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小さな幸せを願った勇者の話

48 目覚めた王女 

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「おお。姫様。マリエッタ殿下。」 

 宰相が、抑えた声を上げる。
 ぱち、ぱち、とゆっくりまばたきをしたマリエッタ殿下は、ベッドの横へ視線を流した。
 王妃殿下がソファから立ち上がり、急ぎ足でベッド横に歩いてくる。そこにいた宰相も、二人の魔術士も火傷をしている護衛騎士も、もちろん俺とセナも素早く避けてベッドから離れた。
 ……できれば部屋からも出てしまいたい。
 そう思いながら、さりげなく聖女の近くに寄る。侍女が王妃殿下に寄り添っているため、ソファの側に放置されていたのだ。
 目の下に酷い隈があり、何となく薄汚れてはいるけれど、魔力や生命力が削られた様子はない。劣悪な環境に置かれて、ろくな食事をもらえず睡眠も取れていない、といったところか。
 それなら、聖女をクビになって城から出ることができれば、長生きできるのかもしれない。まだ、生命力まで蝕まれていない若い聖女。この城からお互いに無事な姿で出ることができたら、城の外で話がしたい。

「あの、大丈夫?」

 セナが聖女に囁く。驚いた顔でこちらを見る目に微かに光が宿った。

「あのね、あの……。」

 今は誰もこちらに意識を向けていないように思えるとはいえ、滅多なことは言えないと気付いてセナは言い淀んだ。

「俺も、治癒魔法は使わない。」

 小さな声でそっと言う。これなら、聞き咎められたら、使えないと言ったのだと言えば誤魔化せるだろう。
 聖女は大きく目を見開いた。口を開かないのは助かる。それも、散々にひどい目にあったために身に付いたのだとしたら悲しいことだが。

「もし、どうしても使わないといけない時は……。」

 セナがこそこそと話していることに護衛騎士が気付いてこちらを向く。
 
「セナ。疲れた?」

 俺が唐突に声をかけると、セナは驚いて話を止めた。

「私の可愛いマリエッタ。具合はどう?」

 いつの間にかベッド横に運ばれた背もたれつきの椅子に腰かけて王妃殿下が震える声で話しかけている。

「お母さま……。私、は……。」

 掠れた声に、侍女がマリエッタ王女の背を抱えて起こし、水差しを口に当てる。

「聖者が癒したのではないの?まだこんなに弱って……。ああ、マリエッタ、何故?」

 治癒魔法で癒したと思われているのか。だから、不調はすべて解消されていると思われている?だが、セナは魔力を補充しただけだから、栄養や休息をしっかりと摂らさなければならない。こんな風に囲んでいたら、疲れてしまうだろう。温かいスープの一つでも運んでくるべきだな。
 ……口は出さないが。

「貴方は二日間、眠っていたのよ。聖女に治癒魔法をかけさせても、状態が良くならなくて心配したわ。何故、あのようなことをしたの?まだ鑑定の儀を受けてもいないのに、治癒魔法を発動させるなんて。」
「お母さまの毒を……消して差し上げたかったのです。お母さまが死んでしまうのじゃないかと思ったから、自然と祈りの言葉を口にしていました。」

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