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「ほら、着いたぞ。」
茉莉の声にだらしなく身体を起こしてタクシーから出る。律儀に俺の荷物を持って後をついて来る茉莉にこのまま俺の部屋に来てその荷物を置いたらさよならかと虚しいような気持ちになる。
茉莉はどうなんだろうか?
玄関の鍵を開けて、靴を脱ぎ、「ありがとう。」と言って茉莉から荷物を受け取ると、そのまま茉莉が部屋に上がり込んできた。
「え、なに?帰らないの?」
思ってもみなかった茉莉の行動に戸惑い、ズカズカと部屋に入っていく茉莉の後ろ姿に声をかける。
「疲れてんだよ、コーヒー1杯くらい飲ませろ。」
そう言って勝手に俺の部屋に置かれている茉莉のコーヒーセットを手に取りコーヒーを入れ始める。
思いもしなかった茉莉の行動に俺は適当に部屋の隅に荷物を置きながらにやける顔を隠した。
「俺の部屋なのに茉莉の私物が多いよなぁ。」
俺が飲まないコーヒーを淹れる茉莉の後ろ姿に照れ隠しをするように少しぼやく。
「別に、俺以外のアルファの奴のもあるだろ。」
軽口を叩いたつもりだったが思っていたよりも鋭い声が返ってきた。最悪だ。そんなこと、言われなくてもわかっている。茉莉がすぐに帰らなかったことに上機嫌になっていた俺の気持ちは不貞腐れた。
「はいはい、そうですよ~。」
不機嫌になった俺はさっきまでの気持ちはどこに行ったのか、さっさと帰れと心の中で悪態をつきながら適当に返事をしてベッドに倒れ込む。
ベッドに寝転がりながら、俺の家で勝手にコーヒーを入れてくつろいだ様子でニュースを見ている茉莉を眺める。
…いい男なんだよなぁ。顔面は。
茉莉の横顔はきれいだ。さすがアルファというだけあって容姿については文句の付けようがない。俺はあんまり詳しくないけど、実家も有名な企業か何かで財力もある。性格に問題があるとはいえ、アルファとしての実力は申し分ない。オメガとしては怖いくらいだ。
俺はどうだ?
母親は蒸発。オメガの支援金が無ければ大学へも行けず、適当なアルファを引っ掛けて無心する毎日。顔はまぁ、アルファが引っかかるくらいには整ってるんだろうけど。
…釣り合わねぇ。やっぱり、どう考えても茉莉からしたら俺はセフレ以上にする価値がない。発情期の間、ちょっと優しくされたからってこんなこと考えるなんて、俺も馬鹿だ。
でも、なんか、ムカつくな。俺は使い捨てか?
右耳にピアスまで開けてやったのに?
「なぁ、茉莉。」
イライラして俺は茉莉に声をかける。
「なに?」
テレビを見たまま返事をする茉莉にさらにイライラする。
「俺、可愛い?オメガの中でもとびきり可愛い?」
結局、容姿ぐらいしか茉莉を繋ぎ止めておく手段が見つからず、自分でも笑いが出るような質問になってしまった。
「はぁ?急になんだ?」
茉莉がやっとこっちを向いた。俺の質問に答えるためかマジマジと顔を見られる。急に顔を見られて気恥ずかしくなり怒ったような表情しかできない自分が嫌になる。
「…可愛くねぇな。とびきり可愛くねぇわ。」
またテレビに視線を戻して茉莉が言う。そりゃそうか。自分で聞いておきながらガックリとして枕に顔面を押し付ける。
「……玲は可愛いっていうより、綺麗だろ。」
・・・。顔を枕に埋めておいて良かった。
きっと今だけだ。茉莉のそばが心地いいのは。
きっと今だけだ。茉莉にそばに居て欲しいと思うのは。
そのうち茉莉のそばにいることが辛くなる。茉莉に見合わない自分が嫌になる。でも、今だけでも、茉莉がそばに居てくれるなら、それで充分かもしれない。
茉莉の声にだらしなく身体を起こしてタクシーから出る。律儀に俺の荷物を持って後をついて来る茉莉にこのまま俺の部屋に来てその荷物を置いたらさよならかと虚しいような気持ちになる。
茉莉はどうなんだろうか?
玄関の鍵を開けて、靴を脱ぎ、「ありがとう。」と言って茉莉から荷物を受け取ると、そのまま茉莉が部屋に上がり込んできた。
「え、なに?帰らないの?」
思ってもみなかった茉莉の行動に戸惑い、ズカズカと部屋に入っていく茉莉の後ろ姿に声をかける。
「疲れてんだよ、コーヒー1杯くらい飲ませろ。」
そう言って勝手に俺の部屋に置かれている茉莉のコーヒーセットを手に取りコーヒーを入れ始める。
思いもしなかった茉莉の行動に俺は適当に部屋の隅に荷物を置きながらにやける顔を隠した。
「俺の部屋なのに茉莉の私物が多いよなぁ。」
俺が飲まないコーヒーを淹れる茉莉の後ろ姿に照れ隠しをするように少しぼやく。
「別に、俺以外のアルファの奴のもあるだろ。」
軽口を叩いたつもりだったが思っていたよりも鋭い声が返ってきた。最悪だ。そんなこと、言われなくてもわかっている。茉莉がすぐに帰らなかったことに上機嫌になっていた俺の気持ちは不貞腐れた。
「はいはい、そうですよ~。」
不機嫌になった俺はさっきまでの気持ちはどこに行ったのか、さっさと帰れと心の中で悪態をつきながら適当に返事をしてベッドに倒れ込む。
ベッドに寝転がりながら、俺の家で勝手にコーヒーを入れてくつろいだ様子でニュースを見ている茉莉を眺める。
…いい男なんだよなぁ。顔面は。
茉莉の横顔はきれいだ。さすがアルファというだけあって容姿については文句の付けようがない。俺はあんまり詳しくないけど、実家も有名な企業か何かで財力もある。性格に問題があるとはいえ、アルファとしての実力は申し分ない。オメガとしては怖いくらいだ。
俺はどうだ?
母親は蒸発。オメガの支援金が無ければ大学へも行けず、適当なアルファを引っ掛けて無心する毎日。顔はまぁ、アルファが引っかかるくらいには整ってるんだろうけど。
…釣り合わねぇ。やっぱり、どう考えても茉莉からしたら俺はセフレ以上にする価値がない。発情期の間、ちょっと優しくされたからってこんなこと考えるなんて、俺も馬鹿だ。
でも、なんか、ムカつくな。俺は使い捨てか?
右耳にピアスまで開けてやったのに?
「なぁ、茉莉。」
イライラして俺は茉莉に声をかける。
「なに?」
テレビを見たまま返事をする茉莉にさらにイライラする。
「俺、可愛い?オメガの中でもとびきり可愛い?」
結局、容姿ぐらいしか茉莉を繋ぎ止めておく手段が見つからず、自分でも笑いが出るような質問になってしまった。
「はぁ?急になんだ?」
茉莉がやっとこっちを向いた。俺の質問に答えるためかマジマジと顔を見られる。急に顔を見られて気恥ずかしくなり怒ったような表情しかできない自分が嫌になる。
「…可愛くねぇな。とびきり可愛くねぇわ。」
またテレビに視線を戻して茉莉が言う。そりゃそうか。自分で聞いておきながらガックリとして枕に顔面を押し付ける。
「……玲は可愛いっていうより、綺麗だろ。」
・・・。顔を枕に埋めておいて良かった。
きっと今だけだ。茉莉のそばが心地いいのは。
きっと今だけだ。茉莉にそばに居て欲しいと思うのは。
そのうち茉莉のそばにいることが辛くなる。茉莉に見合わない自分が嫌になる。でも、今だけでも、茉莉がそばに居てくれるなら、それで充分かもしれない。
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