【百合】女子二人が自炊するだけの話

菜っぱ

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「今キスしたら絶対キムチの味するわ」

 雑炊を食べながら、井波が笑って口にする。
 キムチの赤さに染まった雑炊は、食欲をそそるニンニクの匂いを放っていた。

 これは……。キスをしろという振りだろうか。大真面目にそう捉えた佐々木は井波の口元に勢いよく向かっていった。
 ちゅっとリップ音が響いたかと思うと、井波が呆然とした隙に佐々木は舌を割り込ませてくる。
 長く、器用に動く佐々木の舌は味わうように、井波の口内を徘徊した。

「本当だ、キムチ味ですね」

 無表情でべっ、と舌を見せた佐々木。井波はプルプルと震えながら顔をリンゴのように染めた。

「キスはさあ! 朝の一回だけって決めてるじゃん!」
「あれはログインボーナスに過ぎません。私は落ち込んでいるのでご褒美が欲しいのですよ。そもそもあなたはなぜそんなにキスを嫌がるのですか? 私たちは恋人でしょう?」
「だ、だってえ……」

 一瞬の静寂の末、井波は尖らせた口を開いた。

「恥ずかしくなっちゃうんだもん」

 正しい角度、赤らめた頬、潤んだ瞳。井波による渾身の上目遣いが決まった。効果はバツグンだ!

「ゔっ!」

 佐々木は胸を押さえ倒れ込む。もうときめきと、恋人の可愛さにやられて息も絶え絶えになる。

「どうしたの! 佐々木!」
「いやあ、なんとも。あなたは本当に私好みの女だなあ、と思いまして……」
「え⁉︎ あたし、佐々木の好みの女オブ女なの⁉︎」
「ええ……。確実に私の中の可愛い女グランプリ、ぶっちぎりで優勝ですよ……」
「優勝挨拶しなきゃ!」

 そういうと、井波はマイクを持つような仕草をしながら、大真面目に記者会見のように演説のまねをする。
 このなんだかよくわからない流れを、佐々木は「なんだこの可愛い女は」と思いながら静かに見ていた。
 そうこうしている間に、皿と土鍋の中が空になる。

 二人はカウンターテーブルから食器を流しに運ぶ。いつもスポンジで皿を洗うのは井波の役割で、その泡を流すのが佐々木の役割だ。

「あ、ていうかシャンパン、飲み忘れたわ」
「あ、本当ですね……」
「ま、また美味しいもの作ったときに飲めばいいか」

 その一言に、佐々木は嬉しそうにクスリと笑った。
 二人が一緒にいる限り、食事をする機会なんていくらでもあるのだから。

 以上が二人の暮らしである。
 山もなければオチもない。きっと二人の間には大きな事件も起こらないだろう。こんな、なんの変哲もない暮らしが、いつまでも平和に続いていくだけだ。

 それでも、二人はギャーギャー言いながら暮らすことが、一番幸せであることを噛み締めながら、今日も共に食卓を囲んでいる。

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