魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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3章

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魔王城へ戻り、5人は食堂に集まっていた。

先ほど淹れたお茶ではなく、リタが新しく淹れたお茶がそれぞれの前に置かれている。魔王様の機嫌はそのお茶を飲んで、幾分か良くなった。

「グランやセナに言うことは殆どありませんが」

と魔王様の前置きを遮って、セナは発言した。

「聞いていませんよ。私たちが行なっていた洗礼が、まさか今回のような使われ方をするなんて!」

セナは前のめりになって魔王様に言った。

「確かに、非人道的ではありますね。ですが、力の差を減らすために、皆に魔力を分け与える必要があります。それはセナも理解していますよね?」

魔王様は魔族の差別を好まない。

特に力が弱くなり易いハーフに関しては強くそう思っていた。セナも当然わかっており、ため息を吐いて椅子に深く掛け直した。

リタはこの魔王様の言葉を聞いて、持っていた丸盆に力が少しだけ入った。

「レイリン、その前から説明が欲しいんだけど」

元天帝は、自分の知らない魔王様がいることは分かっていたが、ここまで様々な事を隠しているとは思っていなかった。
前回の元神官の件だけだと思っていた。

「そうですね。ランシュエは私を堕とした記憶は戻りましたが、他の神官を魔界へ堕とした記憶はありますか?」

少しも考えることなく元天帝は答えた。

「いや、追放した他の神官の記憶は全くない」

魔界だけでなく、人間界に追放した記憶もない。全て忘れてしまうのだから当然だった。

「罪を犯したものは魔界へ追放されますが、これ程魔界が発展するほどに罪を犯した神官がいると?」

それは元天帝も思っていた事だった。
魔界とはどういった者達の集まりなのか。

神官はプライドが高いが、そのプライド故に人間界にも、ましてや魔界に追放されるなどあってはならないと思っている。

人間界へは力を失って堕ちることがあっても、罪を犯して魔界へ堕ちる神官は少ないだろう。

魔王様は微笑んで瞼を閉じだ。

「実際に魔界へ堕ちて来た神官は、私が知る限りでは私だけです」

元天帝とリタの目が大きく見開かれた。

「どうしてそう言えるの?」

「大穴を通らずに魔界へ入れますか?」

魔王様は元天帝の質問に答えた。この言い方では何か大穴に結界でも張っているのだろうと、元天帝は思った。

魔王様は過去の話を始め、元天帝とリタは静かに話を聞いた。

「私は、天界から追放されて、魔界の奥地でたった1人でした。森にログハウスを建て、庭を作って花を育てたり、野菜を栽培したり、豆を焼きながら暮らしていました。ただ、あまりにも暇だったため、自分の魂を使ってグランを創ったのです」

魔王様は「ね?」と同意を求めるように、グランに笑いかけた。グランも嬉しそうに「はい!」と笑った。

「創ったって、そんな簡単に言わないでください」

リタは眉を顰め、元天帝はグランを一瞬だけ睨んだ。

「それは、誰かが私の魂を強固にして、神力を奪わなかったせいですね」

魔王様は横目で元天帝を見遣る。

「その後にセナと、もう1人ユナという魔族を創って、家族のように暮らしていました」

元天帝は「まだいるの?」と少し嫌気がさした様子だった。魔王様が「大切な存在」と言うのはリタだけだと思っていたのに、嫉妬の対象が増えてしまう。

しかも、魔族には少なからず魔王様の魂が入っているなどと聞いて、あまり冷静ではいられなかった。

「その後は、彼らにも私と同じような力があったので、魔族を少しだけ増やしてもらい、町を作り、魔族が子を作り、気づいたら管理が行き届きにくくなってしまったのです」

魔王様が肩をすくめ、説明を続けた。

「そこで、各層に街を設けて、その層をセナとユナとグランに任せて、私はのんびり暮らしていたのです」

魔王様は最後適当に締め括ったが、元天帝は疑問が残るばかりだった。

だが、詳しい話は脇に置いておき、今は目の前の問題について話を進めるべきだった。

「それなら、さっきの群団が言っていた言葉は?彼らは前世で神官だったと言っていたよ」

「私が思うに、それはないかと思います。罪の重さで裁定されますが、前世で罪を犯し、転生して魔界へ追放されたとなれば、その罪は比較的重い方のはずです」

自分ほどではないが、暴力沙汰ぐらい犯しているだろうと魔王様は考えた。

「軽い罪を犯して追放された者がいないのに、それよりも重い罪を犯した者が、あれほどいるとは思えますか?」

「では、彼らを扇動した者が騙したという事だな?」

群団のほとんどは1層の住民であり、セナの管理する者達だ。あまり良い気分ではなかったのだろう。セナの顔色が暗くなった。

「そうでしょうね。すぐに天界へ行って事の真相を確かめたい所です」

魔王様はすっと立ち上がり、直ぐにでも行こうと扉の方へ歩き出した。

「何故天界なのですか?」

リタは、直ぐに天界へ攻め込もうとする魔王様を止める習慣ができてしまっていた。

「その者の望む事をしてみれば、思わず現れるかもしれません」

事の成り行きは特等席で確認したくありませんか?と魔王様は笑った。

「待ってください。危ないので私も行きます」

グランはやはり一緒に行きたいようだった。
机を叩いて立ち上がった。

「ダメですよ。誰も来てはいけません。相手側が警戒してしまいます。それに、魔族が天界を攻め入るわけではありませんよ」

グランは顔を顰めたが、魔王様に言われては言うことを聞くしかなかった。

「陛下、せめて休んでからにしましょう」

リタは先ほどの魔族群団との一戦でそれほど力を使っていないとはいえ、回復してからに越したことはないと思った。それはここにいる全員が思ったことだろう。

「大丈夫です。それほど消費していません」

魔王様は安心させるようにリタへ微笑むが、リタは無表情ながらも僅かに眉を寄せた。
それはセナもグランも同様だった。

そしてこの中で魔王様に意見や手を出せるのはたった1人だ。

「レイリン、明日にしよう?休んでからでも遅くは無いよ」

元天帝はじっと魔王様を見つめ、魔王様は顔だけ振り返ってその目を見つめ返した。

次の瞬間、元天帝は一瞬のうちに魔王様に詰め寄り、魔王様にのしかかるように腰を抱きしめ、左腕を掴んだ。

あまりにも速く、いや、瞬きをした時にはそこに立っていた。

「ランシュエ?」

「ほら、こんなのも避けられないのに天界へ行くの?」

魔王様は反応できなかった悔しさに、上から余裕そうに見下ろしてくる元天帝を上目で睨んだ。
だが、確かに少し疲れているのかもしれないと、ため息を吐いて「離してください」とだけ言った。

「休む?」

「はい。休憩してからにします」

そう魔王様が言うと、やっと元天帝は腰に回していた手を外し、腕を引っ張って起き上がらせた。

「それに、行く前にやる事があるよ」

元天帝は笑顔で魔王様の耳元で囁いた。

「何ですか?」

「結婚式について2人で話そう」

そう言う元天帝に、魔王様は気まずそうにし、僅かに頬を赤らめた。

そんな2人のやり取りを見て、セナとリタはため息をつき、グランは当然忌々しげだった。
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