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4章
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魔王様と元天帝は宮殿から出ると、何処にサイは行ってしまったのかと相談を始めた。
「天界が落ちずに対処されたという事は、私たちがここにいる事に彼が気づいてもおかしくありません。ランシュエはどう思いますか?」
元天帝は右手を顎に当てて考える素振りを見せた。
「そうだね、私も彼は気づいていると思うよ。でも姿を現さないということは何か理由がある筈だ」
魔王様と元天帝は、天界にいても仕方がないと一旦結界の外に出た。
「何か彼を捜す方法はありませんか?」
「私を囮にするのが最善だと思うけどね」
サイは元天帝を捜しに何処かへ行ったのだと思っていた。それなのに姿を現さないということは、この事実を知らない何処かにいるのだろうか?屋内か、魔界か?だが魔王様は魔界には入っていないと思っていた。
ともすれば、サイが行けそうな場所は?魔王様は1つの場所に心当たりがあった。
「行きましょう。彼は魔王城にいるかもしれない」
元天帝は頷き、降りていく魔王様に続いた。
魔王城の扉の前まで来ると、魔王様は元天帝へと声を掛けた。
「ランシュエはどうしますか?」
「私も行くよ」
魔王様は首肯して、扉を開けた。
もう元天帝に付いて来るなとは言わなかった。
そこにはやはりというべきか、魔王様の椅子の前に2人の影があった。
リタは橙色の腕輪で両手を前で拘束されて膝をついており、そのリタの首にサイは剣を当てていた。
「遅かったな」
サイの瞳には、既に愛する元天帝よりも、憎むべき相手である魔王様が映っていた。
「やっぱり死んでいなかったし、シュエイシカ様も一緒にいたようだ」
サイは四神官時代を思い出している、それ以上に、もしかしたら思い出していることが多いのかも知れない。
サイは自嘲気味に笑いながら話し始めた。
「何故、シュエイシカ様が魔王様を選ぶのか私には分からない。私の方がシュエイシカ様を想い、愛している時間は長いというのに。仕えて尽くして、全て貴方の為に時間を費やしてきたというのに」
彼は、自分が居なかった天界の時の話もしているのだろうと魔王様は思った。
四神官の愛情がこれ程までに深いとは、恐ろしく思ったが、自分の隣にいる存在の事を忘れたわけではなかった。
「ランシュエ、私が応えなければ貴方もこのようになっていたのでしょうか?」
魔王様は独り言のように、元天帝に聞こえるぐらいの声で呟いた。
元天帝は目を細めて、魔王様を見つめる。彼にとって今のサイの状況は他人事ではないのかもしれないと、魔王様は思った。
「どうだろうか。私はレイリンが応えてくれなければ死んでも構わないと思っていたけれど、その可能性は低いと思っていたし」
「物騒な事を言いますね」
「事実だよ」
サイを放置して2人が見つめ合って話していれば、当然サイは面白くないに決まってる。
「何をこそこそと2人で話している?魔王様、貴方はこの女が大切だと言っていたはずだが?」
リタの首筋に当てられている剣に力が入った。
あまり彼を刺激するべきではないと、魔王様は冷静にサイに話しかけた。
「貴方はリタを人質にとって、何が目的ですか?」
サイの目的は、元天帝の記憶の消去だと思っていたが、それにリタがどう関係するのだろうか?
「シュエイシカ様の弱点が魔王様ならば、魔王様の弱点を突くまでだ」
なるほどと、元天帝は納得した。自分にとってリタをどう扱われようが構わないが、魔王様はそうではないだろう。
「私は魔王様を憎んではいるが、シュエイシカ様さえ手に入ればそれで構わないと思っている!」
サイは泣き笑いのような表情を浮かべて、歌うように語り始めた。
「最初は、ただただ氷のように澄んだ虹彩で私を見つめてきた。その目が瞼で遮られる度に、鋭く冷えていったが、時々雪解けのように暖かい日差しが差し込むんだ」
魔王様と元天帝は呆けてしまい、「身に覚えが全くない」と元天帝は呟いた。
「そして、その日差しが私を照らし、その艶やかな髪から漂ってくる風に包まれ、微睡のような夢に沈んでしまう」
元天帝は聞いていられないようで、眉を顰めた。
魔王様もこれには苦笑いを浮かべそうになるが、サイを刺激してはいけないと必死に堪えた。
「その夢の中で、ランシュエ様が私を呼び、私がそばへ仕えると、暖かい眼差しで見つめてくれる。私はその時間がとても好きで、一生そこにいたいとすら思えた」
間近で聞いているリタも、必死に堪えているのがその無表情からも読み取れた。
「私はシュエイシカ様に見つめられるだけで、これほど幸福になれるなんて、なんと祝福された魂と言えようか」
魔王様は言いたいことは山ほどあったが、なるほど、これは他人から何か言われたところでどうにかなる問題ではないと思った。
そして元天帝が言っていた、ストーカーというのも間違っていなかったのだと、心の中で元天帝に謝った。
そしてそこに、空気の読めない場違いな声が突然響き、サイの歌を邪魔してしまった。
「天界が落ちずに対処されたという事は、私たちがここにいる事に彼が気づいてもおかしくありません。ランシュエはどう思いますか?」
元天帝は右手を顎に当てて考える素振りを見せた。
「そうだね、私も彼は気づいていると思うよ。でも姿を現さないということは何か理由がある筈だ」
魔王様と元天帝は、天界にいても仕方がないと一旦結界の外に出た。
「何か彼を捜す方法はありませんか?」
「私を囮にするのが最善だと思うけどね」
サイは元天帝を捜しに何処かへ行ったのだと思っていた。それなのに姿を現さないということは、この事実を知らない何処かにいるのだろうか?屋内か、魔界か?だが魔王様は魔界には入っていないと思っていた。
ともすれば、サイが行けそうな場所は?魔王様は1つの場所に心当たりがあった。
「行きましょう。彼は魔王城にいるかもしれない」
元天帝は頷き、降りていく魔王様に続いた。
魔王城の扉の前まで来ると、魔王様は元天帝へと声を掛けた。
「ランシュエはどうしますか?」
「私も行くよ」
魔王様は首肯して、扉を開けた。
もう元天帝に付いて来るなとは言わなかった。
そこにはやはりというべきか、魔王様の椅子の前に2人の影があった。
リタは橙色の腕輪で両手を前で拘束されて膝をついており、そのリタの首にサイは剣を当てていた。
「遅かったな」
サイの瞳には、既に愛する元天帝よりも、憎むべき相手である魔王様が映っていた。
「やっぱり死んでいなかったし、シュエイシカ様も一緒にいたようだ」
サイは四神官時代を思い出している、それ以上に、もしかしたら思い出していることが多いのかも知れない。
サイは自嘲気味に笑いながら話し始めた。
「何故、シュエイシカ様が魔王様を選ぶのか私には分からない。私の方がシュエイシカ様を想い、愛している時間は長いというのに。仕えて尽くして、全て貴方の為に時間を費やしてきたというのに」
彼は、自分が居なかった天界の時の話もしているのだろうと魔王様は思った。
四神官の愛情がこれ程までに深いとは、恐ろしく思ったが、自分の隣にいる存在の事を忘れたわけではなかった。
「ランシュエ、私が応えなければ貴方もこのようになっていたのでしょうか?」
魔王様は独り言のように、元天帝に聞こえるぐらいの声で呟いた。
元天帝は目を細めて、魔王様を見つめる。彼にとって今のサイの状況は他人事ではないのかもしれないと、魔王様は思った。
「どうだろうか。私はレイリンが応えてくれなければ死んでも構わないと思っていたけれど、その可能性は低いと思っていたし」
「物騒な事を言いますね」
「事実だよ」
サイを放置して2人が見つめ合って話していれば、当然サイは面白くないに決まってる。
「何をこそこそと2人で話している?魔王様、貴方はこの女が大切だと言っていたはずだが?」
リタの首筋に当てられている剣に力が入った。
あまり彼を刺激するべきではないと、魔王様は冷静にサイに話しかけた。
「貴方はリタを人質にとって、何が目的ですか?」
サイの目的は、元天帝の記憶の消去だと思っていたが、それにリタがどう関係するのだろうか?
「シュエイシカ様の弱点が魔王様ならば、魔王様の弱点を突くまでだ」
なるほどと、元天帝は納得した。自分にとってリタをどう扱われようが構わないが、魔王様はそうではないだろう。
「私は魔王様を憎んではいるが、シュエイシカ様さえ手に入ればそれで構わないと思っている!」
サイは泣き笑いのような表情を浮かべて、歌うように語り始めた。
「最初は、ただただ氷のように澄んだ虹彩で私を見つめてきた。その目が瞼で遮られる度に、鋭く冷えていったが、時々雪解けのように暖かい日差しが差し込むんだ」
魔王様と元天帝は呆けてしまい、「身に覚えが全くない」と元天帝は呟いた。
「そして、その日差しが私を照らし、その艶やかな髪から漂ってくる風に包まれ、微睡のような夢に沈んでしまう」
元天帝は聞いていられないようで、眉を顰めた。
魔王様もこれには苦笑いを浮かべそうになるが、サイを刺激してはいけないと必死に堪えた。
「その夢の中で、ランシュエ様が私を呼び、私がそばへ仕えると、暖かい眼差しで見つめてくれる。私はその時間がとても好きで、一生そこにいたいとすら思えた」
間近で聞いているリタも、必死に堪えているのがその無表情からも読み取れた。
「私はシュエイシカ様に見つめられるだけで、これほど幸福になれるなんて、なんと祝福された魂と言えようか」
魔王様は言いたいことは山ほどあったが、なるほど、これは他人から何か言われたところでどうにかなる問題ではないと思った。
そして元天帝が言っていた、ストーカーというのも間違っていなかったのだと、心の中で元天帝に謝った。
そしてそこに、空気の読めない場違いな声が突然響き、サイの歌を邪魔してしまった。
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