氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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まだ出会う前の二人はシリアスみが強い 4

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 ミラジェが男爵家に住み始めてから九年が経ったある日の朝。

 その日はまだ日が上らぬ時間から、姉達が妙に騒がしかった。普段着とは趣向の違う、一張羅だろう煌びやかなドレスを身に纏い、顔にはこれでもかという厚化粧を施していた。
 今日は姉たちにとっては勝負の一日だった。
 何を隠そう、今日の夜、王城では陛下主催の舞踏会が開かれるのだ。この舞踏会で無条件に招かれているのは十五歳__この国で成人を迎えている全ての未婚の女性達だ。

 男性は陛下から直々の招待状がある未婚の人間しか招かれないことになっている。

 ということは、このパーティーは貴族男性の中でも爵位が高い人間のお見合いパーティーである可能性が高い。
 招待されていると噂に上がっている貴族男性達の名前を聞いたミラジェの姉達は、驚きの声をあげた。

「この舞踏会は陛下の従兄弟でいらっしゃるシャルル・エイベッド様のために催されたらしいって噂よ!」

 上の姉がギャンギャンと耳に響く声で騒ぐ。

「嘘っ! あの、シャルル様が⁉︎」

 下の姉も、その事実が衝撃だったようで、バンと勢いよく机を叩き立ち上がる。

(シャルル・エイベッド様……)

 シャルル・エイベッド公爵はこの国で知らぬものがいないほどの有名人である。

 どんな相手に対しても、表情を変えることなく一切笑わないことから、氷の騎士と呼ばれているが、そのあまりにも美しすぎる顔にくらりとこない粛女はいないと評判の男だった。

 その美しい顔と、王国でも高い地位を持つ彼の存在は下町の子供でも知っているレベルで有名だ。貴族の女性達のみならず、大衆にもアイドル的人気がある高貴な貴族なので教育を与えられていないミラジェでさえ、その名を知っているほどだった。

 それと同時に、身内に対しても公正な態度を貫き、どんな不正も許さない、厳しい人であることも有名だ。
 税を不正に申告していた自身の父を断罪し、三十二歳の若さで、自身が公爵家の当主になった。

(そんな高貴で厳格な方を、姉様達が射止められるとは思わないけれど……)

 ミラジェの姉達はミラジェの目から見ても、そこまで器量良しではなかった。見た目は悪くもないがよくもない。夜会に出たとしても目麗しい令嬢が多くいればモブになって霞んでしまうであろう、いたって普通の令嬢といった風貌なのだ。

 それでも持てる財力をふんだんに使い、最新の流行を踏襲した化粧や、評判のいい工房のドレスを身に纏っているので、そこそこかわいいと思えるくらいに加工はできているかもしれない。しかし、中身がいかんせん残念だとミラジェは分析していた。

 大人気の公爵様ならば、どんな女性だって選び放題のはずだ。そんなよりどりみどりの条件下でわざわざ妹をいじめることだけが人生の楽しみとしている心根が曲がった人間を選び取るとは思えない。

 人の愛憎は、時に考えられぬほどの狂乱を呼ぶ。できるだけ平和に暮らしたいと願っているミラジェは、そんな得体のしれないいざこざに巻き込まれるなんてごめんだった。

 ミラジェはいかなる場所においても、目立つ人間には決して近づかないことを信条としていた。

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