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3章
44 エピローグ
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その後、セナとグランには元天帝について話し、多少理解してもらおうとした。
だが、リタの用意した晩食時にも空気が冷え切っていた為、説明しても無駄だったと魔王様は明後日の方向を見た。
彼ら魔族にとって相手が元天帝というのは、さほど問題ではないのだろう。
親が突然、再婚相手を連れてきた、そのような感覚に近いのかもしれない。
セナは1層の自身の館へ戻って行った。今回集まってきた群団に対する処理をしなければならない。彼らに元神官ではない事や、そんな彼らを貶す者達の洗い出し等の作業が山積みだった。
グランは泊まっていくというので部屋を用意した。
「ねぇ、どうして彼らはリタと同じように親離れできないの?」
魔王様と元天帝は、食後の食堂で2人きりで話をしていた。
彼は魔族達があまりにも魔王様に対して依存していると感じたようだった。
「仕方ありません、彼らとは長く暮らし過ぎたのです」
魔王様は「依存」と言う言葉を、元天帝が知っているとは思えなかった。何故なら彼が最も自分に対して依存していると思っているからだ。
「それに、グランは最初に創った子で、特に思い入れがあります」
魔王様は懐かしむように目を閉じ、その姿を見て元天帝は嫉妬を隠しきれなかった。
魔王様はふふっと笑うと、髪を耳にかけて、元天帝の黄金色を眺めた。
「ランシュエに似ていると思いませんか?」
「は?」
そう言われて元天帝は、不機嫌そうに顔を歪めた。
だが、それは自分も少し感じていたからだった。
魔王様しか目に入っておらず、目が合うと嬉しくなり、思わず微笑んでしまう。
自分と挙動が似ていると実感しないわけがなかった。
「きっと、当時の私は寂しくて、覚えていなくても貴方のような存在を求めてしまったのかもしれませんね」
魔王様は元天帝の頬へ右手を伸ばし、親指でそっと唇に触れた。
元天帝は魔王様の指を、軽く口に含んだ。
「レイリン、他に何か隠していることはない?」
魔王様は嘘は付かない割には、黙っている事が多すぎると元天帝は警戒していた。
「他に?」
魔王様は呟くと、「うーん」と唸りながら考えた。
「あ」
「まだ何かあるの?」
小さな声を上げる魔王様に、元天帝は少し呆れてしまった。これ以上、何か驚く事が残されているのならば卒倒してしまう。
「大したことではありません。グランは昔、私と結婚すると話していたんですよ」
魔王様は揶揄うように元天帝には言うと、元天帝は口元の魔王様の親指を歯で噛んだ。
「痛いです」
顔を顰めて魔王様は手をひいた。
「そんな話より、私達の結婚式の話をしようか」
元天帝はニコリと音が出そうな笑顔で、睨みつけてくる魔王様を見つめた。
自分からこの話題を振ったくせにと、魔王様は思わないわけでは無かったが、この話はやはり面白く無かったようだ。
「やっぱり白いドレスも着て欲しい」
「私がですか?」
「もちろん、今日のドレス姿も最高だったよ」
先ほど噛んだ手を、元天帝はもう一度口元に寄せて舐めた。
「ランシュエは、どんな服も似合いますよ」
照れ隠しに素気なく魔王様は言い、元天帝は「ありがとう」と返した。
「レイリン、私はいろんな話を聞く度に、周りの存在に嫉妬してしまう。私を安心させてくれない?」
元天帝は僅かに目を細めて、媚びるように魔王様に言った。心配なんてしていないでしょう?と魔王様は返したかったが、彼がそう言うのだから、彼の望む言葉をかけてあげてもいいだろう。
「ランシュエ、愛していますよ」
「ありがとうレイリン。私も愛しているよ」
目を閉じて、2人は口づけを交わした。
そんな食堂の外の廊下では、リタとグランが聴き耳を立てていた。
凡そ、結婚式の話辺りから聴いていた。
グランの顔は赤なのか青なのか、混じった紫なのかわからない顔色をしている。
「嫌なら聞かなければいいでしょう」
と小声で言うが、グランはそんな声は耳に入っていなかった。
「何故、あんな奴なんですか!私でなくとも、いや私であるのが1番だが!もっとレイに相応しい、献身的で懐が深く、精神が安定していて、料理も何でもこなす相手がいるはずです!」
リタは、確かにそれは元天帝とは程遠いが、グランとも真逆だと思った。そこで、リタもこの2人は似ていると感じてしまった。
「確かに、シュエイシカ様は独善的で、精神は不安定、家事は何もできませんが」
と、リタはそこで止めた。全く彼に魅力的な部分がないことに気づいてしまったのだ。何を褒めたらいいのか分からない。
「どうしました?何かあいつにあって、私にないものがありますか?」
リタは、魔王様にとって自分達は家族の域を超えないことを知っていた。
それは、自分達にはあって元天帝には無いものだ。
その家族という絆のせいでグランに見向きもしないとは言わないが、変わりようのない事実でもある。
それを、グランに突きつけるには可哀想だと思った。
「シュエイシカ様は、魔王様より強いです」
その為、適当ではあるが事実を述べておくことにした。
「私ももっと修行して、あいつを負かしてやればチャンスがあるということですか?」
リタは「無い」と思ったが、面倒になって答えるのをやめた。
だが、リタの用意した晩食時にも空気が冷え切っていた為、説明しても無駄だったと魔王様は明後日の方向を見た。
彼ら魔族にとって相手が元天帝というのは、さほど問題ではないのだろう。
親が突然、再婚相手を連れてきた、そのような感覚に近いのかもしれない。
セナは1層の自身の館へ戻って行った。今回集まってきた群団に対する処理をしなければならない。彼らに元神官ではない事や、そんな彼らを貶す者達の洗い出し等の作業が山積みだった。
グランは泊まっていくというので部屋を用意した。
「ねぇ、どうして彼らはリタと同じように親離れできないの?」
魔王様と元天帝は、食後の食堂で2人きりで話をしていた。
彼は魔族達があまりにも魔王様に対して依存していると感じたようだった。
「仕方ありません、彼らとは長く暮らし過ぎたのです」
魔王様は「依存」と言う言葉を、元天帝が知っているとは思えなかった。何故なら彼が最も自分に対して依存していると思っているからだ。
「それに、グランは最初に創った子で、特に思い入れがあります」
魔王様は懐かしむように目を閉じ、その姿を見て元天帝は嫉妬を隠しきれなかった。
魔王様はふふっと笑うと、髪を耳にかけて、元天帝の黄金色を眺めた。
「ランシュエに似ていると思いませんか?」
「は?」
そう言われて元天帝は、不機嫌そうに顔を歪めた。
だが、それは自分も少し感じていたからだった。
魔王様しか目に入っておらず、目が合うと嬉しくなり、思わず微笑んでしまう。
自分と挙動が似ていると実感しないわけがなかった。
「きっと、当時の私は寂しくて、覚えていなくても貴方のような存在を求めてしまったのかもしれませんね」
魔王様は元天帝の頬へ右手を伸ばし、親指でそっと唇に触れた。
元天帝は魔王様の指を、軽く口に含んだ。
「レイリン、他に何か隠していることはない?」
魔王様は嘘は付かない割には、黙っている事が多すぎると元天帝は警戒していた。
「他に?」
魔王様は呟くと、「うーん」と唸りながら考えた。
「あ」
「まだ何かあるの?」
小さな声を上げる魔王様に、元天帝は少し呆れてしまった。これ以上、何か驚く事が残されているのならば卒倒してしまう。
「大したことではありません。グランは昔、私と結婚すると話していたんですよ」
魔王様は揶揄うように元天帝には言うと、元天帝は口元の魔王様の親指を歯で噛んだ。
「痛いです」
顔を顰めて魔王様は手をひいた。
「そんな話より、私達の結婚式の話をしようか」
元天帝はニコリと音が出そうな笑顔で、睨みつけてくる魔王様を見つめた。
自分からこの話題を振ったくせにと、魔王様は思わないわけでは無かったが、この話はやはり面白く無かったようだ。
「やっぱり白いドレスも着て欲しい」
「私がですか?」
「もちろん、今日のドレス姿も最高だったよ」
先ほど噛んだ手を、元天帝はもう一度口元に寄せて舐めた。
「ランシュエは、どんな服も似合いますよ」
照れ隠しに素気なく魔王様は言い、元天帝は「ありがとう」と返した。
「レイリン、私はいろんな話を聞く度に、周りの存在に嫉妬してしまう。私を安心させてくれない?」
元天帝は僅かに目を細めて、媚びるように魔王様に言った。心配なんてしていないでしょう?と魔王様は返したかったが、彼がそう言うのだから、彼の望む言葉をかけてあげてもいいだろう。
「ランシュエ、愛していますよ」
「ありがとうレイリン。私も愛しているよ」
目を閉じて、2人は口づけを交わした。
そんな食堂の外の廊下では、リタとグランが聴き耳を立てていた。
凡そ、結婚式の話辺りから聴いていた。
グランの顔は赤なのか青なのか、混じった紫なのかわからない顔色をしている。
「嫌なら聞かなければいいでしょう」
と小声で言うが、グランはそんな声は耳に入っていなかった。
「何故、あんな奴なんですか!私でなくとも、いや私であるのが1番だが!もっとレイに相応しい、献身的で懐が深く、精神が安定していて、料理も何でもこなす相手がいるはずです!」
リタは、確かにそれは元天帝とは程遠いが、グランとも真逆だと思った。そこで、リタもこの2人は似ていると感じてしまった。
「確かに、シュエイシカ様は独善的で、精神は不安定、家事は何もできませんが」
と、リタはそこで止めた。全く彼に魅力的な部分がないことに気づいてしまったのだ。何を褒めたらいいのか分からない。
「どうしました?何かあいつにあって、私にないものがありますか?」
リタは、魔王様にとって自分達は家族の域を超えないことを知っていた。
それは、自分達にはあって元天帝には無いものだ。
その家族という絆のせいでグランに見向きもしないとは言わないが、変わりようのない事実でもある。
それを、グランに突きつけるには可哀想だと思った。
「シュエイシカ様は、魔王様より強いです」
その為、適当ではあるが事実を述べておくことにした。
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リタは「無い」と思ったが、面倒になって答えるのをやめた。
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