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2章
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「今はそう呼ばないでください」
いつの間にか影と共に現れた天帝に、魔王様は眉を寄せて苦言を呈した。仲が良いと知られてはまた厄介なことになる。
だが、ここにいる人たちのどれだけが、天帝の素顔を見たことあるのだろうか?
「大丈夫だよ、魔王様」
それでも呼び方を変えて、笑顔で天帝は魔王様に近づいてきた。
「貴方は?今、どこから現れましたか?魔族の同志ですか?」
警戒心を隠すことなく、反天界軍のリーダーであるサイは剣を抜いた。その挙動に、両団体の間に緊張の糸が張った。
「私は……」
天帝はどう言ったらいいのか逡巡し、口を開いた。
「魔王様の良いお友達」
張っていた糸がプツンと切れた音がした。
魔王様を黄玉が見つめ、柔らかい声が響くと、天帝の周りの雰囲気が暖かいものとなり、周りも毒気が抜けてしまったのだ。
「ね?」とでも言いたげに、天帝は魔王様の顔を覗き込んだ
魔王様もこれには少し照れてしまい、咳き込んで誤魔化した。
「何か用事がありましたか?」
このタイミングで現れるのだから、何か理由があると魔王様は思った。
「何だか楽しそうだと思って」
天帝は人間の一団を見て言うが、そんな理由なはずがあるかと魔王様は疑う目線を向けた。
だが、天帝は話すつもりが無いようなので、放っておくことしか魔王様にはできない。
そうしているうちに、反天界軍と狂信者集団の熱は戻ってきていた。
「天雷による被害を受けて、それでも天界を盲信している連中と、最早話すことなどない!」
「あれ程までの力を見て、何故感銘を受けないのか!天界が必要だと思ったから我々に裁きの雷が降り注いだのだ!」
この双方の意見に関して、魔王様は自分も無関係ではなく頭を悩ませ、要らぬ質問を投げかけてしまった。
「反天界軍の最終目的は何ですか?」
「人間界への不干渉です!」
それならもう達成できたのでは無いかと、当事者なので知っている。
「では魔族が人間界を襲って来る時に、助けは要らないというのか?」
「人間が対処したらいい!」
魔族に襲われる心配をしている者が、何故魔王を目の前に威勢を張れるのかと魔王様は思ったが、人間全てがそうでは無いのだから仕方がない。
「だったら、やはりこの問題は魔族も関係してくる!魔王はどう考えているのか?」
何としてでも魔王様を巻き込みたいらしい。2つのグループのリーダーが、魔王様を見つめ、それが周りに伝播していく。
「私は魔族全てを従えているわけではありません。魔族が人を襲う事を止めはしても、行動を縛るような事は極力したくありません」
魔族は誰かの言う事を聞く連中ではない。むしろ、魔王様が特別な方だ。
リタなら痺れを切らして、全てを吹っ飛ばして魔王城から排除しているところだろう。
天帝はどうでもよさそうに、魔王様をただ見ていた。頭の中は本当に何も考えずに、魔王様の髪を綺麗だと思いながら本数でも数えているのだろう。
「レイリン、そろそろ2人きりになりたい」
そっと耳元で囁くこの男のせいで、こうなっているんだと魔王様は睨みつけた。
だが、騒ぎの収まらない魔王城にもっとややこしい存在が介入してしまった。
「まさか、こんなところにおいでだとは……」
その人達は魔王城の扉を開けて、1人が先頭を歩き、後ろに10人程を引き連れて入って来た。
服装からしても神官だった。
何故魔王城で勢揃いしなければならないのかと、魔王様の頭痛はまた一段階強くなった。
天帝狂信者集団は目を見張り、道を開けて跪き、反天界軍も同じように驚いていたが、1歩も動かずに神官を睨みつけていた。
神官達は、天帝の目の前まで来ると狂信者集団のように跪いた。それを見て、人間達は全員目が飛び出る程に驚いた。魔王様の良い友達が天帝だとは思わなかったのだろう。
「不躾ながら、主は何故このような場所におられるのですか?」
先頭を歩いていた金髪碧眼の神官が、天帝に訪ねるが、天帝は至って何でもないことのように答えた。
「私が来たいから来ている」
その表情には何も浮かんでいない。何故邪魔をするのかと言いたげだ。
「先ほど四神官による評決を採り、後は主に一任されました」
何かの裁判でもしていたのか、それでも天帝の表情は動かず、ゆっくりと1度瞬きをして魔王様を見た。
何のことが理解できていない魔王様に説明するかのように、天帝は至って冷静に口を開いた。
「私の解任要求だね?」
「はい」
今回の荒ぶる天帝の雷は、流石に天界的にも処罰が必要な程だったのだろう。だが、まさか天帝に解任要求が出されていたとは、しかもそれを放置してここにいるとは、彼が理解できない存在である事を魔王様は思い出した。
「ランシュエ?どういうことですか?」
「言葉の通り」
それでも笑顔で魔王様を見る天帝に、大したことではないのかと錯覚してしまう。だが、そんな事はない。
「神官としての力を奪われたら、貴方の……」
「大丈夫だよ。誰が、今の私に逆らえるの?」
不敵な笑みを浮かべた時、その場の空気が凍りついた。確かに彼は天帝であり、一任という事は彼の勅裁によって決まるという事だった。
それはあまりにも暴君じゃないか?と魔王様は少しだけ呆れてしまった。
その時、光る剣筋が魔王様に向かって走ってきた。
魔王様は咄嗟に右手を握って剣筋に向かって拳を叩きつけた。
「一体何故このタイミングで私が狙われるのですか?!」
剣を抜いたのは、サイ・ヒストラーニと名乗った反天界軍のリーダーだった。
いつの間にか影と共に現れた天帝に、魔王様は眉を寄せて苦言を呈した。仲が良いと知られてはまた厄介なことになる。
だが、ここにいる人たちのどれだけが、天帝の素顔を見たことあるのだろうか?
「大丈夫だよ、魔王様」
それでも呼び方を変えて、笑顔で天帝は魔王様に近づいてきた。
「貴方は?今、どこから現れましたか?魔族の同志ですか?」
警戒心を隠すことなく、反天界軍のリーダーであるサイは剣を抜いた。その挙動に、両団体の間に緊張の糸が張った。
「私は……」
天帝はどう言ったらいいのか逡巡し、口を開いた。
「魔王様の良いお友達」
張っていた糸がプツンと切れた音がした。
魔王様を黄玉が見つめ、柔らかい声が響くと、天帝の周りの雰囲気が暖かいものとなり、周りも毒気が抜けてしまったのだ。
「ね?」とでも言いたげに、天帝は魔王様の顔を覗き込んだ
魔王様もこれには少し照れてしまい、咳き込んで誤魔化した。
「何か用事がありましたか?」
このタイミングで現れるのだから、何か理由があると魔王様は思った。
「何だか楽しそうだと思って」
天帝は人間の一団を見て言うが、そんな理由なはずがあるかと魔王様は疑う目線を向けた。
だが、天帝は話すつもりが無いようなので、放っておくことしか魔王様にはできない。
そうしているうちに、反天界軍と狂信者集団の熱は戻ってきていた。
「天雷による被害を受けて、それでも天界を盲信している連中と、最早話すことなどない!」
「あれ程までの力を見て、何故感銘を受けないのか!天界が必要だと思ったから我々に裁きの雷が降り注いだのだ!」
この双方の意見に関して、魔王様は自分も無関係ではなく頭を悩ませ、要らぬ質問を投げかけてしまった。
「反天界軍の最終目的は何ですか?」
「人間界への不干渉です!」
それならもう達成できたのでは無いかと、当事者なので知っている。
「では魔族が人間界を襲って来る時に、助けは要らないというのか?」
「人間が対処したらいい!」
魔族に襲われる心配をしている者が、何故魔王を目の前に威勢を張れるのかと魔王様は思ったが、人間全てがそうでは無いのだから仕方がない。
「だったら、やはりこの問題は魔族も関係してくる!魔王はどう考えているのか?」
何としてでも魔王様を巻き込みたいらしい。2つのグループのリーダーが、魔王様を見つめ、それが周りに伝播していく。
「私は魔族全てを従えているわけではありません。魔族が人を襲う事を止めはしても、行動を縛るような事は極力したくありません」
魔族は誰かの言う事を聞く連中ではない。むしろ、魔王様が特別な方だ。
リタなら痺れを切らして、全てを吹っ飛ばして魔王城から排除しているところだろう。
天帝はどうでもよさそうに、魔王様をただ見ていた。頭の中は本当に何も考えずに、魔王様の髪を綺麗だと思いながら本数でも数えているのだろう。
「レイリン、そろそろ2人きりになりたい」
そっと耳元で囁くこの男のせいで、こうなっているんだと魔王様は睨みつけた。
だが、騒ぎの収まらない魔王城にもっとややこしい存在が介入してしまった。
「まさか、こんなところにおいでだとは……」
その人達は魔王城の扉を開けて、1人が先頭を歩き、後ろに10人程を引き連れて入って来た。
服装からしても神官だった。
何故魔王城で勢揃いしなければならないのかと、魔王様の頭痛はまた一段階強くなった。
天帝狂信者集団は目を見張り、道を開けて跪き、反天界軍も同じように驚いていたが、1歩も動かずに神官を睨みつけていた。
神官達は、天帝の目の前まで来ると狂信者集団のように跪いた。それを見て、人間達は全員目が飛び出る程に驚いた。魔王様の良い友達が天帝だとは思わなかったのだろう。
「不躾ながら、主は何故このような場所におられるのですか?」
先頭を歩いていた金髪碧眼の神官が、天帝に訪ねるが、天帝は至って何でもないことのように答えた。
「私が来たいから来ている」
その表情には何も浮かんでいない。何故邪魔をするのかと言いたげだ。
「先ほど四神官による評決を採り、後は主に一任されました」
何かの裁判でもしていたのか、それでも天帝の表情は動かず、ゆっくりと1度瞬きをして魔王様を見た。
何のことが理解できていない魔王様に説明するかのように、天帝は至って冷静に口を開いた。
「私の解任要求だね?」
「はい」
今回の荒ぶる天帝の雷は、流石に天界的にも処罰が必要な程だったのだろう。だが、まさか天帝に解任要求が出されていたとは、しかもそれを放置してここにいるとは、彼が理解できない存在である事を魔王様は思い出した。
「ランシュエ?どういうことですか?」
「言葉の通り」
それでも笑顔で魔王様を見る天帝に、大したことではないのかと錯覚してしまう。だが、そんな事はない。
「神官としての力を奪われたら、貴方の……」
「大丈夫だよ。誰が、今の私に逆らえるの?」
不敵な笑みを浮かべた時、その場の空気が凍りついた。確かに彼は天帝であり、一任という事は彼の勅裁によって決まるという事だった。
それはあまりにも暴君じゃないか?と魔王様は少しだけ呆れてしまった。
その時、光る剣筋が魔王様に向かって走ってきた。
魔王様は咄嗟に右手を握って剣筋に向かって拳を叩きつけた。
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