、俺のってものは無かった。服とか、皆同じで、誰のとか考えたことも無かったんだった。そんな事も忘れていたよ。
いつの間にか、俺の大事なものはいっぱいになっていた。これは、俺の大事な服。適当に持って行かれたら困る。
「緋色。扉と鍵、付けた方がいい」
「そうか」
「ん」
はは、と笑いながら、緋色はしっかり十三番の棚の鍵をかけた。おつかいの人に持ってきてもらった俺たちのお風呂セットに十三って書いてある板の鍵を入れて、それを右手に持つ。
「行くぞ」
「ん」
差し出された緋色の左手をしっかり握った。
朝は行けなかった湯気の向こう。緋色と一緒なら、こんなに簡単に前に進める。
嬉しい。
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