【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,308 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

99 おうちなんだから  成人

しおりを挟む
利胤としたねさま!? おかえりなさい? びっくりやー。帰るって聞いてへんかったですよ、うち」

 壱臣いちおみも、厨房からぱたぱたと出てきた。その後ろに、すたすた歩く源さん。壱臣いちおみも、おかえりなさいの語尾が上がっている。だよね? 聞いてないよね?

「うむ。年始の集まりに九条家の代表は行かなくてもええんやろか、と三郎が気に病むのでな。緋色ひいろ殿下の迎えも来ぬし、まあええ、と一度はわしは言うたんじゃ。じゃが、このままでは、生松いくまつ先生が一人で出席する事になるんでは、と三郎がまた言うもんで、そりゃあいかんと飛んで帰ってきた次第。あれは、生松いくまつは、堅苦しい場を苦手としとるでな。共に行くか、わしと三郎が行くかした方が、誰にとっても良かろう。思い立ったが吉日じゃ。すぐに車を借りて帰ってきたわい。ははっ。どうじゃ、三郎。間に合うたじゃろう」
「なるほど?」

 思い立ったが吉日? すぐに?
 そりゃまあ、誰も、じいじと三郎が帰ってくることを知らないはずだねえ。

「私は、とりあえず連絡をしましょう言うたんです。けど、お祖父さまが、そんな暇は無い。出席するならもう帰らんと間に合わん言うて、あっという間に車に乗せられてしもて……」
「そっかー」
「ほんま、すみません。こんな急な……」
「ん。まあ、いいよ」
「けど……」
「三郎のおうちなんだから、好きな時に帰ってきたらいいよ」
「……っ」

 三郎は、ぱちりと目を見開いて俺を見た。ん? なに? 

「はっはっはっ。だから言うたじゃろ、三郎。家へ帰るだけじゃから、何も心配いらんと」
「いや、その……はい」

 三郎は口に手を当てて、うつむく。手で見えなくなる前の口元が、ゆるりと笑っているような気がした。

「お昼ご飯、まだ食べとらんのですか?」

 壱臣いちおみが首を傾げる。もうお昼ご飯は済んで、遊んでいた時間だもんね。壱臣いちおみたちも食べ終わった頃かな?

「うむ。真っ直ぐに帰ってきてしもうたわい。運転中は飲めんからな」
「それが本音ですわね、おじさま」

 乙羽おとわがすかさず言った。
 じいじ、お酒が飲みたくて急いで帰ってきたのか。あはは。相変わらずだなあ。

「正月なんじゃから、飲むじゃろ」
「正月でなくても飲むでしょ、おじさまは」
「はっはっはっ。バレたか! 年始の集まりの酒も楽しみじゃの。皇城の秘蔵品は格別じゃからなあ」

 あれ? じいじ、お酒を飲みに帰ってきたの? いや、でも、生松いくまつが年始の集まりに一人で出て困らないようにって……?
 ま、いっか。

「いきなり帰ってきてご飯があると思うたら大間違い、と言いたいとこやけど、正月なんでおせちがありますよ、利胤としたねさま。お酒は温めますか?」
「ほほっ。さすが、壱臣いちおみ。話が早い。熱いのをまずは一本」
「一本だけだよ」
「一本だけですわよ」
「一本だけですよ」

 俺と乙羽おとわと三郎の声が重なった。
 本当は、お昼ご飯の時はお酒は無しなんだからね。いつもは、お酒は夜ご飯の時だけの約束だけど、お正月は特別に飲んでも良かったことを、今思い出した。去年もそうだった。でも、一本だけにしなさい、ってさい生松いくまつ睦峯むつみねも言っていた。
 皆、覚えてるよ、じいじ。

「やれやれ。見張りが多くて敵わん」

 じいじは、敵わんって言いながら嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...