魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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4章

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翌日、リタの用意した朝食を食べ、魔王様の調子はすこぶる良かった。

「レイリン、手は出さないから付いていって良い?」

そう言ったのは元天帝だ。

魔族の群団に向かう時も彼は付いて来た。連れていかなければ武力行使で止められるということは、昨日の行為でも分かっていた。

「……姿を隠してくださいね」

魔王様は、しぶしぶ同行を許可した。





魔族の見送りがあり、魔王様と元天帝は天界の近くで浮かんでいた。

「レイリン、無理はしないでね」

「私を心配しているのですか?」

魔王様は隣にいる元天帝に微笑んだ。
いくらナンタラードが、似非宝珠の力で強くなったとはいえ、魔王様は負けるとは思えなかったし、手を抜くような事もしない。

「事が済んだら結婚式だなんて、良くないことが起きる前触れとしか思えない」

何か良いことの前には悪いことが起こると言うのか?と魔王様は考えた。

「レイリン、私は本当にこんなことどうでも良いと思っている。逃げ出すわけじゃないけれど、レイリンと2人で静かに暮らせればそれで良い。ただ、レイリンが放っておかない事も理解している」

元天帝は、彼なりに悩んでいるようだった。数千年を経てやっと魔王様を手に入れることができたのに、何かと騒がしい日々を送っており、2人で過ごす静かな時間があまり取れていない。

「そうですね、これが終わったら2人で旅行にでも行きましょう」

「静かなところで2人きりで暮らすのもいいね」

魔王様は「それも良いですね」と笑顔で返し、いつだったかそんな話をした記憶があると思った。

元天帝は少し考えるような魔王様を見て微笑んだ。
自分は魔王様との会話を全て記憶しているが、やはり魔王様はあまり覚えていないようだった。





天界へはいつも通り、結界を破って入ることにした。

だがその日は侵入しても静かだった。

「鐘が鳴りませんね」

元天帝は魔王様にしか見えないように隠蔽術を使っている。そしてその何もない空間に向かって魔王様は声をかけた。

「ナンタラードが止めているのでしょうか?これは、誘い出されている気がしますね」

「レイリン、警戒してね」

魔王様のそばによって小さな声で元天帝は言った。

「分かっていますよ」

天帝の宮殿へと向かうが、辺りは特に変わった様子はなく、何かを警戒しているようにも見えなかった。

「この宮殿の周りの庭は、相変わらずですね」

相変わらず誰も整備していない、そう魔王様は言った。元天帝は肩をすくめた。

「神官で庭いじりを趣味にするのはレイリンぐらいだよ」

「では何故このような庭を作ったのですか?」

「当時の私は、レイリンのことを忘れていたからね」

魔王様は答えになっていないと思ったが、もしかすると自分を思い出すために講じた策の1つなのかもしれないと考えた。

魔王様は宮殿の扉の前に立って、ドアノッカーに目をやった。ノックをするか悩んだが、どうせ結界を破って侵入しているのだから構わないかと、そのまま扉を開けた。

「来たか」

朱色の目を輝かせて不敵な笑みを見せるナンタラードは、天帝の椅子に掛けていた。魔王様は同じように笑みを返して言った。

「待たせてすみません」

魔王様はナンタラードについても思い出したことがある。だからこそ、何故彼が自分を憎んでいるのか分からなかった。

「貴方とは、ゆっくり一度お話をしたいと思っていました」

コツコツと、床を鳴らしながら魔王様はゆっくりと椅子へ近づく。
ナンタラードも立ち上がり、数歩だけ前へ出た。

「何故、ギアナンはそれ程までに私の事を憎んでいるのですか?」

魔王様がナンタラードのことをそう呼ぶと、本人は至極驚いたようだった。

「私の事をそう呼ぶとは……そうか、魔王も思い出したみたいだな」

冷ややかな笑みを浮かべ、ナンタラードは剣を抜き、金色の光を纏わせた。

いくら弱いとは言え、宝珠の力は侮れない。魔王様は右手に力を入れた。
ナンタラードは顔を歪めて叫んだ。

「私はリンドハイム様の補佐官としてよく働いてきた。なのにシュエイシカ様は私を一向に四神官へ上げず、下官へ降格しようとすらした!」

魔王様は眉を顰めた。
神官とは元々、四神官のことを指しており、それ以外は補佐官と、下官に分かれていた。
だが、下官という呼び方を好まない者たちも多く、いつからか全員神官と呼ぶようになっていた。

下官への降格と言うのは沽券に関わる事だろう。

魔王様は何故元天帝が、それほどナンタラードに対しての扱いが冷たかったのか分からなかった。

「だから私は、何としても四神官へ成り上がりたかった!そして、私が降格する原因となったリンドハイム様と、シュエイシカ様に復讐を果たしたかった!」

ナンタラードは薄ら笑いを浮かべ、剣を構えて魔王様へ近づいてくる。

「貴方があのような罪さえ犯さなければ!」

「待ってください!何故ギアナンは私の事を覚えているのですか?」

魔王様は自分で言って、自分で答えを導き出した。

彼は宝珠の力に触れている。それならば自分と同様に思い出していてもおかしくない。

だが、この憎しみは数日のものではない。
触れる前、元天帝をその座から引き下ろす時から魔王様の事を憎んでいるようにも感じた。

「私は、自分が補佐官でありながら上官が居ないことに疑問を持って調べた。上官がいないということは、死んだか、追放されたか。あらゆる文書を探しても、手がかりになるようなものは無かった。ただ1つを除いて」

そう言うと、ナンタラードは懐から1つの札のようなものを出した。

「誰の趣味だか知らないが、私のいた宮殿には庭があった。この札に気づいた時には既に全て枯れていたけどな」

その札は、紅い花の挟まれた栞だった。

「この札には少しの神力が使われていて、これ以上劣化しないようになっていた。もしかしたら手掛かりになるかもしれないと思って探したら、魔界に同じ花が咲いていた」

「それで気づいた」とナンタラードは続けた。
確かに自分が住んでいたログハウスに、この花が植っていた記憶はある。そして、その花はどこにも咲いていない、魔王様が魔力で作った花だった。

まさかこんなところから自分の身元が割れるとは思いもしなかった。
ナンタラードは過去を思い出すように、僅かに顎を上げて目を閉じた。

「本当はリンドハイム様とシュエイシカ様が戦いあって欲しくて魔王様にけし掛けたが、上手くいかなかった」

魔王様はいつそのように仕組まれたか、全く身に覚えはなかった。

「四神官になったコクレアタ様にも助言をしたが、勝手に死んでしまったし」

「コクレアタ様が死んだ?」

これには魔王様も口を挟んでしまった。

「リンドハイム様が殺した後、コクレアタ様は神官として転生した。さすが元四神官、力も強かった為すぐに同様の地位まで登ったよ。私を差し置いてな。そしてコクレアタ様は勝手に自殺をして、次は今の……サイとして生きている」

魔王様は顔を顰める。それでサイもナンタラードの事を恨んでいるのか?

「そう簡単な話ではないそうですよ」

ナンタラードの独白を遮って、宮殿に3つの影が入ってきた。

サイとジオレライとジークサイスだった。

「どうやら役者が揃ったようですね」

魔王様は後ろを向いて彼らに道を開け、ナンタラードは構えていた剣を彼らへ向けた。

サイは走って魔王様に詰め寄ると叫び始めた。

「シュエイシカ様はどこだ!」

なるほど、彼らにとって役者は揃っていなかったようだった。
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