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2章
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翌日昼過ぎに魔王様が目を覚ました時には、天帝の姿はどこにもなかった。
自分の身も整えられており、ただ僅かな目眩と頭痛がしたぐらいで他には何もなかった。
上半身を起こし、呆けた頭を起こそうと昨日の話を思い出そうとした。
「西方都市でしたか……」
天帝狂信者集団の本拠地があるとされている場所を思い出した。
魔王様がゆっくりベッドから立ち上がったところで、ノックの音がする。
返事をすると、リタが扉を開けて入ってきた。
「陛下、おはようございます。お食事はいかがなさいますか」
「……今は結構です」
逡巡したが、やはり気分が乗らなかった。
そんな魔王様を不安そうに見つめるリタだったが、昨日の天帝との事で、訊くのは野暮であると思い止めておいた。
「それより、昨日の話を聞いてください」
魔王様は昨日聞いた、天帝狂信者集団と反天界軍の話、西方都市に近日中に行くつもりである事を話した。
リタは特に驚いた様子を見せなかった。
「今日ではないのですか?」
いつもの魔王様ならすぐにでも向かうとリタは思っていた。
「今日は……湯浴みをしてから、寝ます」
起きたばかりだが、昨日のこともありもう少し休息が必要だった。
「分かりました。用意します」
リタはそれだけ答えると、すぐに湯の支度に取りかかった。魔王様はその後ろをゆっくりと着いて行った。
翌日、魔王様は昨日の話通りに西方都市へ赴こうとしていたが、思わぬ訪問者が訪れた。
「陛下、また人間たちが来ていますが、どう対処致しますか?」
「それは挑戦者ですか?」
「言い方を変えればそうとも捉えられます」
ため息をつきながら、魔王様は向かうことにした。
広間には30人近くの人間がおり、どうやら言い争いをしていた。
「ここは酒場でしたか?」
と魔王様は皮肉を言うことしかできなかった。
「魔王は天帝と組んでいるんだ!お前たちはそんなことも知らずにここへ来ていたのか?」
剣を携え、鎧を着た若い青年が声を荒らげていた。組んでいるとはどう言うことか、魔王様には話の筋が一切見えていなかった。
「何を言っている⁉︎天帝と魔王は犬猿の仲!そんな事実、今更言うまでもない!」
魔王様はこの人に見覚えがあった。天帝狂信者集団の1人で、最近何度も魔王城に訪れている。その人が言い争うということは、若い青年は反天界軍なのだろうと、予想した。
一団は魔王様の訪れに気づいていないらしく、双方騒がしく今にも剣で斬り合いが始まるのではないかと、魔王様は少しだけ楽しそうに眺めていた。
だが、残念ながら数人は宥める人がいる為それは起こらずに終わった。
「陛下、彼らは誤解をしています。その誤解を解くよりも、ほとぼりが冷めるまで魔界へ行きませんか?」
リタは彼らが魔王様の話を素直に聞かないことを知っていた。また、この話からするとどちらも魔王様を憎んでいるようだった。
だが、ここは魔王城で主は魔王様だ。何故自分が身を引かねばならないのか、魔王様は眉を寄せ、頭を抱えた。
その時、魔王様とリタに気づいた青年が大きな声を上げた。
「私はサイ・ヒストラーニ!反天界軍のリーダーをしている者だ!貴殿の身の振り方についてお伺いしたい」
サイ・ヒストラーニと名乗った青年を魔王様は上から下まで見遣った。肩より少し長いであろう黒髪を一つに纏めて、茶よりも橙色に近い目の色をしており見目の良い青年だった。
だがこの問いにはどう答えるべきか悩んだ。天帝と仲が悪いと言えば狂信者集団が、良いと言えば反天界軍が敵に回る。いや、魔王様にとって敵ではないが邪魔な人間が増えるのは避けたかった。
「私は、あなた方が天帝をどうしようと関係ありません」
「では、魔族は天界と戦わないと?」
何故自分が魔族の代表として表明を出さなければならないのか、魔王様は呆れてしまったが、全てはこの肩書きのせいであることも理解していた。
「魔族が天界と戦うことはありません。それに、私は誰かの手助けをするつもりもありません」
これでどちらの敵にも回らず、人間たちが出て行ってくれるだろうと思ったが、まだ彼らは引かなかった。
「ですが、魔王が天帝と一緒にいる姿を見たと言う者がいますよ!」
一体誰がそんな話を流したのか、火のないところに煙は立たないのではなかったのか?そう思った時、自分が数日前に彼らの拠点のある北方都市で、天帝と一緒にいたことを思い出した。
「私の仲の良し悪しに関係なく、好きに反天界運動してください」
魔王様はどんどん頭を痛くした。
魔王様の言葉に、反天界軍は顔を見合わせ、天帝狂信者集団は何やら反天界軍に言いたいことがあるようだ。
「お前らがどうやって天帝に勝てると言うんだ!」
「勝てるか勝てないかではない!意思表示だ!」
魔王様は「いいから他所でやってください」と肩を落とした。
「陛下が来るもの拒まずだからでしょうか」
リタは関わりたくないと、少し後ろに退いて言った。
「だからって集まらなくても良いではありませんか」
魔王様は騒いでいる人間達を眺めて、力尽くで追い出そうか迷っていた。
そんな時に、話を掻き回す人物が現れた。
「レイリン、今日はなんだか賑やかだね?」
魔王様の頭痛はひどくなる一方だった。
自分の身も整えられており、ただ僅かな目眩と頭痛がしたぐらいで他には何もなかった。
上半身を起こし、呆けた頭を起こそうと昨日の話を思い出そうとした。
「西方都市でしたか……」
天帝狂信者集団の本拠地があるとされている場所を思い出した。
魔王様がゆっくりベッドから立ち上がったところで、ノックの音がする。
返事をすると、リタが扉を開けて入ってきた。
「陛下、おはようございます。お食事はいかがなさいますか」
「……今は結構です」
逡巡したが、やはり気分が乗らなかった。
そんな魔王様を不安そうに見つめるリタだったが、昨日の天帝との事で、訊くのは野暮であると思い止めておいた。
「それより、昨日の話を聞いてください」
魔王様は昨日聞いた、天帝狂信者集団と反天界軍の話、西方都市に近日中に行くつもりである事を話した。
リタは特に驚いた様子を見せなかった。
「今日ではないのですか?」
いつもの魔王様ならすぐにでも向かうとリタは思っていた。
「今日は……湯浴みをしてから、寝ます」
起きたばかりだが、昨日のこともありもう少し休息が必要だった。
「分かりました。用意します」
リタはそれだけ答えると、すぐに湯の支度に取りかかった。魔王様はその後ろをゆっくりと着いて行った。
翌日、魔王様は昨日の話通りに西方都市へ赴こうとしていたが、思わぬ訪問者が訪れた。
「陛下、また人間たちが来ていますが、どう対処致しますか?」
「それは挑戦者ですか?」
「言い方を変えればそうとも捉えられます」
ため息をつきながら、魔王様は向かうことにした。
広間には30人近くの人間がおり、どうやら言い争いをしていた。
「ここは酒場でしたか?」
と魔王様は皮肉を言うことしかできなかった。
「魔王は天帝と組んでいるんだ!お前たちはそんなことも知らずにここへ来ていたのか?」
剣を携え、鎧を着た若い青年が声を荒らげていた。組んでいるとはどう言うことか、魔王様には話の筋が一切見えていなかった。
「何を言っている⁉︎天帝と魔王は犬猿の仲!そんな事実、今更言うまでもない!」
魔王様はこの人に見覚えがあった。天帝狂信者集団の1人で、最近何度も魔王城に訪れている。その人が言い争うということは、若い青年は反天界軍なのだろうと、予想した。
一団は魔王様の訪れに気づいていないらしく、双方騒がしく今にも剣で斬り合いが始まるのではないかと、魔王様は少しだけ楽しそうに眺めていた。
だが、残念ながら数人は宥める人がいる為それは起こらずに終わった。
「陛下、彼らは誤解をしています。その誤解を解くよりも、ほとぼりが冷めるまで魔界へ行きませんか?」
リタは彼らが魔王様の話を素直に聞かないことを知っていた。また、この話からするとどちらも魔王様を憎んでいるようだった。
だが、ここは魔王城で主は魔王様だ。何故自分が身を引かねばならないのか、魔王様は眉を寄せ、頭を抱えた。
その時、魔王様とリタに気づいた青年が大きな声を上げた。
「私はサイ・ヒストラーニ!反天界軍のリーダーをしている者だ!貴殿の身の振り方についてお伺いしたい」
サイ・ヒストラーニと名乗った青年を魔王様は上から下まで見遣った。肩より少し長いであろう黒髪を一つに纏めて、茶よりも橙色に近い目の色をしており見目の良い青年だった。
だがこの問いにはどう答えるべきか悩んだ。天帝と仲が悪いと言えば狂信者集団が、良いと言えば反天界軍が敵に回る。いや、魔王様にとって敵ではないが邪魔な人間が増えるのは避けたかった。
「私は、あなた方が天帝をどうしようと関係ありません」
「では、魔族は天界と戦わないと?」
何故自分が魔族の代表として表明を出さなければならないのか、魔王様は呆れてしまったが、全てはこの肩書きのせいであることも理解していた。
「魔族が天界と戦うことはありません。それに、私は誰かの手助けをするつもりもありません」
これでどちらの敵にも回らず、人間たちが出て行ってくれるだろうと思ったが、まだ彼らは引かなかった。
「ですが、魔王が天帝と一緒にいる姿を見たと言う者がいますよ!」
一体誰がそんな話を流したのか、火のないところに煙は立たないのではなかったのか?そう思った時、自分が数日前に彼らの拠点のある北方都市で、天帝と一緒にいたことを思い出した。
「私の仲の良し悪しに関係なく、好きに反天界運動してください」
魔王様はどんどん頭を痛くした。
魔王様の言葉に、反天界軍は顔を見合わせ、天帝狂信者集団は何やら反天界軍に言いたいことがあるようだ。
「お前らがどうやって天帝に勝てると言うんだ!」
「勝てるか勝てないかではない!意思表示だ!」
魔王様は「いいから他所でやってください」と肩を落とした。
「陛下が来るもの拒まずだからでしょうか」
リタは関わりたくないと、少し後ろに退いて言った。
「だからって集まらなくても良いではありませんか」
魔王様は騒いでいる人間達を眺めて、力尽くで追い出そうか迷っていた。
そんな時に、話を掻き回す人物が現れた。
「レイリン、今日はなんだか賑やかだね?」
魔王様の頭痛はひどくなる一方だった。
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