不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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「おい、起きろ、玲!」

身体が揺さぶられてる。茉莉?なんで?

寝ぼけた頭でぼんやりと考えていると茉莉がでかい声を出した。

「おい!起きろって!ほんと寝起き悪ぃな!」

グイッと首輪を引っ張られて身体を起こされる。

「ぐぇっ!!何すんだっ!うぇぇぇっ。」

首の締まる苦しさと吐き気に文句を言う。

「お前が起きねぇからだろ!授業遅刻すっぞ!」

「は?え?」

「寝ぼけてんのか?早く顔洗ってこいよ。」

茉莉に叩き起こされよくわからないまま洗面所に立ってぼうっとする。どうやらあのまま寝ていたらしい。すごく、安眠だったみたいだ。

あのあと茉莉が泊まったのか。

なんとなく安堵している自分が恥ずかしくて、バシャバシャと少し乱暴に顔を洗う。スッキリとした顔つきで部屋に戻れば、コーヒーを飲みながらニュースを見ている茉莉の後ろ姿があった。俺の家に居る時のいつもの茉莉だ。

「茉莉、昨日泊まったの?」

俺は確かめるように茉莉に聞く。茉莉はチラッと俺の方を向いたがすぐにまたテレビの方を向いて「お前が起きないからだろ。」とぶっきらぼうに答えた。

コーヒーを飲み切ったのか茉莉がおもむろに立ち上がりコーヒーカップを洗いに行く。

「これ、洗ったら大学行くぞ。」

「え、あぁ。」

茉莉に返事をしながらもぼうっとコーヒーカップを洗っている茉莉を見ていたら「さっさと準備しろって!」と茉莉に怒られた。

 俺が起きなくてもそのまま帰れば良かったじゃないか、なんて茉莉の行動を不思議に思いながら大学の授業をぼんやりと受ける。茉莉とは別の授業だ。大学の友人がいないわけではないが、学内のほとんどのアルファと関係を持っていることをそれほど隠してもいないので友人も多くない。まさか発情期ヒート中のことを他のアルファに相談してみるわけにもいかないし…。

茉莉のことがよくわからない。今までお互い都合のいい関係だったはずなのに…。いや、茉莉は変わってないか。会った時からよくわからない奴で、調子の良いことばかり言う茉莉。今回の発情期ヒートのこともちょっと茉莉がラット気味だっただけだ。普段よりラットで優しくて、独占欲が出ていた茉莉に俺が絆されただけ。

茉莉がたまたま俺のピアスのことを知ってて、たまたま発情期ヒート中に衝動でピアスを開けられて、それで、俺が勝手に茉莉のことを特別に思ってしまっただけ。

茉莉に似合わない俺。そんなこと、1番俺がよくわかってるけど、あーあ、こんな気持ちに気づかなかったら良かったのに。

茉莉にとって都合のいいオメガのままでいられたらきっとこの関係はうまく続く。どうせいつかは終わりが来るだろう。それまで、俺は、少しでも長く都合のいいオメガでいないといけない。

俺は底知れない不安にそっと蓋をした。だって茉莉は俺を番にはしてくれないだろうから。

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